第35話 それならこんな騒ぎになり続けたりしない

10月27日に上げた幕間との順番でこちらが上に配置されるようになってたせいで、更新順が判りづらい感じになっていたので、ちょっと順番を入れ替えました。

ご迷惑をおかけした方はすみません。

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「も、もうだいじょうぶかな……」


 若干へろへろに疲れた様子を見せながら、優奈が食堂の端っこの席に座り込む。それを琴音がモンスターの引っかき傷がシンボルマークな缶のエナジードリンクを突っ込んだストローで飲みながら「お疲れさん」と眺めてきていた。ついでに優奈の背後に手をしっしっと振って他の生徒がこっちに来るのを牽制してくれている。


「あんたも大変ねぇ。まさか昼休みになった途端に上級生や下級生までもがあんたを目指して教室に雪崩れ込んでくるだなんてねー」


 とりあえずこれ買っといてあげたから食べなさいな、と、琴音があんぱんと紙パックの牛乳を差し出してくれた。優奈は「うぅ、ありがとぉー」とそれを受け取りながら食堂の時計に目を向ける。午後の授業の予鈴がなるまであと5分程度しか残っていなかった。


「で、とりあえず全部断ったの。それともだれかと組むのを受け入れたわけ?」


「そんなの全部断ったに決まってるよぉ。今の状態じゃ、もしいまさら言ってきた誰かと組むの受け入れたりしたら、そっちの方がまた面倒くさいことになるだけでしょー」


 もきゅもきゅと少しずつあんぱんを口にしながら、優奈が琴音の問いかけに返答する。実際、いまさら上級生だろうが同級生だろうが下級生だろうが、琴音以外のだれかと組むことを了承したりすれば「なんでアイツだけ」と、これまで断ってきた連中が騒ぎたててくるだけなのは目に見えていた。


「ま、それはそうでしょうね。いまあんたに声をかけてきてる連中なんて、そのほぼ全部があんたが配信で見せた力だけが目的であんた自身のことを見てじゃないでしょうし。もしくはあんた経由でスカーレットさんたちとかあそこの探索配信事務所F u n n y C o l o rにコネを作りたいって連中でしょうし」


 琴音も優奈の意見に同意なのかそう言って苦笑している。そんな琴音が「あ、これか」とスマホの画面を優奈に見せてきた。


「あんた先日、あの後スカーレットの人らとカラオケ行ったんでしょ。どうもその時のことをパパラッチされてたみたいねー」


 そう言って琴音が優奈に見せてきたスマホの画面には、優奈とりんねと千鶴がカラオケ店に入っていく場面の写真が載った、どこかのだれかによるツミート画面が表示されていた。


「あー、これでかぁ……でも私、おりんさんたちと個人的に友達になってるってだけで、別にあそこの事務所に入ったりしたとかじゃないのにねー」


「でも向こうの事務所の人からは声かけられたんじゃなかったっけ?」


「んー、スカーレットの人たちのマネージャーさんって人とはたしかに会ったことあるよ。でも、それはアカネさんたちを助けたことへの感謝とあの時の騒動の謝罪をしてもらっただけで事務所への声掛けは無かったかなー」


 おりんさんからは直接謝罪を受けたときに勧誘はたしかにされたけどさ、と優奈は続ける。そして食べ終えたあんぱんの包みと飲み終えた紙パックをくしゃっと潰して「ごちそうさまでした」と手を合わせた。


「ふーん。じゃああっちの事務所の人たちはまともな対応してくれてたのねぇ。そこら辺のとこだったらあんたに声かけてそうだけど、謝罪の場だからとそこらへんについてはちゃんと自重しただなんて、さすが大手なだけはあるわ」


「その後はアカネさんたちのマネージャーさんとは会ってないからねー。まぁ、単に琴音ちゃんとか他の人らが私のことを買いかぶりすぎてるだけで、ちゃんとした大手事務所さんからしてみればそこまで相手にするほどの価値を見出してないだけじゃないの?」


「それならこんな騒ぎになり続けたりしないってーの」


 まったく、この子はもう……と呆れた様子を琴音が見せる。そのタイミングで昼休み終了を告げる予鈴のチャイムが鳴ったので優奈と琴音は席を立って教室へと向かい、廊下を歩き始める。


「次の時間は国語だっけ、宿題はあったかしら」


「今週は無かったはずだよー。その次は探索者実技だよね」


 探索者高校のカリキュラムは他の高校と同じく五教科や体育、家庭科や芸術などの基礎科目に加え、ダンジョン探索に関わる実技を教える探索実技が必履修科目として定められている。その他にも自由選択科目で経済や経営学、簿記や第二外国語などの探索者としてのキャリアアップを見越した授業を選択して取ることができていた。

 なお、他にも特徴的な自由選択科目として探索実践という実際にダンジョン探索を行うことで単位認定してくれる科目が存在しており、これはわりと多くの生徒から人気が高かったりする。


「たしか今日は魔術実技のはずよねぇ。あたしは探索者サポート志望だから実技はあんま気にしないでいいから楽でいいわ」


「あー、魔術実技ってことは魔術オタクな真奈美先生かぁ」


「真奈美ちゃんなら、あんたが配信で見せたのとかむっちゃ興味持ってそうよねぇ。特に輪唱と循環詠唱のバフだっけ、あの組み合わせで魔力が続く限り同時多発発動させつづけたやつとか」


 琴音が何気なしにそう言ったことでそのことの危険性に気づき、それまでのほほんと談笑しながら廊下を歩いていた両者の足がピタッと停止する。

 そしてお互いにジト目で見合わせた視線が絡み合い、互いに考えていることが同じであると確信したことで、二人は同時に口を開いた。


「「――ぜったいめんどくさくなるやつじゃん!」」


 思わず発した優奈と琴音のハモった声は、けっこう大きな声となって廊下に響き渡っていくのだった。


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