第27話 A級探索者 伊集院 誠也


「この先のコロッセウムで彼女が襲われているんだね?」


<はい、そうです! 突然現れたイレギュラーモンスター2体に彼女が襲われてます、助けてあげてください!!>


「はははっ、任せたまえ。この『迅雷の双剣』とも呼ばれるA級探索者、伊集院 誠也いじゅういん せいやとその仲間たちが彼女の窮地を見事に救ってあげようじゃないか!」


 配信用ドローンのカメラに向かって、ダンジョンを疾走しながら一人の男がキラン、と白い歯を輝かせて視聴者へと向けてそう宣言する。黒いコートを身に纏い両の手にそれぞれ白と黒の片手剣を握った整った顔立ちの好青年といった様子の伊集院とそのパーティーこそが荒川ダンジョン深層入口に偶然にも滞在しており、優奈の危機への救援要請を視聴者から受けて駆けつけようとしていた。


<キャー、さすが誠也さま!カッコイイーーー!!>

<さすが誠也さま、また未熟な探索者の危機を救ってあげるのね!>

<誠也さまにかかれば深層モンスターなんて目じゃないもの!今回の活躍も見逃せないわ!!>

<また新しい誠也さまに惚れる女が生まれるだろうことは気にくわないけど、誠也さまの活躍も観てみたいっ、あぁ、この相反する感情が苦しい~~~>

<『10000円』さすが誠也さまぁ。危険でしょうけど、がんばってくださぁい>


「子猫ちゃんたち、応援ありがとう!

 おお、スパチャまでありがとう!探索者の危機なんて本当は無い方がいいんだけどね……だれかが危機に陥っているのを知ったのであれば、人としていつもの通り助けに行かないわけにはいかないさ。なぁにA級探索者であるボクがすぐにそんなイレギュラーなんてすぐに倒してみせるから期待しててね!!」


 駆けながらもそう視聴者たちからのコメントに返事をしていた伊集院は、そう力強く宣言すると、背後に居るパーティーメンバーたちへと視線を向けてコクリと頷く。


「よし、窮地に陥っている少女を助けるために、ボクは一足先に現場へと向かうことにする!

 キミたちもなるべく早く到着できるように頑張ってくれ!!」


 そう言ってさらに勢いよく伊集院は駆けだし、彼の背後に居た者たちは「「応っ!」」という声でもって彼に応じた。


 そうして速度を上げた伊集院がコロッセウムの出入り口に到着した時、コロッセウム全体を揺らすほどの衝撃音と共にモンスターによるものだろう、ダンジョンに響き渡るかのような大きな咆哮が内部から響き渡ってくる。

 その咆哮を聞き、伊集院はさらに急いだ様子で暗い選手入場通路を駆け抜けて光指す闘技場の広場へとたどり着いた。真っ暗に近かった通路の暗さとの激しい明暗差による視覚の急激な変化に目を少し眩ませながら、伊集院が声を張り上げる。


「イレギュラーに襲われていると聞いてやってきた!

 無事か!!」


 そう彼が声をかけた時に、やっと明るさに慣れてきた彼の目に入ってきた光景は――――闘技場の中央で大地から伸び上がった一本の杭によって身体の中心を貫かれ、縦に重ねられた焼き鳥の具のようになってピクピクとその身体を震わせている2体の深層モンスターグラットンの姿と、その彼らを貫く杭の先端に腰かけて足をぶらぶらとさせながら、伊集院のことを上から見下ろしてきている、イレギュラーに襲われているはずの長い黒髪をした冷たい目でこちらを見据える少女の姿だった。


 危機に陥っているとばかり思っていたはずの小柄な少女が、2体の深層モンスターをかすり傷ひとつなく殲滅し、それどころか今更やってきたのかとばかりに冷たい視線で伊集院のことを上から見下ろしている。あんまりといえばあんまりなその光景に、伊集院は思わず唖然とした表情となって口を半開きにして困惑してしまった。


 そんな困惑している伊集院に対し、眼前の少女が最初にしてきた返答は、


「ええ、完全無欠に無事ですよ」


という、感情が何一つ込められていない坦々とした冷たい印象のものである。


 あまりにも想定外な状況に、伊集院は呆然としながらも「そ、そうか……それは、その、何よりだ…‥」という言葉しか返すことができない。


<何あの態度、ムカツクー>

<ちょっとかわいいからってなんか調子乗ってない?>

<せっかく誠也さまが救助に駆けつけてくれたっていうのに、そりゃ無事だったんだとしても普通はまず感謝の言葉を述べるべきでしょ!>

<そもそもなんで誠也さまのことを見下ろしてんのよ、あのメスガキ!>


 そんな少女の姿と態度に、一斉に伊集院のファンたちから怒りのコメントが撒き散らされる。その間に彼女の方も伊集院のことについて彼女の配信の視聴者からコメントで説明を受けていたようではあった。


 そして、その説明を「なるほどなるほど」と聞いて伊集院のことを理解したらしき少女――優奈――が、その後に彼へと投げかけてきた言葉に、さらに場が凍り付いた。


「あぁ、なるほど。常習犯の方だったんですね」


 そう言って再度伊集院のことを見下ろしてくる優奈の視線には、彼のことをこれ以上ないほどに軽蔑しているということがありありと伝わってくるかのような絶対零度の冷やかさが備えられていた。


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