第11話 まさかの登場
「ええっと、なんでこんなに観に来てくださっているのかはちょっとよくわかりませんが、その、ありがとうございます。それでは話を続けさせていただきますね。
それで、えーっと……今日の配信をさせていただいている目的なんですが、まずは皆さんも多分知っているとは思うから来てくださっているのだと思うのですが、私のことがいまネット上でいろいろ話題になっているということについてです」
そこまで言ったところで優菜は一度言葉を止め、自分の胸元に向けて右の手のひらの指を揃えて指し示した。
「私は今朝になって友人から教えられて、自分がネット上でいろいろと話題になっているということを知りました。このことについての私からのいくつかのお願いと表明をさせていただきたく思っています。なので、最後までお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします」
そうして再度、軽く頭を下げる。コメントがいくつかきているが、いまはあえて無視をする。琴音からもこの時については下手に反応するとこちらで状況をコントロールできなくなるから、必ず冒頭でこの発言し、その時は視聴者のコメントについてはスルーしろと指導されていた。
その上で一拍おいて頭を上げると、優奈から視聴者への要求をハッキリと、強く意志を込めて断言する形で伝える。
「まず、いまこの配信を観に来ていただいている皆さんへのお願い、そしてこの後に配信を見ていただいた方へのお願いとなります。いま、Tmitterやネット掲示板などで私のことがいろいろと噂されているということは、ある程度ですが私も把握しています。その中には私の学校のことなど個人情報がどんどん勝手に流されてたりしていて、さらにはデマや根も葉もないことまでいろいろ書き込まれているということも、全部じゃないですが把握しています。他にも私を盗撮したっぽい写真などがネットに挙げられてたりしているのも確認しています。……正直言ってどこまでエスカレートされるのかわからず、怖いし悲しいです。だから、そういうことはしてほしくありません。止めてください」
ここでこのことを強く主張しなければ、いま娯楽感覚で暴走している者たちを抑えられないことになるだろう、と琴音からは忠告されている。
「もし、この配信後もそういったことを続けられた場合は、警察にも相談しますし、あまりにも酷い場合は法的手段などでの対応も行わさせていただきます。特に生成AIなどを使って卑猥な画像加工だとかされた場合は絶対に報復させていただきます。
私、まだ16歳ですので変なことはしたことないですし、そもそもこれまで誰かと付き合ったりしたこともありません。なので、そういう画像とかを作って撒いたりした場合は未成年者なんとか条例だったりとかに引っかかると思いますから、やった人方はたぶん大変なことになると思いますよ」
にこっと笑顔で最後はレンズの向こうの視聴者たちへと語りかける。笑顔とは本来攻撃的なものだ、とか何かで見かけたことがあったし琴音からも怒ったり悲しい振りをするより笑顔で言い切った方が牽制になるとアドバイスされていたのだ。
<お、おぅ>
<そやな、暴走しすぎてたわ……>
<笑顔カワイイ>
<まぁなぁ……盗撮うpはやりすぎとは思ってたわ>
<速報:ゆーなちゃん16歳>
<未成年の女の子だもんな、怖いよな>
<正直すまんかったorz>
<ごめんなさい>
ちらっとコメント欄に目線を向けると、視聴者たちからの優奈への同意や謝罪のコメントなどがちらほら書き込まれている。良かった、と優奈は内心で安堵した。
「同様に、今後、私に関することで突撃取材だとかそういうのをされるのも全て事前に拒否していることを宣言しておきます。個人によるものにしろ組織・企業・団体等によるものにしろ、全て、です。特に配信系で居るという『凸してみた』とかいう系のは全て拒否させていただきますし、された場合は全て法的措置含め全力で対応しますので、最初からやらないでくださいね。まぁ、これに関してはそもそもしてくるような人とかは居ないと思いますが、念のため、ということで宣言させていただきました」
これも琴音から絶対に宣言しとけ、と言われていたことだ。自分なんかにしてくることなんてないでしょ?と優奈は琴音に言ったのだが、その時は「認識が甘いっ!」と怒られてしまった。
「実際問題、今日も好き勝手に情報が晒されていますよね。そのため、今後の身の危険やそういう突撃だとかがされないうちにこうしてすぐに配信した方がいい、と友達に助言してもらったのでこの配信をすることにしたんです。そのため、今日は一度学校まで行きましたが早退して配信しています。それにこうして学校まで特定されての騒ぎになっちゃってますと、私だけじゃなくて同じ学校に通う他の生徒とかにも迷惑がかかっちゃうかもしれません。他の人に迷惑をかけたくないですし、みなさん、どうかよろしくお願いします」
ぺこっ、と優奈が頭を下げてしばらくしてから顔をあげると、コメント欄にはごめんや了解といった言葉が並ぶ。まぁ、一部そんなんで学校サボったのかよとかいう声もあったが、そういうのが少数出てくるのは予想の範疇だ。万人が優奈の味方や肯定者になってくれるとは優奈も琴音も思ってはいない。いまは大多数を説得し味方にすることができればそれで良いのだ。
<騒がせてごめんなさい、お礼が言いたかっただけでこんな騒ぎになって迷惑をかけるつもりはありませんでした:アカネ@スカーレット>
そんな中、ポンッと出てきたコメントを見つけて、優奈はおもわず目をぱちくりとさせてしまった。
その直後、
<えっ、アカネちゃん!?>
<わ、ほんとだ、アカネちゃんがコメントしてるっ>
<FunnyColorの公式アカだ。アカネちゃん本人で間違いないっ>
と、しばらくの間、昨日ダンジョンで助けたスカーレットというパーティーのアカネという探索者本人が優奈の配信に登場したとのことに反応した視聴者たちのコメントが嵐のようにすさまじい書き込みとなってコメント欄を流れていく。
「あ、えっと……アカネさん、でいいんですよね。いえ、あなたに悪意があったとかでないのはわかってますので謝らなくてもだいじょうぶです。むしろ、昨日は声をかけずに途中で去っていっちゃってこちらこそすみませんでした」
ある程度時間が経過し、コメント欄の勢いが落ち着いたところで優菜がスカーレットのアカネに対してそう答えると、すぐにコメント欄に反応が返ってくる。
<いえ、昨日はこっちこそ窮地を救っていただきましてありがとうございました!おかげで無事に生き延びることができました!!ありがとうございます:アカネ@スカーレット>
<あぶないところを助けていただきありがとうございます。そしてすぐに感謝を伝えていなくてすみませんでした。:ハル@スカーレット>
<死にかけてたのを助けてくれたって聞いて、後で録画で自分自身のヤバい姿を見て思わず悲鳴あげちゃったよー。あんな状態だったのにいまは怪我する前より元気にピンピンとしてるよ!あのバフとかもすごかった!!ありがとー♡:おりん@スカーレット>
<あの、ほんとうにありがとうございました。それなのに軽率なことをしてご迷惑をおかけしてすみません。おりんちゃんを助けてくれたポーションの代金やイレギュラーの素材の売却益なども後日お渡ししたいと、スカーレットのみんなで話し合ってます:ちづりん@スカーレット>
優奈が辻支援だからとさっさといなくなってすみません、と謝罪すると、今度はスカーレットの面々がそろってコメント欄に現れ、コメント欄を通して互いに謝罪しあう。その様子を見た視聴者たちが、スカーレットが全員この配信を見ているということでさらに盛り上がっている。たぶん閲覧者数がさらに加速していそうだが、気にしない。気にしない方が精神衛生上、楽そうだ。
「ポーションは緊急救命だったのですから気にしないでください。それにアサルト・ワイバーンの素材のこととかはだいじょうぶです。変に受け取ると探索者法で禁じられている寄生禁止条項にひっかかるかもしれないのですし」
お金には特に困っていないですし、高校生である自分のお小遣い稼ぎのためくらいなら、上層や中層のモンスターを狩ってその素材やドロップを売ることで十分なんですから、と優奈はスカーレットの面々に告げる。
いやでも、いえいえだいじょうぶですから、と互いにコメントを介してやりあい、少々折れさせることには苦労したものの、ひとまずこのやりとりで十分だということでスカーレットの面々を納得させることはできた。
少々予想外のことに気疲れしてしまったが、それよりもいまはスカーレットのメンバーが配信に現れたことでふらつきかけた今日の配信の流れについて自分のコントロール下に戻す方が先決だ。
優菜はそう判断すると気合を入れなおし、再度視聴者たちへと話しかけた。
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