第12話 ソロでやってます
「ということでスカーレットさんたちからのお礼なども受け取りましたし、私からのお願いもしっかり述べさせていただきました。ただ、そればかりだというのもなんなので、それではここからは、みなさんが興味をもってくださった私のことについて、公開する気のある情報の提供をこっちからさせていただきますね」
優奈がそう宣言すると、コメント欄が<待ってた><楽しみ!>といったコメントであふれて盛り上がる。それをちらりと確認してから、優奈は自分についての話を続ける。
「ええっと、まず名前ですが、本名はもう出回っている気もするので意味が無いかもしれませんが内緒ということでお願いします。その代わり、配信者と探索者としての名前は、配信タイトルにあるようにゆーな、と名乗っていますので、ゆーなと気軽に呼んでください」
<ゆーなちゃんね、りょ>
<ゆーなちゃん、よろしくー>
<ゆーなさん、よろしくお願いします:ハル@スカーレット>
さっそくゆーな呼びしてくる視聴者たちに向け、配信用ドローンのカメラへと片手を軽く振って応じる。
「よろしくおねがいします。それで、私のダンジョン探索と配信スタイルについてですが……冒頭でも言ったように、ダンジョンの中の観光に良さそうな場所を巡って、まったりのんびりするというものになっています。なので、あんまり戦闘とか宝物探索とか、そういうのはメインにはしていません」
<ほーん>
<ダンジョン探索ってむしろ戦闘とか宝物探しが基本だと思ってた>
<めずらしいね、なんでそんなスタイルなの?:おりん@スカーレット>
「あ、おりんさん。やっぱり疑問に思われますか?
でも、これにはちゃんと理由があるんです。えっと……これがその理由です」
優奈はそういって自身の近くに置いてあった古い革の手帳を手に取ると、配信用ドローンのカメラへと映しこむ。
<なんかけっこう古そう>
<かなり使い込まれてる手帳だね>
「これ、私のお母さんが使ってたダンジョン探索手帳なんです。あ、私のお母さんは探索者をやってた人で、当時はB級探索者だったそうです。そのお母さんがダンジョン探索で見かけた綺麗な場所や不思議な光景だった場所を、いろいろこの手帳にスケッチしたりメモしたりしてありまして、私もそういった場所を実際に訪れてみたくてダンジョン探索者になったんです。そうして、そういった場所を訪ねるついでに記録することを兼ねてで配信を始めたのが、このチャンネルのきっかけなんですよ」
<ほーん、なるほど>
<あぁ、そういう経緯があったのか:くろえー>
<まぁ、一応納得>
<お母さんもけっこうすごかったんだねー。お母さんはいまも現役?>
「あー……お母さんはもういません。というか、私の両親はすでに亡くなっています」
自分にとってはとっくに乗り切ったことなので視聴者に向けてサラッと語る。
「私のお母さんはB級探索者で、父は探索者ギルドの職員さんでした。でも、8年前にあった世田谷ダンジョンのダンジョンブレイク事件は皆さんも知っていますよね?あの時に避難誘導に当たっていた中で起きた事故に巻き込まれ、両親とも共に死亡したそうです」
私自身が幼かったのと、事故のせいで死体も見つからず空の棺で葬儀を行ったので当時はあんまり実感が湧かなかったんですけどね、と苦笑する。
<あぁ、国内初の都市部でダンジョンブレイクが起きたアレか……>
<被害者数が死者だけで2000人超えたんだっけ>
<すぐに近隣の支部から救援が行って早期鎮圧されたけど、やばかったよな>
<地上じゃS級でもなきゃ著しく一般人と同レベルまで能力低下するからなぁ……探索者ってのも>
<A級以下の探索者がダンジョン1層で無限に思えるくらい奥から湧きだしてくるモンスターを抑えこんで、急いで駆け付けたS級の石動さんが地上に出たのを叩き潰してったんだよな>
視聴者たちもあの時のことを思い出してかコメントが割と静かになる。
本当にあの時は地獄の釜が開いたかのようだった。世田谷ダンジョン支部に勤めていた父に母と一緒に会いに行った際、急に警報が鳴り響いたかと思ったらモンスターがダンジョンの奥から湧き出して人々を襲い始めたのだ。ただ、優奈が憶えてるのはそこまでである。その後は気づいたら病院のベッドに寝かされており、両親が避難誘導中の事故で亡くなった、とだけ看護師に淡々と告げられたことを今でも憶えている。
その後は何も考えられず、空っぽの状態でしばらくいたようで何も憶えていなかった。次に周りのことをちゃんと認識することができたのは、両親の葬儀が行われている最中だった。あの葬儀のことはあまり思い出したくもないけれど。
<ツライことを聞いちゃってごめん>
「あぁ、いえ。正直あの頃のことはあまり憶えてないですし、両親のことはもう踏ん切りはつけていますのでだいじょうぶです。しんみりさせちゃいましたかね、すみません。
えっと、それでですね……そういう探索スタイルだったりもするので、ダンジョン探索については、ソロでやってます」
なるべくあっけらかんとした様子となるように意識して優奈は視聴者たちへと語りかける。
<は?>
<え?>
<マジで??>
<ええっ?!:ちづりん@スカーレット>
「はい。あ、もちろん最初からじゃないですよ。ダンジョン探索当初は、何度かパーティーを組んだりしてみたことはあります。
ただ、ですねぇ……」
自分がソロでやることを決めた一連のきっかけを思い出して、おもわずぽりぽりとほほを掻いてしまう。けど、事情を言えば、きっと納得してもらえるよね?
「ええっと……最初に組んだのは男性ばかりのパーティーとだったんです。その人たちはダンジョンに入る前は優しそうで頼もしそうだったんですが……ダンジョンに入ってしばらく進んだところで、その人たちから性的な意味で襲われそうになりました」
<げっ>
<うわぁ……:アカネ@スカーレット>
<ええっ、だいじょうぶだったの!?>
<ていうか、当時何歳?!>
「人のこない通路に進んだところで、いきなり豹変して襲われそうになった時にはびっくりしましたね。その時は間一髪で反撃して逃げることができ、全力の炎弾で牽制しながら逃げたことで助かりました。でも、そういうことがあったので、男性ばかりのパーティーとは組まないようになりました。あ、3年前だったので当時は13歳でしたね」
<ひっでぇ奴らだな……>
<初心者やソロや二人組などの少人数の女性を狙う連中がたまに居るってのは聞くことがある>
<だからこそ、配信することで人の目があることで自己防衛するのが女性探索者の基本になってるんですよね:ちづりん@スカーレット>
<判明したら地上で行った場合よりも厳しい罰を喰らうんだっけ>
<探索者法でそうなってるね。基本、ダンジョンでは国の法治がどうしても届きにくい。だからダンジョンでの犯罪は地上より厳しい罰が与えらえることになってる>
<まぁ地上での裁判以前にギルドの懲罰部隊がダンジョン内でそいつらをいないいないばぁにしちゃうっていう噂もあるけどさ>
<こわっ>
「で、その次に入ったのが男の子ひとりと、その子と幼馴染だっていう女の子二人の、自分と年の近かった子たちで組まれたパーティーでして」
<お、それなら襲われなさそう>
<というか幼馴染の女の子がふたりも居る時点でそいつ爆ぜろ:草蛇>
<うらやましす>
「実は、そのパーティーの女の子二人は、二人とも幼馴染だっていう男の子のことが好きで彼に付きあって探索者になったっていうパーティーだったんですよ。なので、そういうことなら今度はだいじょうぶだろう、って思って参加して、最初はほかの人たちとも上手くパーティーとして活動できてはいたんですが……」
<あ、なんとなく予想ついた>
「あー、予想できちゃいました?
はい、どうもその男の子が幼馴染の子たちじゃなく私に好意を持ってくれちゃったみたいで……そうなると彼のことが好きで探索者にまでなったっていう幼馴染の子たちが面白くなくなるのは当たり前のことですよね。
おまけに私は私で、あくまで探索者としてのパーティー仲間っていう感覚でしか彼のことを見ていなかったので、彼との関係が上手くいくはずもなく。とはいえ、私が彼にごめんなさいって断っても、他の二人はそれはそれで苛立ったみたいで、彼に見えないところで嫌がらせされるようになり始めました。なので、その後しばらくして私の方からパーティーからの脱退をすることにしました」
<修羅場だ>
<それは居づらい>
<アイドル並みの美少女だもんな>
<普通の女の子よりそっちに目が行っちゃうのもわかるが、せっかくの幼馴染がもったいないぞ>
「その後、最後に組んだのがギルドの紹介で入った女性ばかりのパーティーでした。ここなら男性との恋愛とか性的な問題はおきないだろうと思いまして。
でも、そしたら……ほかのメンバーより年下だってことで使いっ走りや雑用をやらされまくった上に、当時から支援メインだったってことで報酬もほかのメンバーの十分の一って言われて搾取されそうになりまして。
その上、報酬とかでもそういう扱いだから私が行きたい場所とかに行きたいって言っても通らないだろうなー、となりまして。結局そっちも利用されるだけなのは趣味じゃないし、自分の目的にも合わないのは無理だなーってなったので抜けちゃいました」
<あー、あるある。女性だけのパーティーだと上下関係をつくりたがるの居るよねー>
<で、下に置いたやつを搾取したり馬鹿にしたりする>
<女同士だと、よほど仲がよくないと続かないんだよなぁ>
<その点でいうと、スカーレットは奇跡>
<全員が良い子だし、なによりハル姉が調整役として上手い>
<↑過大な評価、ありがとうございます:ハル@スカーレット>
<ハル姉にリプされたワイ、いま大歓喜!>
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