第3話 あとはだいじょうぶかな
最初、そんな優奈とワイバーンの様子をぽかーんと口を開けて見ていた赤髪の少女だったが、歩み寄ってくる優奈が一人だけであることに気がつくと、唇を嚙みしめ、
「だめっ、私たちのことは見捨てていいから早く逃げなさいっ!」
と叫んでくるのだった。
「なんでアイツが下層にいるのかわからないけど、あれは深層にいるはずのモンスターがここに現れたイレギュラーよ!あなた一人くらいが支援に入ってくれた程度で倒せるわけがない!!
私たちはもうこの負傷では逃げきれないけど、それでもあなたが全力で走って逃げる時間を稼ぐくらいはできるはずよ。だからいますぐ地上に向けて逃げなさい!すでに救援要請は出てるはずだから、私たちが時間を稼げば、運が良ければあいつに追いつかれる前に救助隊に保護してもらえるかもしれないからっ!!」
全身が痛むであろう傷ついた身体で、体力ももう限界なのだろう。
そんな状態でありながらも赤い髪の少女がふらつきながらも剣を支えに立ち上がる。そして自分たちが犠牲になってでも優奈のことを逃がそうと声を上げるのを見て、優奈は
(あぁ、この人は良い人なんだな)
と思い、彼女たちに好感を感じる。
さらに同じように苦しそうにしながらも金髪の少女も立ち上がって二人の下へと歩み寄ると、
「私たちのことは気にしないでいいから……早く、逃げて」
とこちらも優奈のことを心配してくる。
そんな二人の少女の姿を見て、優奈は彼女たちが勝てるように支援してあげようと決心した。
「いえいえ、そんな姿で強がられて、このまま何もせず立ち去るなんてできませんよ。
とりあえず、支援拒否ってわけじゃないようですし意図した配信イベントの邪魔をしているようでもない様子ですので、あなた達がアレに勝てるくらいのバフを掛けさせていただきますねー」
(んー、体力も失ってるようだし、持続再生と体力回復を、強化は腕力と脚力それぞれ20倍くらいでかけとけば十分かな)
そう考えた優奈は、彼女がいつも自分に掛けている
「じゃあ、まずは
そう言って優奈がパンッパンッと二回柏手を打つと、付与がかかる時の光の輪が二人の少女の足元から頭上へと通り過ぎる。
そして、まずは
眼前の二人が負っていた傷口が光を発するとすぐに消えて健康な状態に戻っていく。さらに怪我だけではなく、彼女たちが装備していた装備の破損した部分までもが失われたりひび割れたであろう部分に光が宿ったかと思うと、すぐさまこちらも元の姿であろう破損一つない状態へと戻っていったのだ。
「え、なに……これ……」
呆然とした様子でそんな互いの姿を見て戸惑うようにつぶやく二人だったが、優奈はそんな二人の様子にお構いなしに、続けて腕力と脚力を強化するバフをかける。
それにより今度は赤髪の少女と金髪の少女、それぞれの両腕と両足に優しい銀色の光が宿ったのであった。
『ギャガァァァァァ!!!!!』
優奈が二人の少女に強化支援を掛け終わったちょうどそのタイミングで、起き上がったアサルト・ワイバーンが発した怒りの雄たけびが大きく響き渡った。その咆哮を聞いた優奈たちが視線を向けた時にはすでにアサルト・ワイバーンは大きく上空へと飛び上がっており、先ほどよりも遥かに勢いをつけた突進攻撃をちょうどしかけてくるところであった。
「危ないっ!」
そう叫んだ金髪の少女が、赤髪の少女と優奈を庇ってそのアサルト・ワイバーンの突進の前に大楯を手にして飛び出す。
「ハルっ!」
金髪の少女の名前なのだろう。ハルと呼ばれた少女が、そのまま「金剛防壁っ!」と叫ぶと、即座に
「えっ、さっきまでと違って全然衝撃が返ってこない?」
驚いて戸惑う様子の声を上げたハルの横を、アサルト・ワイバーンの体勢が崩れたいまを好機と見て取った赤髪の少女が駆け抜けていく。
「って、えっ、何これっ」
「アカネちゃん!?」
脚力強化のせいで思った以上に速度が出たことに戸惑ったのか、駆けながらその速さに驚く様子をみせる
その一撃は優奈がこの広場に来て見ていた最初の時の様子とは異なり、体勢を崩しながらも前腕で防御しようとしたアサルト・ワイバーンの左腕側の鱗と飛膜をわずかにではあったが切り裂くことに成功した。
「これなら、いけるかもっ!」
優奈のバフで先ほどと違い攻撃がわずかにでも通じることを確信したのだろう。笑みを浮かべたアカネは、大きく上がった速度と共にアサルト・ワイバーンの周囲を駆け巡り、飛び跳ね、確実にアサルト・ワイバーンにダメージを加えていく。さらにアサルト・ワイバーンが反撃を仕掛けようとすると、そこをすかさずハルがカバーリングすることで弾き返し、見事にその攻撃を防いでいた。
(こっちはひとまず万が一に備えてのシールドをかけておいてあげれば、あとはだいじょうぶかな)
持続回復もかけているので、万が一シールドまで超える攻撃を喰らったとしてもすぐに回復できるだろう。まぁ、割られることなどないとは思うが。なので、こちらはもうだいじょうぶそうだと見てとった優奈は、次に壁際で荒い息を吐きながら自分の身を顧みず仲間の治療に当たっている青髪の少女の下へと近寄っていった。
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