ありのままで

俺はスマホの画面を見つめながら考えていた。俺はこのままでいいのか。また逃げて、悲しくさせて。だめだ、逃げるな俺向き合うしかない。逃げるな。重い腰を上げた。俺は沙也加先輩を追いかけた。急いで走る。まだ、間に合う。

もう二度と泣かせるようなことはさせない。あの時の話をちゃんとしなきゃ。今の俺たちは話がすれ違っている。

「待って、沙也加先輩」

 俺は大きい声で呼び止める。振り返る沙也加先輩は泣いていた。きっと辛いはずだ、俺は生きてるのに大切の妹が生きていない。なんで純恋なんだと思ってるんだろう。俺も思っているなんで純恋なんだとずっと思っている。

「ちゃんと話しましょ、比嘉沙也加先輩」

 俺たちは前に進むことしかできない。

 近くのファミレスによることにした。席に着くと沙也加先輩はため息をつく。ありのままでちゃんと話そう。

「何か食べます?」

「こんな時にお腹すくと思う?誠君」

 それもそっか。けど、元気がなさそうな先輩をみて俺は、パンケーキを頼むことにした。

「あら、こんな時に食べるんて度胸あるね」

「いえ、二人で分けるんです。俺もお腹は空いてないですど、何か食べたい気分です」

 そう、とだけ言う。パンケーキを分ける、はちみつはいつも甘いのに今日だけは苦く感じた。ここからだ、ちゃんと話す。

「まず、何か聞きたいことはありますか沙也加先輩」

 俺は先輩の気になってることを聞いてみた。まずは誤解をなくす必要がある。

「私が聞きたいのは、純恋とはどいう関係だったか、ある日純恋が泣いて帰ってきた、なくなる一週間前何があったか。」

「純恋とは図書館で出会いました。よく遊ぶ関係でした。そして俺は、純恋が好きでした。」

 純恋は好きだった。中学二年生にはあまりも重すぎる恋だった。時間がない有限な恋。

「す、好きだった?じゃな、なんで亡くなる一週間泣いて帰ってきた。」

 驚いた表情を浮かべながら聞く。亡くなる一週間前、覚えている、あの時言ってしまった。呪いの言葉を、好きですと。

「あの時俺は告白したんです。好きですと、どうしても言いたかった。いつ亡くなるかわからない状況だった。だから俺は告白したんです」

 あの時いつ亡くなっておかしくはない状況だった。ただ、怖かった、好きと伝える前に死んでしまうかもしれない。ただ、怖かった。

「告白した時泣いていました。俺はその時分かったです。好きと言う言葉は呪いの言葉にもなることを」

 視界がぼやける、パンケーキを口に入れると、味がしなかった。苦い。あの時俺が告白をしていなかったら、もう少し長く生きていたかもしれない。俺が外に遊びに誘ったりしないで自宅治療を選んでいたら。純恋は長く生きていたかもしれない。

「告白した後、純恋は何も言わないで走って帰りました。」

 ただ、そこに立っていることしかできなかった。

「そう、だったのか。私は、世界を恨んだ。なんで純恋なんだと、あんなに優しい子がどうして死ななきゃいけないんだって。理不尽すぎる世界を憎んだ。純恋が亡くなった後、純恋とよく遊んでいた君を恨んだ、君が純恋と出逢わなければ長く生きていたかもしれないと理不尽な考えで君を恨んだ」

 彼女の言葉は高校生とは思えない発言だった。17歳にこんなことを言わせる世界が憎いと思った。心に余裕なんてなかっただろう。大好きな妹を亡くした彼女にとって俺は嫌な存在だっただろう。俺は生きてるのに純恋はいないそれだけが真実だった。そして沙也加先輩は続けて言う。

「私は最低な人間だ、理不尽な理由で君を恨み。純恋が亡くなったのは君のせいにした。本当にごめん。謝っても許されないと思っている」

「俺は最初から怒ってなんかいません、ただ、もう誰も傷つけたくなかった。もちろん先輩もです。」

 俺は思っていることをしっかりと伝えた。純恋が亡くなってからある噂が広まった。俺が純恋を自殺に追い込んだという根も葉もない噂が広まった。

純恋が病気だと知っていたのは俺だけだった。噂なんかすぐに消えると思っていたのに消えなかった。けど、桜と美穂がいるから大丈夫だと思っていたのに裏切られた。純恋が亡くなった後、心に余裕がなかった。いや壊れていた。それで俺は桜が好きと自分に嘘をついた。好きでもないのに。何かにすがりたかった。誰でもよかった。俺は今の自分が嫌いだ。嘘をついて桜が好きと自分自身に問いかけた。けど、思う、

そんなことも終わりだ俺は自分自身に向き合う。俺は今でも純恋が好きだ。

「君は優しいね」

「よく言われます」

 ほど苦いパンケーキを食い俺たちはファミレスを出た。

 外は暗くなっており、心配だったので、家まで送ることにした。

「私はね、純恋が好きだった。だから純恋の選んだ選択は悪いと思わない、本当にすまなかった」

「はい、もう大丈夫ですよ」

「なあ、今も純恋のことは好きなのか」

「はい」

 もう、嘘はつかない、俺は今でも純恋のことが好きだ。

「そうか、送ってくれてありがとう。じゃ、また明日」

「はい、また明日です」

「あ、もう敬語は、よしてくれないか誠」

「え、でも」

「ありのままで話した記念だ」

「はい」

 俺たちはこれからも悩むことがあるだろう。悲しいこともきっとある、それでも

 もう逃げない。

 けど、俺は一つ嘘をついた。純恋と約束した。あのことは絶対に言わないでと。

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