やがて消える

今朝のことを思いだしながら外の景色を見ていた。やはり俺はダメな人間だなと改めて自覚した。あんなことを言ってしまうほど俺は追い詰められていたのかなと心の中で思ってしまう。 


そんな、考え事をしていると前に座っている九条 毅が話しかけてきた。噂になっている人だ、この学園で頭が一番いいと噂されている。まだ入学して間もないというのに、この噂が立つというのはそれほどすごいのだろう。で、なぜ俺は話を掛けられているのだろうか。


「おい、お前って頭おかしい人なのか?」


 とんでもない質問だ、頭がおかしいなんていう言葉を言われる人生はなかなかないだろう。


「俺が、頭おかしいなら、お前はどうなんだ?面識もない人にこんなこと言うのは相当頭おかしいと思うぞ俺は」


 教室内はいつの間にか静まりかえっていた。そんなことをお構いなしに毅は言う


「失礼、ひどいことを言ってしまった。けど俺はお前が桜さんを泣かしたことに腹が立っているんだ」


 そのセリフを聞くとあきれて言葉も出なかった。俺が泣かしたのが悪い?ふざけるな過去に何があったのか知らずに、自分の都合のいいストーリーばかりを作り何も知ろうとしないくせに。


「一体何がわかるんですか?俺と桜の関係や過去の出来事などわかっていってるんですか?いや、多分わからないですよね。」


 まただ、言わなくてもいいこと言ってしまう。


「君たちの関係はわかない、しかし、君の昨日の態度はよくないと思うぞ。もう変な噂も広がっている」


「じゃあ、隣に座ってる桜さんに聞けばいいだろう。お前が作ったストーリーと同じか?」


「もう、もうやめて」


 教室内に声が響きわたる。みんなが桜の方をみる。それもそのはずだ、今までこんな大きな声を聞いたことはないだろう。実際俺も聞くのは2回目だ。


「私が悪かったの、助けることができなかったから」


この言葉に心が痛くなる


「私は」


「それ以上はやめてくれ」


 俺は彼女の言葉を遮る。もしこれ以上喋ると彼女の地位がなくなってしまう。それだけはいやだった。俺のせいでこれ以上傷つくのは見たくなかったから。たまに自分が何を考えているのがわからくなってしまう時がある、俺をこんな風にしたのは彼女たちのせいだ。けど、もうこれ以上は失いたくないとも思ってしまう。一体俺は何を考えているんだ。


「わかった」


 下を向く彼女は涙が流れていた。もう関わりたくなかった。こうなることが分かっていたから。


「彼女もこう言ってるしもう話すことはないだろ?もう話しかける...」


 ドンと、鈍い音がなる


 おい、こいつって頭のネジ外れているのか?自分自身に問いかける。もちろん答えは、はい、しかないだろ。他に何があるねんと自分でボケる


こいつは頭がいいけど、多分バカだ。


「それで、クズには手を挙げてもいいなんて法律はあるんですか?」


「俺は絶対に許さないぞ桜さんを泣かしたことをな」


全く聞く耳を持たないなこいつ、なんでこんな奴が頭いいんだよ


「もう、わかったから落ち着いてね?君がどんなに優しくても手を挙げた時点で君の負けだ」


 ガラガラとドアが開くどうやら先生が来たみたいだ。やっとこの地獄の時間が終わる。隣に座る桜にハンカチを渡して座る。泣き顔は見たくないから。


 ※


 休み時間に起きたことは、広まっていた。やはり噂は一度広まると一瞬で知れ渡ってしまう。


 購買に行きパンを買った。どうやら学校に売りに来ているパン屋はとても美味くすぐに売り切れてしまうらしい。教室に着くと、チラチラ俺の方を見てくる。はあ、やはり居場所はもうないか。屋上に行こう


 屋上は使用禁止にされているがカギはかかっていなく、すぐに入れてしまう。ここに来るのは二回目になるが、やはり景色がいい。落ち着くというか、時間を忘れることができる場所だと思っている。そう思っていたのに先客がいた。同じクラスで、同じ中学校の上野 雪が座っていた。


「なんでいるんだよ」


「ひどい言い方ね、あなたこそなんでいるのよ?」


「いや、俺が最初に見つけたんだが?」


「そ、そう、まあいいじゃない?助けたのは私だけなんだし、あの子たちと違って」


 実際そうだった。雪だけは手を差し伸べてくれた。救われたのも真実だ。


「まあ、いっか、けど俺と一緒にいても何もいいことないぞ?」


「そんなこと前から知ってるよ」


 久々に笑った。いったい、いつぶりだろうこんなに笑ったのは、あの日を境に心を閉ざし、人との関りを拒んでいた。けど、雪だけは俺にずっと話をかけてきた。いつ日か雪と話すのが当たり前になっていた。心の支えにもなっていた。けど、いつの間にか雪が話を掛けに来ることがなくなってしまった。あれから雪と一度も会ったことなかったよな?じゃ俺の隣にいる彼女はいったい誰なんだ。横を振りむくとそこに雪の姿はなかった。

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