第5話

 魔王の目から涙がこぼれ落ちた。「俺には必要なくなった」勇者のその言葉に、全てを悟ったのだった。


「勇者…… まさかお前、子を――はっ! まさか、我が軍が勇者の村を侵攻した際に……!」


 数年前、魔王軍は勇者が住んでいると思われる村を発見し、総攻撃をしかけたのだった。そのとき勇者の姿は確認できなかったのだが、村は跡形もなく壊滅。生存者もいなかったと魔王は報告を受けていたのだ。


 なんということをしてしまったのだろうか。「女と子供は殺すな、無抵抗の人間には手を出すな」と命令しておけばよかったと今更ながらに後悔した。



 しかし、魔王の言葉に勇者は軽く首を横に振った。



「いや。娘がもう大きくなったから必要なくなっただけだ」

「え、あ、ああ……はぁー、よかったー! え、あの村にはいなかったってこと?」


「あの村……? ああ、そもそもあそこに俺は住んですらないぞ。魔族の誰かが間違った情報をつかまされたんじゃないか?」

「え、そうだったの? まあ、それはそれで……娘さんが生きていたからよかったということにしておこう」


「じゃ、俺はこれで失礼するよ」

「あっ、ちょっと!」


 瞬間移動呪文を唱える構えをとった勇者に対して、魔王が呼び止める。それに応じる形で、勇者は構えをとく。



「勇者よ……もしよければだが……連絡先を教えてくれないか。いつ魔王城に来るとか事前に連絡をもらえれば、こちらも準備がしやすいのだが……いや、さすがに魔王と勇者が連絡先を交換するのもおかしいか……」



 勇者はどぎまぎしながら話す魔王の姿を見て少しだけ笑みを浮かべると、腰に下げた道具入れからスマホを取り出した。



「!」

「ほれ、早く魔王もスマホを出しな」


「いいのか?」

「ああ、こっちとしても事前にオーマ君がいないことを確認できると助かるからな」


 魔王も自身のズボンのポケットからスマホを取り出す。それを見て、勇者が反応した。


「おっ、最新版じゃん」

「フフフ……奮発して買ったのだ。いいぞ、魔異フォン16は」

「俺の14もまだまだ現役だが……やはり最新版を見ると欲しくなっちゃうな」


「魔王権限で一台格安で譲ってやろうか?」

「……連絡先交換よりそっちの方がやばいんじゃないの?」


「フハハハハ! それもそうだな」


 そんな会話を交わしながらお互いがスマホを近づけると、一瞬で連絡先の交換が終了した。それぞれの画面全体に相手の連絡先が表示される。


「これでよし。じゃあ次来るときは事前に連絡を入れるから」

「ああ、できれば数日前に連絡をくれれば助かる。ウチのカミさんの予定を調べないといけないからな」


「わかった」

「では次会うときは……」


 魔王が握り拳を作って勇者へと向ける。勇者も同じように握り拳を作り、ゴツン! と魔王のそれにぶつけた。



「世界の存亡をかけて全力で戦おう!」

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