第19話
全員の了承の言葉を確認した私は魔道具を切り、竜とブライトの方へと顔を向ける。
「さて、ブライト、一つ、教えろ」
「何だ?」
未だ、余裕を見せるブライトに対し、私は問いかける。
「私達の『異能』の情報、どこで手に入れたんだ?」
「……」
私の問いに対し、ブライトは沈黙を返す。
「まぁ、心当たりはあるから答えなくていいよ」
「……そうか、ならば、なおさらここで殺さなければならないな」
私がそう言うと、ブライトは竜に私を攻撃するよう命じる。
凄まじい速さでこちらに迫り、凶爪を振るう竜。
私はこれまでと同じように全てギリギリで躱し、すぐさま距離を取る。
「フンッ、いつまでも逃げ切れるとは思わないことだな」
竜を自身の傍に戻したブライトの言葉に、私は思わず笑みを浮かべる。
「……何がおかしい?」
「いーや、私の異能を見ていながら、まだ勝てると思っているのが、あまりにも滑稽でね」
「……なんだと?」
私の言葉に、ブライトがその顔に憤怒を浮かべながら、自身の異能を発動しようとする。
私はそれを脅威とも思わず、喋り続ける。
「私の『異能』をずっと『鋼』だと思っている限り、お前に勝機はないよ」
「フンッ、ハッタリでこの私と竜を止めれると思ったら大間違いだ!」
その言葉と同時に、ブライトを背に乗せた竜が凄まじい速度で突進する。
「トドメだ!」
勝利を確信した瞳で、こちらを見つめるブライトに私は嘲笑を返し、自身の『異能』を発動させる。
「くっ……!」
私の手から放たれた光に、ブライトは思わず腕で顔を覆う。
そして、視界を確保できるようになったブライトは、その顔に動揺を浮かべる。
「ど、どういうことだ!?」
私を殺すよう命じられている竜が、『誰もいない所』をひたすら攻撃する、という光景にブライトの開いた口が塞がらない。
「りゅ、竜よ! 何をしている! 敵はそこにはいないぞ!」
「はいはい、いつまでも騒がないでね」
私の言葉に、竜は突然、上空へと羽ばたき、バランスを崩したブライトが竜の背中から落ちていく。
「がっ……!」
「やっぱり、命令に従順な分、従えやすくて助かるね」
地面に凄まじい勢いで墜落したブライトを横目に、私はお腹を抱えて笑う。
「き、貴様……! 一体、何をした……!」
「何を、って、さっきも言った通り、『異能』を使っただけだよ?」
「嘘をつくな! 貴様の『異能』では、あのような芸当、不可能だ!」
「いい加減、私の『異能』が『鋼』じゃないことに気づきなよ」
そう言い、私は『異能』を再び発動させる。
「さっきの光は、ただの目くらまし。本命はこれだよ」
自身の手のひらに生まれた、極彩色の霧のようなものに、ブライトは目を見開く。
「そ、それは……!」
「数ある『異能』の中で外れと称される『異能』の一つ、『幻』の『異能』だよ」
「馬鹿なことを言うな! 『幻』の『異能』ではあのような芸当は出来ない!」
誇らしげに語る私に、ブライトは困惑の表情を浮かべながら、大声で反論する。
「確かに、普通の『幻』だったら、精々、視覚に少し違和感が生まれる程度だから、鼻の利く竜を惑わすことは出来ないね」
でも、と私は付け加え、
「私は『星獄幻狼』のリーダーだよ? ただの『幻』の『異能』に、あのメンバーが従うわけないでしょ?」
「ッ!」
ブライトが唇を噛みながら、こちらに憎しみの表情を向けてくるが、私は気にせず、『異能』の説明を続ける。
「私の『幻』は、視覚だけでなく、五感全てを惑わすことが出来るんだよ」
先ほどから竜が誰もいないところを攻撃しているのも、視覚だけでなく嗅覚も惑わされ、より強力な幻を見せられているから。
そう説明を付け足すと、ブライトが叫びながら突進してきた。
「ふ、ふざけるなぁ!!!!」
「おっと」
流石というべきか、ブライトの『異能』を用いた攻撃は、並の戦士では防げない苛烈な物であり、思わず感嘆の声が漏れるが、私は難なく全ての攻撃を躱していく。
「私もどうして自分の『異能』がこんなに強力なのかは分からないけど、この力のおかげで今まで、お前のような貴族を潰せてこれたんだよね」
そう言いながら、攻撃の間隙を縫い、ブライトの正面まで接近した私は、手にしていた極彩色の霧を至近距離から放つ。
「
私がそう呟いた次の瞬間、
「う、うわぁあああああああああああ!!!!!!!!!!!」
顔を真っ青にしたブライトの絶叫が響き渡った。
激痛をこらえるかのように頭を両手で押さえ、蹲るブライト。
私は見下ろしながら、その頭を足で力強く踏みつける。
「ガッ!?」
「おかえり、どうだった? 幻とはいえ、地獄を見た感想は?」
「あ、あんなものを、見せて……ただで済むと思う、なよ……!」
『異能』を解除されたブライトは、未だ、その瞳に殺意を漲らせながらこちらを睨みつけるので、私はその顔を先ほどよりも強く踏みつける。
「グッ……!」
「あんなもの、って言っているけど、あれはお前達のせいで出来た光景だよ?」
「ハッ! 何を言うかと思えば、いよいよ現実と幻想の区別すらも出来なくなったのか!」
「……なら、もう一度、見てくるといいさ」
私は、体を必死に動かし、そこから逃れようとするブライトに、再び極彩色の霧を放つ。
「う、うがぁあああああ!!!!」
そして、再び、ブライトの絶叫が響き渡る。
「貴族による権威主義が強くなり過ぎた結果、多くの平民や獣人は虐げられてきた」
「それが、どうした……!」
「お前達は貴族でない者は、人に非ず、という考えが当たり前なんでしょ?」
「当然だ! 異能を持たぬ存在など、神に見放された存在でしかないであろう!」
「なら、どうして、異能を持っている平民や獣人も虐げてきたの?」
「異能は貴族の特権! 下賤な輩が持っているなど、認めるわけにはいかないのだ!」
「……自分の言葉に矛盾があることに気づかないの?」
「これが真理だ!」と言わんばかりに答えるブライトに、私はため息をつく。
「まぁ、別に気にしないけど、お前が見た光景は本当にあったことだよ」
「……あれが、現実にあったことだと?」
ブライトは見た光景が脳裏から離れていないのか、再び顔を青ざめさせながら私に問いかける。
「そう、昔、とある町で起きた、貴族が平民や獣人を嬉々として虐げる光景を、一人の平民の視点でお前に見させたんだよ」
「なん、だと……」
「幻とはいえ、自称高潔なる貴族なお前が、平民を体験した気分はどう?」
「ふ、ふざけるなぁあああああ!!!!!」
プライドが高い貴族にとって、虐げる対象である平民として扱われるのは、屈辱以外の何物でもなく、予想通り、ブライトは激高しながら突進する。
「もういいよ、それ」
何度も同じ攻撃を見せられれば、当然、対処法を思いつくため、私は振り下ろされる剣を躱しながら、ブライトの腹に強烈な一撃を叩き込む。
「く、そがぁ……!」
「もう諦めたらどう? 今なら、ギリギリ死罪は免れるかもしれないよ?」
この先の結末が分かっている私は、最後の通告をブライトにするが……
「貴様らに屈辱を与えられたままで、諦めるわけがなかろう!」
決して、己の敗北を認めないブライトは、そう言いながら、私を睨みつける。
「そっか、なら、最後に一つ、いいことを教えてあげるよ」
「いいこと?」
「お前が依然として、諦めないのは、協力している貴族がいるからでしょ?」
「当然だ! 私一人では勝てなくても、彼らがここに来れば、貴様を屠ることなど余裕だからな!」
「その彼らだけど、全員、倒したよ」
「……は?」
私の言葉に、ブライトは素っ頓狂な声をあげる。
「竜の魔力が強すぎて気づかなかったのだろうけど、他の魔獣の反応は消えているよ」
「冗談を……っ!?」
「冗談でそんなことを言うわけがないでしょ?」
「な、なぜだ! あの魔獣たちは、貴様らの弱点を突いていたはずだ!」
信じられない、と言わんばかりに喚き散らすブライトに、私は冷静に告げる。
「その『弱点』というのが間違っていたら、意味がないでしょ?」
「ま、まさか……」
「そ、私と同じように、メンバーの『異能』についても、お前達は嘘の情報を渡されていたんだよ」
「な、なっ……!」
告げられた言葉に、ブライトは膝から崩れ落ちる。
それを見下ろしながら、私は続けて告げる。
「おっ、来たみたいだね」
「な、何がだ!?」
「魔獣が消えた、ってことは、これ以外に答えはないでしょ?」
私がそう告げると同時に、震えるブライトに絶望が降り立つ。
「リーダー、無事、終わりましたよ」
「いやー、途中でグエンが乱入してきた時は、本当に驚いたよ」
「わ、悪かったって言っているだろうが!」
「わ、私もやりすぎちゃいました……」
「コーロ、反省するのを悪いとは言わないけど、し過ぎるのも駄目だよ」
「あぁ……あぁ……」
気絶した貴族を引きずりながら現れたフラン達の姿を見て、ブライトは言葉にならない呻き声をあげる。
「これで、最後の希望は消えたけど、まだ抵抗するつもり?」
「ヒッ……! く、来るなぁ!」
後ずさるブライトの頭を掴み、私はもう片方の手に漆黒の霧を生み出す。
「大丈夫、運が良ければ死ぬことはないよ」
そう言うと、私は声にならない悲鳴をあげるブライトに向かって、無慈悲に霧を放つ。
「が、がぁあああああ!!!!!」
霧が顔全体を覆った次の瞬間、ブライトがこれまでとは比にならない声量で、悲鳴をあげる。
そして、意識を失い、地面に倒れ伏したブライトを一瞥すると、私はメンバーの方に視線を向ける。
『……』
「え、え、皆、どうして、そんな呆れた目をしてるの?」
「……心当たりはないのですか?」
「い、いや、まぁ、あるけど……」
全員を代表して一歩前に出てきたフランの圧に、私は思わず目を逸らす。
「
「……いえ、ありませんでした」
「自分で言いましたよね。やりすぎるな、と」
「はい……」
「自分が一番やりすぎているじゃありませんか」
「はい、ごめんなさい……」
フランの冷たい叱責に、私がシュンとしていると……
「ま、まぁ、ギリギリ生きているみたいだし、今回は問題なかった、ってことで!」
「そうそう! それよりも、残りの問題も解決しておかないと!」
グエンとクラが話題を転換しようと、別の問題に取り掛かろう、と必死に訴えかける。
フランはため息をつくも、二人の言うことは正しいので、私への叱責を止める。
「さ、後始末を済ませますよ、リーダー」
「ん、早く『奈落』に行くよ!」
『了解!』
フランの『異能』で、気絶している貴族たちを浮かせながら、私達はこの先の展開も読んでいるであろう人物がいる『奈落』へと急いで向かっていった。
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