第18話
「コロ、リーダーから『異能』の使用が許可されたよ!」
「ほ、本当に!?」
「うん!」
驚きながら問いかけてくるコロに私は頷く。
「ただ、殺しちゃいけない、ってリーダーは言ってたから加減して戦うよ」
「わ、分かった!けど……」
「けど?」
「……リーダーがそれを言えるのかな?」
「安心して、私含め皆、思っていることだから」
気まずそうな顔をしたコロに私は諦めた表情で答える。
「まぁ、今は目の前の問題を解決するよ」
「そ、そうだね!」
魔獣に大きな風弾をぶつけ距離を取ったコロが隣で一息つく。
「ふんっ、いつまでもそのように逃げ惑えると思うなよ」
無傷で佇む魔獣の背後で顔を歪めながら、エルガルドは異能を発動する。
迫りくる岩弾を躱しながら、私は口を開く。
「悪いけど、お前の嗜虐にこれ以上付き合うつもりはないよ」
「……なんだと?」
「私達のリーダーから『異能』を使っていい、って言われてね。貴方が勝つことは絶対にないよ」
「……獣風情が粋がるな」
「コロ、準備はいい?」
「う、うん!」
私の呼びかけにコロが力強く頷く。
「さぁ、公爵様、狩られる準備は出来たかな?」
「それは貴様らの方であろう!」
「まぁ、そう思っているならそれでいいよ」
憤慨するエルガルドに対し、私達は告げる。
「『星獄幻狼』の力、見せてあげるよ」
そう告げた次の瞬間
ズドォオオオオオオンンンンン!!!!
凄まじい轟音と共に辺りに砂煙が舞う。
次第に砂煙が晴れ、エルガルドが目を少しずつ開く。
「なっ、馬鹿な!?」
そして、目の前の光景に思わず声を上げた。
エルガルドの目の前には、胴体を真っ二つに切り裂かれた魔獣が倒れた姿と、その上に悠然と佇むコロがいた。
「うん、さすがコロ!一発で仕留めるなんて凄い!」
「あ、ありがとう……///」
私が拍手をしながら褒めると、コロは顔を赤らめながら身をよじる。
「貴様ら、一体、何をした!?」
「え、だから、さっき言ったでしょ、『異能』を使う、って」
「貴様らの『異能』は『風』のはず!であれば、この魔獣の身体を傷つけることなど出来ないはずであろう!」
「いや、そんなの嘘に決まっているでしょ?」
「……嘘だと?」
訳が分からない、という顔をするエルガルドに私は呆れながら真実を告げる。
「世界でもトップクラスの犯罪組織に所属する人間が、正しい情報を与えるわけがないでしょ?」
「だ、だが、この魔獣を一撃で倒せる『異能』など、あるはずがないだろうが!」
「ん?獣をいじめる貴方なら、私達の『異能』を分かってくれると思ったんだけどな」
「私なら分かる、だと?」
「数年前、貴方はとある希少な獣人族の噂を聞き、圧倒的な兵力をもって集落を攻めましたよね?」
「それが一体どうした……ッ!まさか!」
「そう、貴方が自分のために襲った「天狼族」の生き残り、それが私達だよ」
私の言葉にエルガルドはさらに目を見開く。
「貴様らはあの「天狼族」の生き残りだと言うのか!?」
「そうだよ、貴方、いや、お前が私欲を満たすために襲った、「天狼族」の生き残りだよ」
「……そうか、貴様らの『異能』は種族名でもある『天狼』だな!」
「大正解」
通常の獣人族よりも強力な『異能』を有す、と言われている天狼族。
その『異能』をもってすれば、いくら魔獣が強力とは言え、一撃で倒すのは容易である、とエルガルドは考えながらも、その顔に絶望の色は見られない。
「……その顔を見るに、負ける、とは微塵も思っていないようだね」
「当然であろう、真に優秀な者は別の案を用意しているのだよ」
そう言うと、エルガルドは異能によって巨大な岩を生み出す。
「そんな大きいだけの岩、私達には当たらないよ?」
「ふんっ、これは攻撃ではない!」
そう言うと、エルガルドは倒れ伏す魔獣の死骸に向けて岩を放った。
そして、岩が魔獣の死骸に触れた瞬間、
「え!?」
「ふーん……」
信じられない光景が二人の視界に映った。
岩が魔獣に吸い込まれ、真っ二つに切り裂かれた魔獣の身体が再生し、
『グルゥウウウ……』
低い声で唸りながら魔獣が二本の足で立ち上がった。
「お、お姉ちゃん!倒したはずの魔獣が立ち上がったよ!」
「……エルガルド、これは一体どういうこと?」
動揺するコロに視線で落ち着くよう伝えながら、私は静かに問いかける。
「ふんっ、言ったであろう、別の案を用意している、と」
「……この魔獣にこんな再生能力はなかったはずだけど?」
「この魔道具を使うことによって、私の異能『土』を使った再生を可能としたのだ」
そう言い、エルガルドは首元にかけていたネックレスをこちらに見せてきた。
「これは『共鳴の首輪』という魔道具で、対象の魔獣の持つ『異能』に同系統の『異能』を放った時、魔獣の身体を再生させる、という能力が備わっているのだよ」
「は?」
エルガルドの言葉に私は素っ頓狂な声をあげる。
魔獣の身体を再生させる、という能力自体は私達にとって大した問題ではない。
敵対する魔獣を助けるような魔道具がこの世に存在することに私は驚きを隠せなかった。
「そんな世間の常識を根元からひっくり返すような魔道具、どこで手に入れたんだ?」
「これから死ぬ貴様らに教えるわけがないだろう」
そう言うと、エルガルドは魔獣に私達を襲うよう命令を下す。
主人の命令に従い、凄まじい速さで迫りくる魔獣を私は一撃で倒すも、すぐに体が再生される。
「『天狼』で身体能力が向上をしても、際限なく再生する魔獣にはかなわないのだよ!」
汚い笑い声をあげながら、魔獣の攻撃と攻撃の一瞬の隙を埋めるかのように岩を放つ、エルガルド。
(腐っても、公爵家の当主。戦闘能力はそこらの貴族よりも上だね)
再び迫りくる魔獣を切り裂きながら、私はコロの方を見る。
「コロ、『異能』はまだ大丈夫?」
「う、うん!まだ余裕はあると思うよ」
「よしっ、なら、今からあの魔獣を交互に倒し続けるよ」
「え、で、でも、あの魔獣、ずっと再生するんだよ?」
「大丈夫、あの再生はエルガルドの『異能』があっての物」
「……あっ!そういうことか!」
私の言葉の真意に気づいたコロの表情に納得の色が映る。
そして、私達は腰をさらに落とし、本気の戦闘態勢をとる。
「ふんっ、どれだけ貴様らが頑張っても無意味だと分からないのだな」
そう嘲りながら、魔獣と連携して攻撃を繰り出すエルガルド。
「行くよ、コロ!」
「うん!」
それに対し、私達は魔獣を殺し続ける。
時には、拳。
時には、蹴り。
時には、斬撃を飛ばして、魔獣を殺し続けた。
そして、魔獣を殺したのが百を超えたあたりのことだった。
これまでと同じようにエルガルドが異能を用いて、再生を行おうとする。
「なっ、どういうことだ!?」
しかし、再生しない魔獣にエルガルドが、狼狽の声をあげる。
「どういうこともなにも、『異能』が発動しなくなったから、再生できなくなっただけでしょ?」
「『異能』が発動しなくなった、だと?」
私の言葉に、エルガルドは「分からない」と言わんばかりの顔をする。
「あぁ、そうか、貴族、というよりもこの王国では意外と知られていなかったね」
「何の話だ!?」
「『異能』には『星約』と言うものがあるのを知っている?」
「『星約』……?」
「その様子だと、やはり知らないみたいだね」
今のエルガルドに戦闘能力が皆無なのを確信している私は、構えをとらず、腰に手を当てながら、説明する。
「簡単に言うと、『異能』には御伽噺に出てくる『魔法』とは違って、制限がある、ってことだよ」
「なっ、そんなものは知らん! 貴様らの妄言ではないのか!」
「この国なら、知らなくて当然だろうね」
私は嘲笑を浮かべながら、ゆっくりとエルガルドに近づく。
「なにせ、戦闘とは無縁で、貴族が平民から搾取するのを当たり前だと受け入れている、そんな国で生きる人間が知っているわけないよね」
「黙れ黙れ黙れ! 選ばれた人間である我ら、貴族がゴミである平民ごときをどうしようと問題などない!」
「ある国では、貴族も平民も関係なく、皆、等しく戦場に赴き、共に戦う」
まさに、一致団結。そこに住む国民は当然の如く、『星約』を知っている。お前達の無知は他ならぬ、お前達が原因だと告げる。
「くそくそくそっ……! なぜだ、なぜだ!」
「一般的な『星約』は、使用回数。厳密に言うと、回数ではないけど、一日に使用できるのは限りがあって、お前の『異能』もその類でしょうね」
「なぜだ! 私は『あの方』に選ばれた人間、選ばれし貴族だというのに!」
どれだけ真実を告げられても、頑なに自身が追いつめられていることを認めようとしないエルガルド。
そんな彼に私は少しだけ同情の視線を送りながら、言葉を紡ぐ。
「……エルガルド、敵対するお前を殺すこと自体には何も思いませんが、これだけは謝罪させてもらう」
「いきなりなんだ! 貴様らの憐れみを含んだ謝罪など、この私にとっては屈辱以外の何物でもないわ!」
「これから始まる、『一匹』の獣による『狩り』を許してくれ」
そう言い、私は後ろに控えていた妹に『許可』を出す。
「コロ、やっていいよ」
「えっ! いいの!」
嬉しそうに笑う妹を内心で恐れながら、私は笑顔で答える。
「うん、ただ、やりすぎないでね。私達の『異能』はやりすぎちゃうから」
「分かった!」
今までのオドオドとしていた態度が嘘だったかのように、ハキハキト喋る妹。そして、妹はその顔に満面の笑みを浮かべながら、『異能』を発動させる。
天狼族が最も得意とした『天爪』、自身の拳に巨大な爪を顕現させ、それを用いて戦う、単純な技ではあるが、その威力はそこらの『異能』とは比べ物にならない。
(本来であれば、さっきの戦闘みたいに一撃で獲物を仕留めるために使うんだけど……)
「じゃあ、行くよ!」
声をあげ、一瞬でエルガルドの前まで移動したコロは、その爪を人外の速さで振るった次の瞬間、
鮮血と共に二本の腕が、空を舞った。
「う、うわぁああああああ!!!!」
両腕が切り離され、切り口から大量の血を流しながら叫ぶエルガルド。
「うんうん、いきなり切られたら、痛いよね~!」
自身が生み出した切り口を見て、さらに笑みを深めるコロは、持ってきていた傷口に回復薬をかける。
一瞬で回復した腕を見下ろしながら、コロは『天爪』を一回りほど小さくする。
「じゃあ、少しずつ切っていくと、どうなるのかな~?」
少女の皮を被った悪魔はそう言い、エルガルドの指を一本ずつ切り落としていく。
空に響く悲鳴を耳にしながら、私は瞑目する。
(家族を、仲間を殺されたあの日から、コロは『壊れた』)
思い返されるのは、炎に包まれる村、血を流し、地面に付す家族や仲間たちの姿。
(耳に残る、悲鳴や懇願、それらが今もあの子を苦しめている)
そして、あの子は、それらから逃れるために、別の何かで覆い隠そうとした。
「いいよ、いいよ! もっと、その悲鳴を聞かせて!」
かつて、自分達を虐げた『貴族』になりきり、貴族の悲鳴で自身の奥で未だに残っている、悪夢を忘れようとするコロ。
(けれど、忘れようとするほど、その記憶は根強く残る)
貴族の悲鳴で自身の記憶に覆い隠す。そのためには当然、あの日を思い出す必要がある。
その度に、あの子は殺意をみなぎらせた日を思い出してしまう。
「コロ、殺意に囚われないで! 殺すのだけはダメだよ!」
「は~い!」
殺意による狂気は、あの子の心身を削ってしまう。
今も嗤いながらエルガルドに苦痛を与える妹の姿を見ながら、私は唇を噛む。
――数十分後――
「……ッ……ァ」
エルガルドは、まともに喋ることもできなくなっていた。
「全く……コロ、やりすぎだよ」
「ご、ごめんなさい……」
シュン、と耳を曲げるコロの頭を撫でながら、私は苦笑する。
「でも、私を心配してくれたんだよね?」
「うん……」
あの悲劇から、唯一の家族である私を失うことを恐れているコロは、私に悪意を向ける者に過剰に反応するようになった。
「心配しなくても、お姉ちゃんはコロの事を嫌いになったりしないよ?」
「本当に……?」
「うん、お姉ちゃんは、ずっとコロの事が大好きだよ」
「よ、よかった……」
安堵の表情で、大きく息を吐くコロに、私はエルガルドを担がせ、リーダーのいる所へ駆け足で向かった。
クラ&コロ VS エルガルド
勝者 クラ&コロ
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