ベッドの上の異種間対談(4/5)

「それよりも、聴きたいことがあるんだけれど、今度はこっちから質問いい?」


「ああ」


 そんな彼に、クィーリアは問いかける。


 思うままに胸の内をぶちまけた、あの時と全く同じ内容だ。


「どうしてゼノンは、亜人である私を治療して、私と対話しようとしているの?」


 人間と亜人は敵対している。


 ゼノンの話とクィーリアが事前に仕入れていた知識が一致している以上、この大前提はまず間違いないと見ていいだろう。


 だからこそ、なぜ彼がクィーリアに悪意なく接し、対話し、傷の手当てを施し命の危機を救ったのかが分からない。


 裏がある可能性も、まだ捨て切れないでいる。


 だが、それにしてはゼノンは、過ぎるといっていいほどにクィーリアに誠実に向き合おうとしている。


 どこまで彼のことを信じていいのか、クィーリアはまだ計りかねていた。


 だからこそ、彼の行動の真意が知りたかった。


「誰が言いだしたかも分からないような噂よりも、目の前にいる当人から直接聴いた話の方が信じられるから。亜人が人間に魔物を仕向けているのならば、亜人であるクィーリアが魔物に襲われるのは奇妙だから。今こうして隙を見せ続けている俺に対して、手を出す素振りすら見せないから。……とまあ、こんな具合に、理由なんざいくらでも挙げられるが……」


 指折り数えながら、ゼノンはつらつらと理由を挙げていく。


 いやに合理的で機械的、理屈っぽい理由が、妙に彼らしいとクィーリアは思った。


「でもまあ、一番はやっぱりあれだな」


 そんな折、ふと、ゼノンが自嘲気味に笑う。


「俺は、人の話を聴かない奴が嫌いなんだよ」


「……何それ」


 ゼノンの口から出てきた最後の理由は、それまでの理屈っぽいものから打って変わって、ひどく個人的な、合理もへったくれもないものだった。


 予想外の言葉を耳にして、クィーリアのぽかんと開いた口が塞がらないでいる。


「言ったままの意味だ。勝手な憶測とイメージだけで物事を判断して、それがさも正しいことだってツラして振舞うような奴が嫌いなんだ。……そして、俺はそんな奴らと一緒になりたくないんだよ」


 ゼノンの口から飛び出してきた、あまりにも感覚的な理由。


 今まで見えてこなかった彼の人間味とも呼べる部分が垣間見られた気がしたが、今この場においては、それを根拠に行動するのは間違いだといっていい。


 そして、それを指摘して明らかにすることも、間違いだといっていい。


「……それで、もしも私が言ったことが全部嘘で、本当は全部亜人が悪くて、今もゼノンのことを騙そうとしていたとしたら、どうするつもりなの?」


 だが、クィーリアはその間違いを犯さずにはいられなかった。


 ゼノンは、クィーリアと対話をしたがっている。


 交渉でも、腹の探り合いでもない、対等な相手としての話し合いを、だ。


 彼の違和感を覚えるほどの誠実さに、自分も少しは同じものを返したい。


 ふと、クィーリアがそう思ったころには、言葉が口を突いて出てきていた。


「俺がそうしたいと思ってやってるだけだ。別にそれでも構わない。まあ、襲われでもしようものなら、その時は抵抗させてもらうがな」


 ゼノンもその間違いを自覚しているらしく、自嘲気味に軽く笑って返す。


 間違いを犯した者同士、もう遠慮する必要はなくなった。


「……正直、私はあなたのことを信じていいのか、まだ迷ってる」


「むしろそれが普通だ。こんな数分のやり取りだけで改善される間柄じゃないし、俺の考え方こそが正しいものだと主張する気もない。その傷が癒えるまで、俺のことは警戒対象として扱ってくれて構わん」


「……変わってるのね。あなた」


「ああ、よく言われる。もう気にしてないがな」

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