ベッドの上の異種間対談(2/5)

「まあ、そう考えるのが自然だろうな」


 返ってきたのは、肯定とも否定ともつかない、やけに曖昧な現状把握だった。


 質問の答えになっていないとクィーリアが抗議しに口を開きかけた時、ゼノンが先んじて彼女を手で制する。


「俺個人の話をする前に、まずはお互いの認識をすり合わせておかないか。人間が亜人をどう思っているか、亜人が人間をどう思っているか。お互いそれを知らないままではろくに話も噛み合わんだろう?」


 ゼノンの言葉に、クィーリアはこくりと頷いた。


 クィーリアの数ある諜報活動の目的の中で最重要となるのが、人間の動向を探ることだ。耳さえ隠せば人間と遜色ない見た目を利用し、人間の中に取り入り、情報を持ち帰る。


 経緯はどうあれ、人間であるゼノンと直接対話できる今の状況は、クィーリアにとっても都合がよかった。


「まずは確認も兼ねて、俺達人間と亜人の位置関係から。ここから北東にあるロロミラ山脈を境に、南西方面が人間領、北東方面が亜人領だ。ここまでは間違いないな?」


 ゼノンの言葉に、クィーリアは頷いて肯定の意思を示す。


 ロロミラ山脈は亜人領と人間領を隔てるようにしてそびえる山脈で、強力な魔物が多数出没する危険地域として、許可なく立ち入ることは原則禁止されている。


 そのため、人間領と亜人領の行き来はかなりの危険が付き纏うことになる。数か所存在する抜け道を使えば比較的安全に通り抜けることはできるが、それも現在ではクィーリアのような諜報員くらいしか利用していない。


 クィーリアの首肯を見て、ゼノンがさらに話を続ける。


「そして、俺達人間は亜人のことを、ロロミラ山脈の向こうから絶えず魔物を送り込み続ける敵としてみなしている」


「そんなこと、あるわけないじゃない!」


 ゼノンの説明に食い気味になって、クィーリアが声を荒げる。


 瞳に宿る様々な感情が、怒り一色に染め上げられた。


「亜人領に瘴気を流し込んで、魔物で埋め尽くして私達を苦しめているのは人間の方でしょう!? それをよくもぬけぬけと――」


 ゼノンの言葉に勢いよく反論しようと身を乗り出したクィーリアだったが、その瞬間意識が急に遠のき、それ以降の言葉が途切れて消えた。


 視界がぐらりと傾いて、思わずベッドから転がり落ちそうになる。それにいち早く反応したゼノンが彼女の体を支え、ゆっくりとベッドへと戻す。


「先にも言った通り、今のクィーリアには血が足りてないんだ。無理はするな」


「でも、だって……」


「分かってる。今の説明で気に障る部分があったんだろう? 今度はクィーリアの方から、亜人側の認識を教えてくれ。できれば、気に障った部分の説明を加えてくれると助かる」


 感情的になって失敗したクィーリアとは対照的に、ゼノンは相変わらず冷静だった。


 急に声を荒げた自分が馬鹿みたいに思えて、クィーリアはベッドに体重を預けてため息を吐いた。


 それから数回深呼吸を挟み、少し落ち着きを取り戻したクィーリアは静かに口を開いた。

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