バナナはおやつに入りますか?

ムタムッタ

バナナはおやつに入りますか?


「バナナはおやつに入ると思うかい?」

「どうしたんですか急に」


 先輩は唐突である。

 放課後の活動中突然バナナをひと房買って来たかと思えばこれである。既に食べ終わったバナナの残骸をひらひらと眺めながら、僕に問う。


「小学校で恒例のイベント、遠足……持ってくる人間こそ少ないが、概念的に共有されている情報であり結論の出ない謎。それが『バナナはおやつに入るか』、だよ」

「入らないでしょ」

「なぜ?」


 そうやってボクに返しつつ、先輩は一口でバナナを半分頬張る。


「だっておやつって言ったら駄菓子系でしょ? スナック、飴、クッキー、ビスケット、せんべい、チョコにグミとか……」

「商品名称が菓子に分類されるかどうか……と言いたいのかな?」


 さらに1本胃に収めた先輩は3本目の皮をむき始めた。


「そもそも『おやつ』というのは『御八つ』が語源だ。昼の八つ時……今で言う午後2時頃の間食が始まりだそうだ」

「はぁ」

「単純に正午より数時間後に口にするだけなら甘いものとは限らないということだよ後輩くん。農林水産省のホームページでも甘い物に限定しているわけでもない」

「国を盾にしますか…………」

「理論武装といいたまえよ」


 あっという間に3本目を飲みこんだ先輩は4本目に手を掛ける。

 このままでは遠足のおやつにバナナを入れることを正当化されてしまう。いや、別に勝手にしてくれって話なんだけど。反論しないならしないでからかってくるんだよね、先輩。


 なんとか反論の糸口が欲しいので先輩の提示した農林水産省へアクセス。


「む……間食は1日200キロカロリーを目安にって書いてありますよ。既に先輩は4本目! バナナ1本あたりのカロリーは約90キロ! これは間食というより食事では?」

「待て待て後輩くぅん。私は「おやつは甘い物に限らない」と提示しただけさ。本数の問題ではないよ」

「…………今食べてるバナナって甘くないですか?」

「甘いよ」


 じゃあおやつなのか。


「だがそれでおやつと分類するには些か疑問があるね」

「どっちなんですか」

「キミ、遠足のお弁当でフルーツが入っていたことはないかな?」

「ありますよ」


 りんごは定番。みかんに桃、梨、ぶどう。柿の時もあったかな。おかずの入った弁当箱と別に小さいのが。


「じゃあそこにカットしたバナナを入れれば弁当の一部となるわけだ。これをおやつというには無理がある」

「それはお弁当じゃないですか。デザート的な」

「そう……言ってしまえば果物はおやつではなくデザートな訳だ。じゃあなぜ『バナナはおやつに入るのか』論争など生まれてしまったのか」


 …………なんだか話題が変な方向に逸れてしまっているような。

 話を戻そう。


「結局先輩は『バナナがおやつに入るのか?』について考えてるんですよね? 弁当に付属してるなら弁当、おやつに入れたならおやつでいいんじゃないですか?」

「そんな妥協の結論は好きじゃないねぇ」


 めんどくさいなぁ……

 ケースバイケースという言葉をもっと利用してほしい。


「仮に結論があったとして、何でバナナ?」

「古くからある概念だからね、ふと気になったのさ」


 そう言いつつ先輩は最後のバナナを手に取った。

 

「甘い物、間食という意味合いではおやつに含んでも問題ないが、『遠足のおやつ』と限定した場合にのみに含まれない理由は何故かなと思ってね。そしてこの概念は連綿と続いているわけだ。各地で答えが出ていようと、それは明確な定義ではなく議論を着地させるためだけの暫定措置だ。バナナがどちら側に属するのかは議論が尽かない」


 遠足にバナナを持ってこようとすることが間違いなんじゃないですか、と言いたいが、敢えて言わない。単にバナナを食べてるだけの先輩が、不思議と映えるのである。決して変な意味ではない。


「でも先輩」

「なにかな?」

「もう5本目ですよ」


 5本も食べてたら、むしろバナナがお弁当…………!


「…………………………」

「…………………………………………」


 無意識だったのか、先輩はようやく食いしん坊っぷりを自覚したらしい。


「よし、じゃあ何本からならおやつに分類できるか議論しようじゃないか」

「えぇ…………」

 

 結局バナナがおやつに入るのかはうやむやである。

 …………ところで僕の分は?

 

 


 

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