2025/5/7 0:48 聖バシル大学附属病院・待合室
二時間近い
「お疲れ、メガネくん。先帰ってるねー」
「
蒼は
直接の死因は全身に広がったⅢ度熱傷。両手が欠落しているが、断面から推察して死後崩れ落ちたものと考えられる。表皮が炭化しているが、実弟・
どれだけ思い入れのある人物でも、カルテにしてしまえば症例の一つ。全く現実感が湧かないが、確かに彼女は死んだのだ。
ドアをノックし、玄武洞が入ってきた。
「……邪魔したか」
「いえ」
玄武洞の手には遺体の
「仕事早いですね、狩野さん」
「ああ……」
蒼に玄武洞が一枚の写真を差し出す。
「ホトケさんの両手、現場に落ちてたぜ」
「現場に?」
「ああ。……あの人の『
「それは、どういう……?」
「最期まで戦ったんだよ、あの人は」
玄武洞が天を仰ぐ。
「レンタカーを
彼の頬に雫の筋が伸びる。
「俺が……俺が、助けに行っていれば……」
「……タラレバはやめましょう、玄武洞さん」
蒼の視界が
「死ぬんだな、あんなに強かった人が……」
遺体には薄く赤い炎が残っていたが、やがてそれも消えた。眼鏡をかけ直しても、眼前に映る光景は変わらなかった。
仕事を終えた蒼が運転する車は夜の道路を走っていく。
[
蒼はカーナビを操作して電話に出る。
「もしもし」
[あなた、今どこにいるの?]
「今緊急の解剖が終わったところ。すぐ帰るよ」
[そう。……電話、遠くないかしら?]
「カーナビに繋いでるからじゃないかな。何か買って帰ろうか?」
返事は通話終了音だった。
ハンドルを握る手に街灯の光が落ちる。左手の薬指がキラリと光った。
【好きんなっちゃったんだ。『アナタと一緒にいられない人生なら意味なんて無い』って】【同じ場所、同じ夢、同じ未来を並んで見る。……君にもいつか、そんな人が現れるはずだよ】
幸せそうに笑う二人を思い出して、蒼は少し泣いた。
如何にして彼はメガネくんとなるに至ったか 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona
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