第14話 宗教の強み
馬車の中ではどうでもいい話で盛り上がっていた。
自分の生まれ故郷の話。
どういった性格とかこれからどのように活動していくのかとかホントどうでもいい話だ。
俺を使者様だと崇めてくれているのは嬉しいことだが、実際俺にはなんの力もなく、崇められる存在でないことぐらい自分でもわかっている。しかし生活していくのにも学園に通うのにもメイドを雇うのにも金がかかる。
だから以前にも言ったが使者様とやらを演じることにしたのだ。
でもウロボロス教団が本格的に活動を始める場合、もちろん民衆の前で布教活動をしたり、あなたは神に救われるみたいな発言もしないといけなくなる。言葉で人を動かす、そういう能力に長けていたらどんなに楽なものか。
「なあセリカ。活動とは言ってもいつから始めるつもりだ?」
「一応、予定では明日学園前で行うつもりです。明日は人通りも多いですので。お偉い貴族様が沢山いらっしゃいますから」
「そうか残念だ。俺は明日入学式なんだ。参加はしたいのはやまやまだができそうにないな。ああ~非常に残念だ!」
よっしゃあああああああ!
まさか参加しなくていいなんて、ありがとうローズウェル魔法学園。それと教師の皆様。
「使者様は参加なさらないのですね……わたくしは悲しいです。信仰者のみなさんも悲しまれるでしょう」
俺が喜んでいるのとは真逆でセリカは少し涙を浮かべ悲しそうにしている。こんなの見せられると俺が悪者みたいだ。
「せっかく学園前――素晴らしい場所を皆様が確保してくださったのに……国への申請にお金の支払いもすべて無意味だったのですね……ぐすっ」
さっきまで楽しそうに話していたセリカはどこへ行ったのだろうか?
肩を竦め落胆しているようにも見える。
それに鼻をすする音……まさか泣いているのか?
いやでも明日は学園の初日だ。
これからの学園生活を有意義なものにしたいなら友人も作らないといけないし、なんならこのゲームのキャラたちが勢揃いする日でもある。
どんな存在になろうと俺はモブだ。
だからこそ早めに情報収集もしておかなければならない。
何が起きてもすぐに対処できるように。
しかしだ。この学園に通うための金を出してくれたのは紛れもなく教団の信者やセイラだ。
ここまでしてもらって自分の好きにする、それは人間としてどうなのだろうか。
情も義理もあったもんじゃない。
学園の初日を優先すべきか。
それともウロボロス教団の活動をするべきか……。
どうする? 俺。
「使者様、本当に明日は無理なのですか? わたくし達一同はとても、とても悲しいです。う、うえええぇぇええん!」
泣き出してしまった。
俺が馬鹿だったみたいだ。演じてやるみたいな軽いノリでやってきたのが間違いだった。
「あ、あれれ、アスカ明日って入学式だったよな?」
「え、ええ、そうですが……」
うわ~こいつ何言ってんのみたいな目でアスカに見られている。でも彼女なら絶対話を合わせてくれるはずだ。
「確か入学式って昼からだったような気が……。だったら午前中空いてるんじゃないか?」
「いえ、明日の午前中は――」
俺は慌ててセリカの方を向けと言わんばかりに、目で合図を送った。
「あ、すみません。そうでしたね。明日の朝の予定は入学式が行われるということでお断りさせていただきましたね。私のミスです。申し訳ありません」
よしよしよし、アスカが上手いこと話を繋いでくれた。
後は俺が!
「ということみたいだから明日の朝なら活動に参加できる。でもお前が泣いてどうするんだ。聖女って立場なんだからもっと胸を張ってだな、どうどうとしてこそ宣教師が務まるんじゃないか。だから頼むから泣き止んでくれ」
「嘘じゃないですか? 使者様」
「ああ、もちろんだとも!」
「そうなのですか……よかったです! これで皆様も喜んでくれますね。やる気も普段より満ち溢れるのではないでしょうか!」
どういうことだ?
さっきまで泣いてたやつが急にここまで元気になるなんて聞いたことないぞ。
まさか! ハメられた。
今までのは嘘泣きだったのか!?
「セリカや、やっぱり明日は――」
「使者様の教団への熱き想い魔道具で録音させていただきました。この言葉で信者の皆様はより一層信仰心も増し、活動の方も活発になるでしょう」
「ほ、ほう。よかったね」
ということしか言えねぇ!
「でもわたくしはそれ以上に感動しました。やはり使者様は素晴らしい考えをお持ちになり、情に溢れ、この世界では神そのものなのですね。あんな傲慢で醜い貴族達は必要ありません。使者様こそ神であり、真の貴族なのです」
訳のわからんことを語りだしたかと思えば、録音もしてるってこいつは策士かなんかか?
正直言って最近怖いことだらけだ。
元暗殺者メイドに策士の聖女か……?
俺、マジでこの世界で大丈夫だろうか。
この世界で暮していけるのかな?
めっちゃ不安なんだが。
「お、おう。ははははっ!」
もう笑うことしかできない。
何を言ったらいいかもわからない。
でもこうなってしまった以上、もうやるしかないのだ。
ホント甘く見てたよ、宗教ってやつを。
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