第15話 アルフ商会

 俺とアスカ、そしてセリカは首都サンギスでも大手商会――アルフ商会へと顔を出した。


 このアルフ商会は主に獣人族と呼ばれる犬や猫などの見た目をした二足歩行の種族が経営しており、品揃え、店の清潔感、何一つ不満が思いつかないほど素晴らしい店だった。

 なにしろここの商人の大半は教団の信者でもあり、週に一度食料などの物資、金などあらゆるものを支援してくれているようだ。


 まあ、どっちかと言うと支援って言葉より捧げ物のほうが正しいのかもしれない。

 寺院とかだとお供え、お布施になるのか?


 だがそんな信者が大半って店に使者様と崇められている俺が立ち寄れば、そりゃ大変な事態になることは目に見えていた。

 それなのに……どうしてこうなるんだ!


 俺がこの商会に足を踏み入れたすぐのこと。 

 従業員に囲まれ逃げ道を完全に断たれてしまったのだ。


「あの~あなたが天の使者様、ですよね?」

「そうだけど……」

「「「きゃ、きゃああああああああ!」」」


 俺を取り囲んでいる従業員が一斉に騒ぎ始めたのだ。その場ですぐ跪く人もいれば、大声を上げる人、天に祈りを捧げる人までいる。

 まあ喜び方は人それぞれだからね。

 しかしこのお祭り状態はひどすぎる。


 普通の祭りならまだ楽しいだろうし文句はないのだが、今回の場合は宗教なんて興味がない人からしたら不気味で仕方ないだろうな。


 よくよく中を見渡すと普通のお客さんもちらほら見える。まずは俺との接触よりお客の接待でもしろよ、と言いたくもなったが、こんなキラキラした目で皆に見つめられるとなかなか言い出せない。


「みんないい加減になさい。クズトさんが困ってるじゃないの」


 そんな透き通った声に導かれるように俺は商会の二階に目を向けた。そこにいた声の主は高級そうなドレスに手首には赤い宝石が装飾されたブレスレット。

 いかにも金持ちって感じこ女性だった。

 しかも顔立ちも整ってるし、クールな感じがまたいい。


 っていうか、めっちゃ綺麗だな。

 あんな人まで信仰者の一人なのか?だったら俺の婚約相手は信仰者の中から選べば間違いはないんじゃ。この世界は一夫多妻制だし、複数人と婚約してもいいしな。

 アスカが許可してくれたらの話だが……。


 綺麗な女性を見ると思わずニヤニヤしてしまう。その様子に気づいたアスカは俺の耳元で囁いた。


「クズト様、あの方に見惚れているようですが……人妻ですよ」

「ななんだって! っていうかなんでお前がそんなこと知ってるんだよ」

「以前、お会いしたことがありまして」

「何の用で? お前とうとう屋敷の仕事が嫌になって副業でも始めたか?」

「そんな時間はありません。どこぞの主人のせいで忙しく自由時間もありませんので」


 二人で話していると、噂の女性が来た。


「クズト・レオドール男爵でお間違いないかしら?」


 俺とアスカの話を遮るように問いかけてきたのは、さっきの人妻だった。


 緊張するな、俺。

 貴族の挨拶の仕方とかそもそも知らないしどうすれば……ここはアスカに頼むべきか? 

 辞めておこう。あとでバカにされるし。


 もう挨拶とかどうでもいいや。

 信者なら多少の失礼ぐらい許してくれるだろう。あくまで俺の感覚だけど。


「俺の名はレオドール家当主、クズト・レオドール。っでこっちは専属メイドのアスカ・リーズベルト」


 俺が紹介するとアスカは両手でスカートの裾を軽く持った。左足を斜め後ろに引き、右足の膝を軽く曲げる。

 背筋を伸ばしお辞儀したのだ。


 さすがはアスカだ。見事なものだ。


「私の名はリゼ・アルフェルンと申します。これからは顔見知りにもなった訳ですし、クズトさんとお呼びしても?」

「ああ、俺は構わないが……セリカはどうなんだ?」

「い、いえ別に……」


 うん? 態度がいつもと違う。

 ……まあ、気のせいだろう。

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