マッチングアプリでの恐怖体験。
当時22歳のわたしはベッドに寝っ転がっていた。天井に向かって、気合いが入りすぎて充血したパキパキの目で切実な想いで呟いた。
「彼氏欲しー…」
最近入れたマッチングアプリで、メッセージのやり取りをしていい感じになってる人と、本日13時から水族館デートすることになっている。国立大学卒で、身長173。同い歳。カフェで勉強するのが好きな生真面目そうな男性だ。顔写真の交換はしていない。
9時。この日の為に大金はたいて揃えたお洋服を身に纏い、鏡の前でひらりひらり回ってチェック。気合いは十分。
11時。メイクをする。本日はお肌の調子がよい。あがるゥ〜わたし誰よりも可愛い〜と思いながらグミを口に放り込んだ。
ちょっと緊張していてお腹は空かなかった。お昼ごはんはしっかり食べずにグミで済ました。
12時40分。電車に揺られて水族館に到着。アプリのメッセージ上で交換したLINEで連絡を取る。着ている服装の特徴をお互い伝え合う。ドキドキしながら待っていると、肩を叩かれた。
「さくらさんですかね。はじめまして」
男とわかるが甲高い声。
わたしの身長は162なのだが、来た男は目線が同じくらいだった。服装は薄い水色と白のストライプ柄の麻100%っぽいよれたシャツにベージュのズボン。黒いウエストバッグは左肩に掛けて持っていた。
顔はバカボンみたいだった。
身長10は盛ってんな?シャツにアイロンかけろ?ウエストバッグその持ち方してる人初めて見たんだけど?
うお〜と若干落胆しながらも「そうです〜はじめまして」。
いや人は見た目じゃないし。とりあえずデートしてみるか。
「いや〜よかったです」
男がニマーと目をかまぼこみたいな形にして笑う。
「よかった?」
「今まで待ち合わせしても、僕のこと確認したら帰る人ばっかだったんで。ちゃんと会ってくれたのあなたが初めてです」
わたしは脳内でデカめのメガホンを手に取り思いっきり叫んだ。
ハズレだー!!
カクレクマノミなどカラフルな魚が泳いでいてイソギンチャクもいる水槽の前で「かわい〜アジかな?食べれるかな?」とか言い出す男。
頑張って冗談言ってんのかな。さむいな。と思った。
「あっ違った、これなんて読むんだろ、難しい名前だな」魚の種類が記入されてるプレートのカタカナの羅列を見て言っていた。
いやカタカナ読めないやつとかいるんか?
こいつ国立大卒も嘘だな。
そして気になるのが、水族館に入場してからわたしの背後にぴったりくっつくように歩いていることだ。
こえーよ。距離も近いしばっちり息遣いが聞こえる。口呼吸かー…ないわあ。
エスコートはもう期待しないから前か横にいろよ。なんで背後なんだよ。
「ちょっと休憩しましょうか」
男の提案で、入場後たった20分で休憩することになった。
座るのかなと思ったら、椅子のある休憩スペースの隅で立ちながら休憩するようだった。
マジでなんなんだ。
壁にもたれかかりながら、男が口を開く。
「いや〜楽しいですね」
いいえ、全然!とツッコミたかったがこらえた。
「ね」とあやふやに笑っておいた。
「あなたもカフェ巡りが好き…なんですよねっ?」
語尾強めでまるで尋問されてるみたいだ。なにこれ取り調べ?
「はい」
「じゃあ今度おしゃれなカフェにいきましょう。僕のすんでる町にあるんです。勉強教えてあげますよ。プロフィールにも書いてるけど地元の国立出たので」
「あはは」
国立大卒についてはもう察した。特に言及することもない。
男の住んでる町は確か、この水族館から電車で1時間。遠すぎ。
まあ次会うことなんてないけど。
「あっ僕車で来たのでこのあと××町までショッピングにいきませんか?お洋服とか買ってあげますよ」
××町はここから車でも1時間ほどかかるし山奥じゃん。こわすぎるんだが。というか。
「車で来たんですか?」
前もって交通手段は電車だと決めていたのに。
「はい。車で来ました。駐車場に停めてます。駐車場代高いので早めに××町にいきましょう」
満面の笑みを向けられた。黄色い歯がむき出しになっている。
こ、こわすぎる。車に乗ったら変なとこ連れてかれそうだな。この男、さっきから挙動がおかしいしヤバいやつなのではないか。
ひんやりして背筋が震えた。
「車酔いが酷いので、車には乗れません」
嘘だけど。
「え〜大丈夫ですって」
身体を揺らしながらヘラヘラ笑う男。
わたしの危機察知センサーが鳴りまくっている。
「無理です」
この押し問答を6ラリーほど続けた。男は唇を尖らせ眉を潜めて腕を組みながらなにか考えているようだ。この場から逃げた過ぎる。
「わかりました!じゃあ次デートするときは車酔い止めの薬買って飲んできてください」
ヤベー!この男、異常だ。
その後駅で男を撒いた。
追いかけてきてるんじゃないかとおびえがら何度も振り返って確認しながら帰宅した。
電車の中で男のLINEをブロックしてマッチングアプリからも退会した。
そしてふと思った。
彼氏欲しいって漠然と願っていたけど、恋愛ってなんだ。
わたし…男と遊びたかっただけじゃないの。
急にハラハラしてきた。
悪いことをして、誰かに、なにかに、謝らなければいけないような気持ちになった。脳と心臓がきゅっと絞られて血の気の引ける感じがした。
気が付いたら恋愛について検索していた。
特定の異性に特別の愛情を感じて恋い慕うことだとヒットした結果がスマホに表示された。
そういうこと頭になかった。めんどくさいとすら感じた。
ああなるほど。わたしは人に対するリスペクトをすっ飛ばしていたのだと理解した。
なんて浅ましい!ばっちい!わたしは自分の未熟さを猛省した。
わたしがこんな体たらくでいたから、それにふさわしいブッ飛んだ男とマッチングしたのだろう。
わたしもあの男も、わざわざお互いのためにメッセージを重ねてデートもして時間を費やしたのだ。それに対しては男に感謝をしておこう。
フリーでも、充実した毎日を送っているし大満足している。
親や周りや環境のおかけだ。感謝をしよう。
それからわたしはマッチングアプリから距離を置いた。
(いろんな意味でいろんなものが)怖かったです。あなたも気をつけて下さいね。
アラサー女子の回顧録 〜マチアプ編〜 さくら @sakura3dayo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ミニチュアダックスフンド/さくら
★3 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます