原始人の鼓動
れいとうきりみ
Act.1 アビリティ・ヒューマン
「カントー行きの便はこれか」
初めて今住んでいるダバオからニッポンに行く。出発する便を確認し、乗り口へと向かう。
機内は意外と快適だった。フカフカの席、とても広く足を伸ばせるほどの前の席との間。どれをとっても最高級だ。
少し席を堪能し、持ってきた本を開いた。ここから長い。きっと暇になる。
間もなくして飛行機が離陸した。空港が小さくなり、いよいよ見えなくなった。これから旅が始まるというその時。
大きい音とともに飛行機は爆発した。
* * * * * * * * * * * * *
「目を開けられるか」
中年の男の声だった。トーンは低く、抑揚のない冷たい声だった。アルルはしばらくして目を開けた。
「驚かずに聞け。お前の乗った飛行機はテロにより爆発した。そしてお前は死ぬ…はずだった」
男は続ける。
「君に選択肢をやろう。一つ目はこのまま死ぬ。そして二つ目は君の能力者の『能力』を集めてこの世から消す」
男は表情さえも変えなかった。
「聞くまでもないか。死にたくないのなら、後者を選択するはずだ。心の中で叫べ」
アルルは死にたくないと念じた。
「わかった。過酷な旅が始まるが、死ぬよりはましだな」
男の手から光が漏れだした。やがて動かなかった体は動くようになり、傷が癒えた。
気が付くとアルルは、知らない町にいた。知らないもの、知らない人、知らない場所。
「ナミビア地方だ。ここは特に能力者が多い」
「あのさ、なんで能力を消したいわけ?」
アルルが口を開いた。
「今の人間に能力は必要ない。むしろそのせいで戦争が起きているところもあるくらいだからな」
「どうやって集める」
「相手が心を開くと具現化された『能力』と話せる。そういう能力をお前に授けた。あとは能力と契約して、自分の体に取り込むだけだ」
男は淡々と説明した。
「ここには三人の能力者がいる。そいつらと接触し契約しろ」
それだけ言うと男は消えた。アルルは戸惑いながらも、ポケットに入っていた地図を頼りに家に向かった。
家には生活に必要な家具がすべて置いてあった。まだ状況を理解できていないアルルは、ベットに座り考えた。
〈死なないために能力者にあって能力と契約し、この世から消す〉
なぜ能力者がいるとわかっているのに自分で取りにいかないのか。なぜ自分が選ばれたのか。
深まる謎を後にし、アルルは買い物へと出かけた。
原始人の鼓動 れいとうきりみ @Hiyori-Haruka
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