第9話 はなの行く先
「まだ続けますか?」
バキリと足元の剣を踏み砕きながらアソオスは膝をつく女性に問うた。
「……ゴブリンなんかにこんなこと……!」
悔しげに女がそう吐き捨てアソオスを睨みつける。もう一人は必死にゴーレムの攻撃を避けていた。
"彼女の武器はもう無いのでしょうが、負けは認めたくない、といったところでしょうね。"
自分を睨みつけてくる少女にそう判断する。ホーリーソードと呼ばれていた剣は現在アソオスの足元で砕けていた。
"この剣は見事なものでしたが、扱うものが未熟すぎましたね。圧倒的な経験不足……彼女は剣を振るった経験がないに等しいでしょう。"
女の剣を振るう姿を思い出してそう思った。
"それにしても……。"
「よく避けていますね……。」
アソオスはもう一人の少女に目を向ける。
"この膝をつく少女とあちら少女……従者、ではないですね。友達というのが適切でしょうが……。こちら少女の武器の扱い、そしてあちらの女性のあの魔道具は……。"
そこまで考えていると、アソオスの目の前が急に暗くなった。少し水分を含んだ土がパラパラと顔から落ちる。
「アスカ、今よ!逃げましょう!」
「わかった!しっかり掴まっててよ……祝福を受けし靴よ、スカイジャンプ!」
アスカと呼ばれた少女がアソオスの前にいた少女を抱えて空に飛び上がる。そしてゴーレムの群れから抜け出すと、風のような速さで逃げていった。
土を振り払いながら、アソオスは追いかけようとしたゴーレムたちを止めた。
「殺したかったわけではありません、この場から追い払えただけで充分です。お疲れ様でした。」
パンとアソオスが手を叩くとゴーレムたちはたちまち土に還った。
集落の井戸から水を汲んで顔を洗う。
「まさかあんな目眩ましをくらうとは……。私も油断しすぎでしたね。」
井戸の縁に腰をかけて先程のことを考える。
あの逃げ回っていた少女が身に付けていた魔道具は靴だった。様々な魔靴があるが、あの少女の靴に攻撃能力はほぼ無い。あれは移動特化のものだった。あの靴なら誰が使っても様々な場所を駆けることができるだろう。
自分の前にいた少女の武器も、あの少女が振るっただけで防御力の高いゴーレムにいくつも傷をつけた。きちんと剣術を学び研鑽を積んだものが振るえば恐ろしい威力を出すだろう。
「何にしても、見事な魔道具でしたね……。」
あのような少女たちが使っても成果を出す魔道具をつくりだすなど、自分が思っていた以上に人間の国は著しい発展をとげているようだ。
アソオスは自分が砕き潰した剣の元へ向かった。欠片でもわかることはある。持ち帰れば何かの役には立つだろう。
「おや……?」
アソオスが先程の場所に戻ると、例の剣は綺麗に消え去っていた。戦闘の後はあるのに、剣の痕跡はまったく残っていない。あの魔力の跡すらない。
暫くその場を探したが、目当てのものが見つかることはなかった。
「見つからないものは仕方ないですね……。」
アソオスは剣のことを諦めると、最後にもう一度同胞と墓場へ向かい一礼して集落をあとにした。
「クルヴィさん、私の神器壊されちゃった!」
レスリア帝国のエクシリア城で後ろからそう声をかけられたクルヴィは振り向いた。
そこには疲れ切ったアスカと涙目のハナがいた。声をかけたのはハナの方だ。
「 ハナ様、それは本当でございますか?」
「…………。」
ハナはコクンと頷いた。
「アスカ様の神器は?」
「私のは、大丈夫、です。」
荒く息をしながらアスカが応える。
「なんかすごいゴブリンに壊されちゃったの!ゴーレムにいっぱい囲まれて……!だからもっとすごい神器ちょうだい……!」
ハナはクルヴィにそう訴えた。
「…………わかりました。アスカ様、ハナ様、お疲れ様でした。アスカ様は自室でごゆっくりお休みください。ハナ様は私に着いてきていただけますか?」
クルヴィのその言葉に、アスカとハナは頷いた。
「……というわけで、アイツと会うまでは順調だったのよ!」
「そうでしたか。」
クルヴィとハナは暗い階段を降りていた。明かりはところどころにある魔道具から発せられるものだけである。
「勇者の私がゴブリンなんかに……!………………ところでクルヴィさん、どこまで降りれば新しい神器を貰えるの?」
「もう着きますわ。」
コツン……と靴を鳴らしたクルヴィとハナは大きな扉の前に辿り着いた。
「ハナ様、この中ですわ。」
クルヴィが扉を開ける。
「え……?」
ハナの小さな声が吸い込まれる。
「ハナ様、神器は勇者様一人に一つだけですの。ですからもうハナ様に差し上げられる神器はございません。ですがハナ様は勇者様……。できることはありますわ。さあ、この扉の先にお進みくださいませ。」
「クルヴィ、またか。」
「はい。今回は神器が壊されたとのことです。」
王座に座るクリムにクルヴィは跪き報告する。
「ですが今回の勇者たちはシアルウの討伐に成功したものもおります。まだ期待して良いかと。」
「……そうだな……。生きている勇者には引き続き支援を怠るな。」
「かしこまりました。」
クルヴィが王座の間をあとにすると、クリムは人払いを行った。
「魔族は許さぬ……絶対にな……。」
クリムは噛みしめるようにそう口にした。
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