第4話 シアルウ
"魚の長"と呼ばれるラスティー、魔族の国の慈恵の湖に居を構える彼女は決して、決して魚類のみの長ではない。正しくは水に関する魔族たちの長である。
彼女は水の生命と共に歩むことにした原初の生命体の一つが、水の生命と共に生み出した水の中で初めて人間と同じ姿をした生命体だ。
それにマルベーリがラスティーと名前をつけ、"魚の長"を名乗るように言い、水に関する魔族の長とした。
ラスティーが遥か昔に"何故自分は水の長ではなく、魚の長なのか"と聞いたことがある。
マルベーリは、""水"はとても重要なものであり、それの長と名乗れるものはこの世界にはいない"。と答えたのであった。
「酷いわね……。」
ラスティーはそういって、勇敢な魔獣の死骸をみた。
その死骸は乱雑に牙と爪が取られ、美しかったであろう毛ところどころ焦げていた。毛皮を剥ごうとしたのであろうその跡が見受けられたが、経験不足だったのであろう。全く剥ぎ取ることが出来ずに諦めて立ち去ったということが全身に刻まれた傷からわかった。
「ラスティー様……このものをどうしましょうか?」
悲しげにラスティーに問いかけたのは、この魔獣の縄張りの中にある泉の精霊たちだった。この精霊たちは泉の美しさを保つことに特化していた。戦闘能力を持ち合わせていなかったのである。
魔獣は泉を含むこの地を縄張りにするかわりに、泉を守護するといった。泉の精霊たちはそれに応え、泉の恩恵をこの魔獣の縄張りにいるものたちに与えるといった。
こうしてこの地は魔獣と泉の精霊たちに守られ、獣たちは生命を輝かせていた。
この地に奇妙な人間たちが入り込んだことを感じとった魔獣は泉の精霊たちにも勿論そのことを伝えた。
戦う力のない泉の精霊たちは獣たちの誘導を行い、自分たちの長であるラスティーにも助けを求めた。
戻った泉の精霊たちがみたのは、変わり果てたこの地と魔獣の姿だった。
「そうね……。あなたたちが良ければ、泉に水葬しましょう。……この勇敢な魔獣に穏やかなる水の中での眠りを授けたいわ。」
「勿論良いに決まっています!お任せください、もうこのものが傷つけられることのないよう、深く温かな場所を用意いたします。」
ラスティーが死骸を水で包み込み、そのまま静かに泉に入れた。あとはここの精霊たちが丁重に扱うだろう。
視線を感じたラスティーがその先をみると、鹿が花を咥えて立っていた。この地の獣なのだろう。
「私のことは気にせず、やりたいことをやりなさい。」
ラスティーがそういうと鹿は泉に咥えていた花を浮かべた。
その後、続々と戻ってきた獣たちは各々きのみや花を泉に浮かべていった。それらはすぐに泉の水面を埋め尽くし、泉の周りにはたくさんの花々で包まれたのだった。
その頃、レスリア帝国ではとある一行が讃えられていた。
「素晴らしい……!これはまさしく黄昏の森の魔獣、シアルウの牙!」
「勇者様、シアルウの討伐に成功したのですね!」
「さすが勇者様だ!」
「本当ね、素晴らしい功績だわ!」
そんな歓声を受け、勇者と呼ばれる一行は誇らしげに胸を張っていた。
「へえ、アイツってシアルウっていうんだな。」
「ええ、シアルウは貴重な草木のある黄昏の森を支配し、我々が薬草を採取する際邪魔をしてくる恐ろしい魔獣です。今まで何人の人間が傷つけられてきたことか……。」
「ですがもうその心配はありませんね!勇者様たちが退治してくれたのですから!」
「その通り!俺が退治してやったからこれからは安心していいぜ!」
そういうと勇者様と呼ばれた男は力こぶしをつくりながら笑った。
「あー、何よタクマ!一人でやっつけた気になってない?!私が炎の檻で閉じ込めてやったんじゃない!」
「そうだぞ、俺だってこの弓矢でヤツの追いつめた!」
「そこは感謝してるけど、トドメ刺したの俺じゃん?」
「俺はお前にトドメを譲ってやったんだ!」
「だーかーらー、次はカズヤに譲ってやるって!」
「絶対だからな!」
勇者様と呼ばれた一行はそう話す。
「ねえねえ勇者様、退治したときのお話しもっと聞かせて!」
「うんうん、もっと勇者様たちのすごい話しが聞きたい!」
子供たちはそう言って勇者たちの服の裾や手をひっぱった。
「わかったよ、聞かせてやる。この勇者タクマ様の武勇伝をな!」
ビシッとポーズをきめた勇者タクマに、
「お前だけの武勇伝は無いだろうが!」
「そうよ、私たちの武勇伝よ!」
行動を共にする勇者たちの反感の声があがる。
「みんな、勇者様がお話しが聞けるぞ!」
「楽しみね!」
レスリア帝国では賑やかな宴が始まろうとしていた。
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