第3話 最後の原初の生命体

 その原初の生命体は今でいうと心配性で、そして最も優しかった。


 同じ時に生まれた生命体たちと共に神のお告げに従い新たな生命体を生み出し、散り散りになった生命体が何かと共に歩むと決めた知らせを聞けば飛んでゆき、その歩みを見届けた。

 そうしてその生命体は他の生命体を見とどけ続け……自分が尽き果てるまで、生命体の子孫をみることに決めた。


 姿はかつて恐れられた相手にもう恐れられることのないように、その相手に似せ。強い力を持つものたちだけの世界にならぬよう、自分がその上に立つことにした。




 そのものの名はマルベーリ。

今は魔王の肩書を持った、最後の今を生きる原初の生命体である。














 「ふむ……多く傷ついているものたちは人間距離が近く……そしてレスリア帝国のある土地に集中しておるな。」

マルベーリが今書類を見ているこの場所は、数日前に魔力トップが揃った話し合いが行われた場所であった。









 あの魔族トップが揃った話し合いでマルベーリが放った一言、"異世界の人間"の存在を聞いた長たちはそれはもう驚いた。

 ラスティーは混乱で会場を水浸しにしてしまったし、ヴェールトは何で今まで言わなかったのかとマルベーリに雷を落とそうとして、パースがそれを慌てて止めた。

 こうして一気に混乱を極めた話し合いは……ラスティーの出した水の水圧で壁にヒビが入り、ヴェールトの拳で完全に吹き飛び、遂に怒ったパースが龍の姿になって屋根すら吹っ飛び……ここまできて[さすがに看過できぬな]と思ったマルベーリの吹かせた突風が綺麗に瓦礫を吹き飛ばした後にそれぞれを"王の力"で頭を引っ叩いたことにより落ち着いた。

 

 「異世界の人間がいるのは確かではあるし、パースやヴェールトの領域の件もある。が、まだ詳しいことには我にもわからぬゆえ、皆にはここまでしか言えぬことを許せ。そして重ねてすまぬが、これまで以上に各々の領域の事柄を伝えよ。……では此度の話し合いはおしまいじゃ。落ち着いたものから気を付けて帰ると良い!」


 そう笑うマルベーリに最早長たちは何も言わず……素直に落ち着いたものから帰っていったのであった。





 皆が帰ったあと、王都に住むドワーフたちが何事だったのかと駆けつけてきたので、

「少し騒いでしまってのう。せっかくお主らがつくってくれたのにすまぬな。良かったら直すのを手伝ってくれぬか?」

とマルベーリが声をかけるとドワーフたちは思いっきり頷いてくれた。


 こうしてここはすぐさま元通りになったのである。







 「ゴブリンが多く傷つけられておりますか……?」

そう不安そうな顔をしながらマルベーリに問うてきたのはマルベーリに使えるゴブリンの執事、アソオスだった。

 「……隠しはせぬ、その通りじゃ。」

 「やはりですか……。我が種族は人間とはかけ離れた姿をしておりますし、少々乱暴なものもおります……。」

 「人間と姿の違うものはいくらでもおるわ。お主らが気にすることではない。それなりに乱暴者がいるのは人間も同じじゃろうて、お互い様のはずじゃ。」

マルベーリはアソオスの言葉一つ一つに自分の考えを返す。アソオスが持ってきたハーブティーを飲みながら書類をめくったマルベーリはため息を吐いた。

 「……レスリア帝国にほど近い距離にあったゴブリンの集落の一つが人間たちによって潰されたようじゃ……。」

 「な、何故……?!」

 「 ……わからぬ。ライ、来い。」

そうマルベーリがいうと雷を纏った大きな鷲が現れた。

 「ライ、参りました。」

 「ご苦労。早速だがこの書類に書かれた場所へ向かってゴブリンの生き残りやこの集落の今の様子をみて報告せよ。」

 ライは素早く資料に目を通すと、

 「御意。すぐに済ませて参ります。」

と飛び去っていった。

それを見送ってすぐさま次の書類にとりかかる。




 「被害が出ているのはゴブリンだけではない。人間の言葉を話せぬ魔獣も多く手にかけられておる。」

 「魔獣までもが……?!」

 「 これは昔からあったことじゃ。魔獣は魔力を持っているうえに魔力を持たぬ獣たちと同じ地域に生息する。我らも獣は狩るし人間も獣を狩ることは理解するに容易い。しかし最近の人間の狩りの傾向が魔力を持たぬ獣ではなく"魔獣"に多くなっていることが問題だ。」

最近狩られた魔獣たちのリストを見ながらマルベーリは続ける。

 「魔獣はその場の主になっていることもある。急に主を失えば、それに従っていたものがどうなるかなど……お主も想像できよう。」


 「主を失ったものたちを狩るのは、さぞ楽だろうなあ。」

マルベーリはそう呟くと天窓から覗く空を見上げた。









 森に火が放たれた。なんて無駄な火なのだろうか。

 この人間たちが自分の縄張りに入ってきたとき感じた異様な気配に、他の獣たちには一刻も早くここから逃げるように吠えたが、皆ちゃんと逃げられただろうか。

 私は逃げることはしない。ここの主であり、それに誇りを持っているからだ。


 「獣すらいねーと思ってたけど、やっと見付けたわ!」

 「うわ!でっかい?!」


 私の目の前にいるのはまだ年若い三人の男女。こんなものたちが私の縄張りに何の用があるというのか。

 「立ち去れ」

と私は吠えた。


 「何故来た?何故私の縄張りを荒らす?」

 「はあ?何言ってんの?そんなの……アンタが魔物だからじゃん!」

そう言った女が魔法を飛ばしてきた。

 


 その言葉に低く唸る。人間たちがこういう生き物であることは知っていた。それでもこの者たちに問いたかった。


 「私の縄張りのものが人間に何をした?!私がお前たちに何をした?!」


 「ごちゃごちゃうるせぇなあ……とりあえずアユは一応コイツに逃げられないように炎壁作って〜。」

 「 OK!」

 「俺は?」

 「俺がコイツにトドメ刺したあとの解体とかよろしく!」

 「お前、またオイシイところだけ持っていきやがって……。」

 「次こそ譲ってやるからさ!」


 炎の檻が私を捕らえる。

 「それじゃあな、魔獣さん!」

 男が斧を振りあげ突進してくる。


 私は牙を剥き出しにして、迎撃の構えをとった。

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