第2話 始まりの話し2

 「異世界からの訪問者よ、よく呼び声に応えてくれた。我々はお前を歓迎しよう。」

まだ状況がよくわかっていないであろう人間にそう告げたのはレスリア帝国の現国王、クリムだった。


 「異世界召喚……これってマジ……?」

暫くしてそうニヤついてこちらを見たその人間の反応に、クリムは頷いた。
















 「勇者の皆様、此度の訪問を私クルヴィ含めたレスリア帝国全国民が歓迎いたします!」


 レスリア帝国王城エクシリオ城には近年"勇者"のための施設がつくられた。そこでは勇者が宿泊したりレスリア帝国による勇者への"知識共有"が行われていた。

 たった今、この施設では"今回の儀式で呼び出された勇者たち"への知識共有が行われようとしていた。


 「勇者の皆様をお呼びした理由はただ一つ、魔族の討伐をお願いしたいのです!」

教壇に立つ女性、クルヴィはそう笑顔で言い放った。

 そのクルヴィの一言に"勇者と呼ばれた様々な男女"がざわつく。

 「まさかの異世界召喚からの討伐依頼……キター!」

 「私たちパーティー組むことになるとか?!」

 「リアルでこんなことあるんだ……!」

他にも様々な声が聞こえる。それをニコニコと見守るクルヴィ。そんな中、ショートヘアの女性が恐る恐る手を挙げた。

 「どうなさいました?勇者様。」

 「あの……急に勇者と言われても……。私、リアルで戦ったこととかないですし……。」

その言葉に他の勇者たちもがくりとした。しかし教壇に立ったクルヴィは笑顔を崩すことなくこう返した。

 「ご心配なさらないでくださいませ!他の勇者の皆様もどうかご安心を。あなたがたは選ばれし勇者なのです!……申し訳ございませんが、そこの勇者様。私にお名前を教えていただけませんか?」

 「え、あ……私の名前はミユ、です。」

 「教えていただきありがとうございます!ではミユ様、こちらの袋の中に手を入れて……触れたものを掴み取ってくださいませ。」

そういうとクルヴィは一つの袋を取り出しミユに差し出した。ミユと呼ばれた女性はあたふたとクルヴィの顔と袋を見る。

 「ミユ様、どうなさいました?ご不安ですか?そのようなものはいりません。この袋は特別な袋ではありますが、ミユ様に害を成すようなものではございません。さあ、さあ、どうぞ!」

再度グイッと差し出された袋にミユは恐る恐る手を入れる。しかし手には何か触れたような感覚はない。かき回すように腕を動かすと、コツ……と何かが爪に当たった。

 「え?!」

その反応を見たクルヴィはニコリと微笑む。

 「ミユ様、みつかったようですね。それを掴んで……出してみてくださいませ。」

ミユが掴んだものは片手に収まりきるくらい小さなものだった。袋から手を出し、恐る恐る手を開く。そこにあったのは

 「指輪……?」

小さな宝石が一つだけついた指輪だった。


 「えっと……クルヴィさん?これはいったい……。」

 「ミユ様の神器はその指輪のようですね。」

"神器"という言葉に勇者たちはまたざわついた。

 「ミユ様。それを身に着けて……"あなた様の知る呪文"を唱えてみてくださいませ。」

クルヴィはミユの耳元でそう囁いた。

 「?!…………え、えーと……あ、アイスランス!」

ミユは身体を震わせ真っ赤な顔をしてそう叫んだ。すると指輪が輝き、教卓に鋭い氷が突き刺さった。

 「お見事です。」

唖然とするミユと勇者たちと違い、至って冷静なクルヴィはパチパチと拍手をした。いち早く意識をこちらに戻した青年がクルヴィの方を向く。


 「く、クルヴィサン……?もしかして俺たちにも指輪が……?!」

 「神器は勇者様一人一人にございます。そしてそれはその勇者様に合ったものが選ばれます。あなた様の神器がどのようなカタチをしているかまでは、あなた様自身でお確かめいただく必要がございます。」


 「 あなた様も勇者……さあ、この袋に手を入れて……神器を手にしてくださいませ。」

勇者たちの咆哮があがり、クルヴィの周りには次々と勇者が集まった。



 






 部屋に集まった勇者たち全員へ神器が渡り、熱気立ち込める部屋でクルヴィは壊れた教卓に手を掲げる。壊れていた教卓はたちまち元に戻った。

 そしてざわつく勇者たちに声をかける。

 「勇者の皆様、皆様に相応しい神器がお手元に渡り興奮する気持ちは私にもよくわかります。ですが今少し、私の話しを聞いていただけますでしょうか?」

 

 「あ、まあアンタの話しなら聞いてやっても良いけど?」

銀色の剣を持つ男は偉そうにそう言った。それに続くように

 「……仕方ないわね。」

 「チュートリアルだと思えば……。」

と偉そうな応えが返ってきた。


 クルヴィはそんな勇者たちの態度を気にすることなく頭を下げた。

 「ありがとうございます!聞いていただきたいこと、それは皆様の敵になる、魔族についてです。」

ゴクリ、と勇者のうちの誰かが唾を呑み込んだ。



 「この世界の魔族はおおよそ皆様が知っているものと変わりません。魔族とは皆様の知る獰猛な獣人や魔物、私たち人間を誑かす魔のものたちのことを指します。そんな魔族を滅ぼそうと我らレスリア帝国は手を尽くしてはいますが中々成果が得られず……。

大変申し訳ないと思いましたが異世界にいらっしゃる勇者の皆様に助けていただこうと思い、皆様をこの世界にお呼びしたのです。勇者の皆様、その神器を持ちどうか我らレスリア帝国の敵、魔族を討伐し魔王までもを滅ぼしてくださいませ!」

クルヴィは教卓をドンッと叩きながらそう声を張り上げた。室内は静まり返る……が、すぐに熱狂の渦に包まれた。

 「キタキタキター!」

 「異世界で神器使って魔王討伐っ!かぁ~良いねえ!」

 「私、勇者より聖女になりたい!」


 「勇者の皆様、こちらをお持ちいただければレスリア帝国ではご自由にお過ごしいただけます。これにて私からの話しは終了となります。皆様のご活躍、楽しみにしております。」

クルヴィは勇者たちにレスリア帝国の勇者である腕章を渡すと最後にニッコリと笑った。




 腕章を受け取った勇者たちは次々と部屋をあとにする。クルヴィは最後の勇者をお辞儀で見送ると部屋に向きなおり、

 「 また随分荒れましたわね……。直すのにも力を使うんですのよ。」

と勇者たちが神器を試したため壊れた室内を片付けていく。

 「さて、今回の勇者様たちはどうなることやら……こればかりはさすがにわかりませんわね。」

と呟いた。



 






 一方その頃、賑やかに歩く勇者たちを空高くから鷹が見ていた。

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