第7話 狂気
和樹の援助もあり、美術雑誌にもこころはインタビューされ、個展は順調にいくはずだった。
僕も、フォトショップでやっとDMを作り、後は個展開催を待つばかりとなった。
和樹の援助は少し不満があったが、こころが順調に個展を開催できればそれでよかった。
異変は、個展一か月前から起こった。
急にこころが会社を休みだしたのだ。
一週間、二週間、こころは会社に顔を出さない。
いくら個展があるからと言って会社に出勤しないのはおかしい。
「部長、坂下さんはどうしたんですか?」
「体調を崩して休職だよ。休職」
「どうしてですか?」
「個人情報だから教えられないよ。さっさと仕事しろ」
胸がざわめく、昼休みに女子社員にこころの休職の件について聞いてみた。
「長嶋さん仲良かったのに知らなかったの?病気が再発して入院しちゃったんだって。なんでも、ネットの書き込みや自宅に誹謗中傷の手紙や電話がバンバン来ちゃって、坂下さん精神病んじゃったんだって。まあ、笠原和樹のお兄さんの元恋人だからって、笠原和樹を利用して、自分を売り込んだ罰よね」
個展はなくなったのか?一緒に個展の準備を今までしてきたこころは、今病院でどうしているんだ?
もう一度、部長のところに行ってこころの休職の理由を聞いた、病院に面会に行けないのであろうか?と尋ねた。
「長嶋さん、このままの状態で行くと坂下さんは会社を辞める方向に行くと思うよ。残念だね」
部長は神妙な顔をして廊下を歩いて行った。
ラインを送ってみる。
一向に既読にならない。
こころが壊れていく。
あんなに元気だったこころが。
「あ、長嶋さん、坂下さんから届け物があります」
総務の女子社員が大きな包みを届けに来た。
急いで、包みを破る。
そこには、真っ青なバスタオルの大きさの手編みのマフラーと手紙が入っていた。
「一馬君、生き抜いてね。坂下こころ」
東京都美術館で見た東山魁夷の真っ青な絵が真っ先に浮かんだ。
「こころー」
僕は廊下で声を上げて泣き出した。
いつまでもいつまでも涙が止まらない。
気が付けば人だかりができていた。
「長嶋さん落ち着いて」
総務の女子社員はただただおろおろするだけで、僕の叫び声はしばらく廊下に響いていた。
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