第6話 過去・現在・未来
「元気そうでよかった」
「・・・」
「一馬の服や本CDまだ部屋に置いたままよ」
「医者とはどうなったんだよ」
「一夜の過ちよ」
「・・・」
「相変わらずなのね。怒鳴りもしなければ怒りもしない。あの時も、話し合いもせずに出ていったきり」
「・・・」
「一馬は優しいのよ。だから、好きになったんだもの」
「・・・」
「腎臓大丈夫?透析になってない?」
「まだ大丈夫」
「そう良かった。昔から風邪ひきやすかったから、コロナが猛威を振るったとき心配してたの」
「・・・」
「体には気をつけてね」
「・・・」
「何かあったら、アパートにきてね。これでも看護師だから」
「・・・」
「新しい彼女大切にしてね」
「ありがとう」
「またね」
「うん」
麗香はそれだけ言うと、伝票を取り席を立って行った。
僕はキーホルダーを開き、麗香と同棲していたアパートの鍵を握りしめていた。
「早かったね。あれが前言ってた看護師さん?」
「そうだけども」
「かわいい人ね。モテるだろうね。一馬君付き合っている時ひやひやしたでしょう」
こころに当てられてしまった。
「せっかく裏原宿来たんだから、カラオケしない?」
「いいねー。個展の下見はこれでいいの?」
「また、一人で来る」
「僕も一緒にくるよ」
「ありがとう。でも、和樹の縁故で業界の方にもプレゼンしようと思って」
僕は自分の無力感にムッと来た。
それならば最初から和樹さんに頼めばよかっただろうに。
「あ、一馬君は力になってくれてるよ。ありがとう。ただ、和樹が手伝いたいっていうから」
「ふーん」
「ごめんね。機嫌直して。気分を変えてカラオケしに行こう!」
「いいけど」
「いこう!」
僕たちは裏原宿の人波を潜り抜けて、渋谷方面に向かった。
彼氏でもないのに和樹さんに嫉妬した自分にモヤモヤした。
そして、それを機嫌を取ってくるこころに優越感を感じた。
これからの未来が僕たちには待っているのかもしれない。
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