第3話 情熱
「なぜ、そんなに絵にこだわるの?」
僕はこころが絵にこだわる理由がわからなかった。
こころは容姿はいい。
性格は破天荒だが、仕事ができる。
会社のみんなにも好かれている。
ましてや、僕みたいに母子家庭で貧しく育った人間と違って、自由が丘に住むお嬢様だ。
不自由なことと言ったら、障害を負っていることか?
「わたしは、草間彌生みたいに大きく羽ばたきたいの!同じ統合失調症でも世界で活躍している草間彌生みたいになりたい!」
僕も障害を負ってから暗い性格になってしまった。
ひとえにすべてを諦めてしまったからだ。
それに比べて、絵に没頭するこころがまぶしくいつしか一馬の心の片隅にこころを想う気持ちが芽生えてきていた。
「一馬君彼女いるの?」
「いないよ」
「一番忘れられない彼女はどんな人?」
「看護師やってた子」
麗香は腎臓病になって入院した先の担当看護師だった。
患者と看護師がくっつくお決まりのパターンだ。
ただ、その時の一馬には腎臓病になってしまった自分に同棲までしてくれる麗香が本当に女神のように映り、麗香に夢中になった。
しかし、同棲は2年で終わった。
麗香は飲み会の席で研修医に口説かれ、そちらになびいてしまった。
所詮、女なんてそんなものだ。
「坂下さんはどうなってるんだよ。個展のこと彼応援してくれているのか?和樹さんに会ってみたいなー。今度会わせてくれよ」
「和樹は忙しいからダメー。ねえ、一馬君はどのミュージシャンのファン?」
「特にいないけれどもドリカムかなー」
ドリカムは麗香の影響だ。
麗香とはドリカムのライブによく行った。
「ドリカムのなんていう歌が一番好き?」
「めまい」
「知ってるー!切ない失恋ソングだよね。いいよねー。いろんなー♪ことが今日から♪変わるんだね♪いつも一緒にいたからまだ全然リアルじゃないけど♪」
麗香とのことはまだ踏ん切りがついたわけでもない。
ただ、今はこころの絵に対する情熱に惹かれつつある。
本当に和樹と付き合っているのか分からないが、付き合っていると言ってもおかしくない容姿だ。
「一馬君、フォトショップ使える?」
「使えないよ。そんなもん」
「今から勉強して、フォトショップで個展のDM作ってよ」
「無理だよ」
「無理と思ったらなんでも無理だよ。わたしだって、不安と闘いながら個展に向けて制作活動してるんだから!一馬君、ちょっと自分の殻に閉じこもっているところがあるよ。一緒に外に出ようよ!楽しい世界へ羽ばたこうよ!」
こころは僕の心情を見抜いていた。
やってみようか?僕も少しだけアートの世界に飛び込んでみようか?
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