第2話 はじまりはいつも雨
「妄想妄想妄想妄想妄想 麻原妄想~♪」
「麻原彰晃の歌じゃん」
「いいの。わたしの頭の中はいつも楽しい妄想で一杯なの。でもね、これ内緒ね。これは本当のことなんだけれどもさー。笠原和樹ってミュージシャンいるでしょう?あの人とわたし付き合ってるの!」
「え?笠原和樹って今人気の?」
「そう。今までの歌は全部わたしに向けた歌だし、わたしも和樹にラジオのネタを提供しにいろいろと助けてあげているの。」
「それこそ、妄想なんじゃないか?」
「違うよ!ただね、和樹は結婚したら、奥さんは家庭に収まってほしくらしくて、わたし画家になりたいでしょう?どうしたらいいかわからなくて悩んでるの」
「どこで出会ったんだよ。」
「友達にアナウンサーの子がいて、その紹介」
「へー」
「でも、ミュージシャンに画家のカップルってジョン・レノンとオノヨーコみたいで良くない?わたしだから専業主婦にはなりたくないのよ。」
「デートはどうしてるの?」
「内緒。うふふ。それよりも、今度の国立新美術館のダリの展覧会行かない?でも、今梅雨なんだよねー。わたし梅雨って苦手ー。」
「夏は?」
「もっと苦手。」
「じゃー、いつ行けばいいんだよ。」
「今でしょ!」
そうして、こころと僕は国立新美術館に会社の帰りに行くことになった。
入社して一か月がたつが、こころの破天荒ぶりにはあきれると同時に不思議な魅力があり、面白みのない会社生活に彩をもたらしてくれるようになった。
僕の障害者になってしまったという挫折感も彼女の明るい話声で徐々に徐々に回復していった。
根津美術館の前を通る。
「会社の近くに根津美術館があるのになんでいつも国立新美術館なの?」
「それはわたしが乃木坂がすきだからさ」
「答えになってないよ」
6月の雨は、まだひんやりと寒さが残っていた。
「わたし来年の1月に個展開く予定でいるから、それを念頭に今回の展覧会見てね」
「個展開くって言ったって、プロデュースするのに何が必要なのさ。必要なのは坂下さんの絵のクオリティーだろう?」
「いいの。一緒にたくさんの展覧会や個展を見て回って、今後のわたしの個展のイメージに直結するように頑張るの!」
青山通りに出た。
車が水しぶきを上げて走っている。
今日は金曜日だから、美術館は夜8時までやっている。
今夜も帰りが遅くなりそうだ。
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