第3話
次の日、学校では妙に昨日のことが気になって、でも考えれば考えるほど恥ずかしくて、彼女の方には顔は向けられず、変な姿勢で午前中を過ごしていた。
午後になり寝不足がたたったのか、僕にしては珍しく授業中にうとうととしていると、背中に何かが当たる違和感で目が覚めた。
寝ぼけた顔で振り向くと、斜め後ろから彼女が満面の笑みを浮かべて手を振っていた。
「あれ、席が違っ…」
僕が言い終わる前に、彼女は先生の方に目配せして「しーっ」と言いながら、床を指差した。
差された床を見てみると小さく折りたたんである紙が落ちていた。
背中に当たった違和感の正体はこいつだろう。状況がよく分からずもう一度彼女の方を向くと、〈読んで〉と口の動きだけで伝えてきた。
僕はとても困惑した。狼狽したと言ってもいい。授業中に手紙が回すことがあるのは知っていたけど、僕が目的地になることは悲しいかな、まずない。
もっと言えばクラスメイトに満面の笑みで手を振られたのもこの時が初めてだ。顔を真っ赤にしながら、でも平静を装って、泣きそうな顔になりながら読んだ手紙にはこう書いてあった。
『学校終わりにバラ公園で待ってる』
もう平静を装うのは不可能だった。顔を真っ赤にしながら手紙と彼女を何度も何度も交互に見返してしまった。その様子があまりに目立ったのだろう、僕は生まれて初めて、先生から授業中に注意を受けたんだ。
放課後、僕は談笑するクラスメイトたちの間を縫って、バラ公園へ急いだ。クラスメイトとの待ち合わせなんかしたことのない僕はとにかく相手より早く着いていなければと使命感に駆られていた。
早く着きすぎて、当然だけど彼女はまだ来ていなかった。同じ学校の生徒が通るたびに何かいけないことをしているように気分になり、バラの花壇の後ろに身をかがめてやり過ごした。
彼女は本当に来るのだろうか、からかわれていたのか、花壇に隠れるようにしゃがみながら考えていると、頭上から声が降ってくる。
「来てくれたんだね。ありがとう」
「や、早く…着いたから………うん……」
バラの花壇に隠れている所を見られて、僕は普段よりも慌ててしまった。いや、これくらい言葉が出ないのはもはや普段通りだろうか。
やっぱり、人と話すのは僕には難しい。
「ふふ、やっぱり君は面白い。君と話すタイミングをずっと待ってたんだ。偶然、昨日の出来事があって、このチャンスは逃すまいと思いきってみたわけですよ」
彼女はにんまりと笑い、僕の動揺なんか気にもとめずに話を始めた。
僕は今になってもその時に何を話したのか、そもそもちゃんと話せれたのか、全く覚えてないんだ。後で母親に、初めて寄り道して帰ってきたときは、浮かれて一日中にやにやしていたと聞いた。
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