第4話 魔法使いとの出会い
「どうかしたの?」
私はハッとして顔を上げた。図書館の前でうろうろしていたら、白いカーディガンを着たお姉さんが話しかけてきた。
「大丈夫?迷子かな」
お姉さんは私に近づいてくる。私は戸惑う。確かに、はた目から見れば私は迷子に見えるだろう。
「ま、迷子じゃないです」
そうとしか言えなかった。迷子ではない。でも家にも帰れない。
どうしたいいだろうと思って立ち尽くしていると、お姉さんは「そっか」と頷いた。
「ずっとここに居るから、何か困ったことがあるのかなって思ったんだけど」
お姉さんは鋭かった。その通りなので、私はうなずいた。
「ちょっと家に帰れなくて…」
困ってます、と消え去りそうな声でつぶやく。正直に話したけど、これじゃただのわがままみたいだ。これではこのお姉さんを困らせてしまう。
お姉さんはその場にとどまってくれていて、少し考えている様子だった。私はいたたまれなかった。
「もしかして、○○団地の子?」
お姉さんから聞き慣れた単語が出る。そこは私のマンションの地名だった。
私は素直にうなずくと、お姉さんは「やっぱり」と手を叩いた。
「朝見かけたことあるなって思ったの!私もそこに住んでるのよ。3号棟」
「え、そうなんですか」
確かに朝近所の人にあいさつする。私は覚えきれてないけど。
お姉さんはなにか合点がいったように頷いて、そして、私の手をとった。
「帰れないなら、うちにいらっしゃい!」
「えっ!?」
「私は独り身だから、迷惑にはならないわ。帰れる時間になったら帰ればいいのだし、それまではいらっしゃい」
ね?とお姉さんは笑顔を向けてくる。私は戸惑いを隠せなかった。
普通、そんな軽々しく知らない人を招くだろうか。お姉さんからしたら私は知らない人ではないかもしれないけど、初めて話したばっかりなのに。
私は大いに悩んだ。
知らない人の家に行くか、家に帰るか。
「……っ、お世話になります!」
私はお姉さんの手をぎゅっと握り返した。あんな家に帰るのやっぱりごめんだ!
お姉さんは「よろしくね」と明るく返してくれた。
私はこうして魔法使いと出会った。
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