第42話

 メンバー・田端裕太

 


 別荘に来てから一週間後、僕らはテレビで石丸さんが指名手配されたのを知った。

 それを見た夜には別荘を掃除して痕跡を消し、車を残して再び山に戻った。

 また登山生活かと思ったがすぐに別の登山道から下山し、近くに隠してあった別の車で東京へと向かった。

「……東京は危なくないですか?」

「人が多い方が目立たないものです。探す方も人が少ない場所の方がやりやすいですから」

「なるほど……」

 石丸さんの説明は合理的だったが、それ以外の目的もあるみたいに思えた。

「リメインはなんて?」

「連絡はありません。あるとすれば当日になるでしょう」

「いつもそんなにギリギリなんですか?」

「場合によります。ですが安心してください。リメインの計画通り動けば私達が捕まることはありません」

 石丸さんは優しくそう告げた。それかえって僕を不安にさせる。

 だけど運転している橋爪は呑気に笑っていた。

「大丈夫ですよ。リメインがいれば俺達は無敵です。連絡がないのだってなるべく危なくないようにするためじゃないんですか?」

「危なくないって?」

「それは分からないですよ。あ。でも盗聴とか気にしてるんじゃないですか?」

「盗聴って……。僕らが契約した回線じゃないんだぞ?」

「警察にバレてるとか?」

「ならなんで捨てろって言ってこないんだ?」

「あ。そっか。まあでも他の理由っすよ。今までだって問題なかったし、この車だって用意してくれてた。東京だって人が多いから隠れやすい。こういう商業用の車は職質されにくいし、ちゃんと考えてくれてますって」

「だといいけど……」

 橋爪の言葉はには納得できるところも多い。

 だけど石丸さんが指名手配されてる以上、僕らだって正体がバレてる可能性はある。

 それなのに警察の多い東京に戻るのは恐かった。

 だけど一方で僕らはもうやることがない。リメインに頼る以外ないんだ。

 くそ。これじゃあいつもと同じじゃないか。無敵になっても人に動かされてちゃ意味がない。

 僕が内心苛立っていると石丸さんは静かに言った。

「田端さん。落ち着いてください。初心に帰りましょう」

「初心?」

「はい。私達は無敵なんです。怖れることはなにもない」

 石丸さんの穏やかな声に僕は少し安心し、そしてまた別の不安が生まれた。

 石丸さんは最初、僕に死ねるかと尋ねた。

 あの時の僕は死にたいと答えた。その気持ちに嘘はない。

 だけど今同じ質問をされたら同じ答えになるかは分からない。

 あの時はカネもなかったし、心の余裕もなかった。一人で将来のことがなにも見えなかった。

 でも今は違う。カネは三百万ある。心も誰かと一緒に過ごすことでかなり楽になった。

 そして仲間を持ち、少しでもこの状態が長く続けばと思っている。

 だから正直死ぬのは恐い。でもそれ以上に恐いのが一人になることだ。

 今一人になれば僕の人生はたちまち後戻りするだろう。捕まるかもしれないし、そうでなくてもまともに生きていけない。

 お金はあっても一人はイヤだ。

 だからこれ以上はなにも言えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る