第13話
掛井さんを助けたのは貧困ビジネスを生業にしている奴らだった。
いつか彼に聞いたことがある。
そいつらはホームレスに生活保護を受けさせ、アパートから食事までを全て提供する代わりに持ち金を全て巻き上げる。
あんな安アパートなら食事代も合わせて五、六万ほどしかかからないだろう。残りは全て業者が懐に入れているわけだ。
だが一方で足が悪い掛井さんが助かっているのもたしかだった。あの足だと買い物に行くのも大変だろう。
その手間賃としては高すぎるが、それでも屋根のある生活ができているのは業者のおかげだ。
だから本人には言わなかった。そして掛井さんもまた薄々自分が騙されていることを気付いていたはずだ。
あの人は馬鹿じゃない。それでも騙されてやっている。
それで悪徳業者が助かるのだから。
しかしそのせいで掛井さんは最後に残った尊厳すら失ってしまったのだ。
私と会ってそのことに気付いたのかもしれない。
だから首を吊ったのだろう。
未来もなければ過去も悲惨だ。その上なけなしの誇りも失えばこれ以上生きていても仕方がないと悟ったのかもしれない。
弱者はどこまでも搾取される。カネも、尊厳すら踏みにじられる。
無自覚な悪意が善意のふりをしてはびこっていた。
それがこの社会の本当の姿だ。
そのことが許せなかった。
私以外誰もいない掛井さんの葬儀に出向くと今まで感じたことのない憤りを感じた。
だがだからと言って自分になにかできるわけじゃない。
こんなちっぽけな自分にできることなどなにもないのだ。
そう諦めた時、私は彼の言葉を思い出した。
『死ぬことができるならあなたはもう無敵だ。もうなにも怖れることはない』
私はハッとして自分の両手を見つめた。
ちっぽけな手だ。だがなんでもできる無敵の手でもある。
過去も未来もないのだから、あとあるのは今と死だけだ。
私はどこまでも自由だった。
手を握ると決心がついた。
この社会の敵になる決心が。
私は葬儀場をあとにすると炊き出しをしている公園に向かった。
そこでまた彼に出会った。彼は私を待っていた。
私を見ると彼は優しく微笑み言った。
「来てくれると思ってました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます