第5話

 取材が終わると僕達は駐車場へと向かった。

「今日はありがとうございます。また原稿ができたらチェックしてもらうと思うので」

「アハハ。なるべく良い記事にしてくださいね」

 香取は笑うとベンツのGクラスの前で立ち止まった。服装はシンプルだが車は派手だ。これも新車で買えば一千万以上する。

「すごい車ですね」

「知り合いに勧められて買ったんですけどね。失敗しましたよ」

「失敗? どこか不満が?」

「車にはありません。燃費が悪いことを除けばね。でもやっぱり運転は面倒ですよ。タクシーで良い。たまには乗らないとなと思ってガレージから引っ張り出してみましたけど、何度か擦りそうになりました」

 贅沢な悩みだ。それなら僕にくれと言いたいところだが、もらったところで満足に維持費すら払えないだろう。

 するとポロロンと音が鳴った。香取はスマホを取り出して確認する。どうやらアプリの通知音らしい。だが聞いたことがなかった。

「噂をすればその知り合いです。今夜パーティーをやるから来ないかって」

「やっぱりお金持ちってそういうところに行くんですね」

「人脈は大事ですからね。金のなる木です。僕はああいう騒がしいところは嫌いなんですけどね。まあこれも仕事ですよ」

「今のはアプリですか?」

「そうです」

 香取はスマホの画面を見せた。そこには黒字で金文字でELと崩して書かれたアイコンが表示されている。

「『エルドラド』という会員制のSNSです。簡単に言えばVIP達のフェイスブックですね。有料ですし、審査をクリアしないと入会できません」

「審査?」

「学歴。経歴。年収。資産。仕事の実績。あと会員の紹介が必要なんです。薦められて入ったんですが、遊びの誘いが多くてまいってます。こっちはビジネスのためにやってるんですけどね」

 そう言いながらも香取は自慢げだった。自分は選ばれし者だとでも言いたいらしい。

「お金があればあれで大変ですよ。勧誘も多いし、変な奴らに狙われることもありますからね」

 香取はスマホをポケットに戻し、そしてチラリと隣の車を見た。そして馬鹿にしたように笑った。

「まあ、ないよりはマシですけど。惨めな思いをしないですみますから」

 香取の視線の先にあったのは僕のオンボロアルトだった。

 香取は「では」と言って車に乗り込むと言っていたように下手くそな運転で駐車場から出て行った。

 惨めで悪かったな。僕は苛つきながらも車に乗り、そしてエンジンを掛けた。しかし寒いせいもありすぐに止まってしまう。

 思わず大きくため息が出た。それから僕はドアを殴り、またエンジンを掛けてファミレスを後にした。

 早く家に帰って記事にしないと。遅れるとまた文句を言われる。

 疲れていても、眠くても、仕事があるなら働かなければならない。

 カネがないなら、そうするしかないんだ。

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