私は夜が嫌いだ

伊島

私は夜が嫌いだ

 私は夜が嫌いだ。

 静かすぎる夜が嫌いだ。

 耳鳴りと家鳴りと、時折聞こえてくる話し声や車の走行音。

 その全てが私のすぐ真隣にいるような気がして、かと思えばすぐ後ろのようにも感じる。


 カタ……カタ……


 と、出所不明の音が私の耳に届くと、私の心臓がドクンと跳ね上がる。

 嫌な想像がどんどんと膨らんでいく。

 次の瞬間には、どこの誰かも分からない不審者に襲われて、ぐちゃぐちゃにされてしまうんじゃないか。

 そんなことを考える私への嫌がらせか、


 ガタッ!


 と、一層大きな音を立てる。

 声も出さず、ただただ心臓が早く動き出すのを感じる。


 まとわりつく静けさと、ふつふつと湧きあがる不安を殺すためにまぶたを閉じたとしても、増す暗闇が私の不安をより一層肥大化させていく。

 ソワソワとした気持ちになって、落ち着きがなくなる。

 三大欲求の刺激されたくないところが刺激されていく。

 対照的に睡眠への欲求はどんどんと失われていく。

 悶々とした気持ちの悪い気持ちと、ぐうぐうという鳴き声が私の中に響き渡る。

 嫌な気分をかき消すためにスマートフォンに手を伸ばす。

 そうやって、私のことを駆り立てる。


 そのくせ、夜ってヤツときたら、私を嘲笑うかのように置いてけぼりのまま、突如として姿をくらましやがる。

 『朝』とかいう、置き土産を残して。

 『朝』って書いて、『ゆううつ』と読む。

 ありがた迷惑の”ありがた”抜きのお土産だ。


 はあ。

 私は夜が嫌いだ。

 大っ嫌いだ。

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私は夜が嫌いだ 伊島 @itoo_ijima

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