第8話 落ちこぼれの理由
「ご主人様、先ほどのこと、ちゃんと教えてもらっても大丈夫でしょうか?」
「ああ、体が震えるってことだよな」
「はい」
「ノエルも、ちゃんと聞いたことない」
「まあ、俺自身もどうして震えるのか、理由がわかってるわけじゃないんだよな」
「きっかけがあるというわけじゃないのでしょうか?」
「きっかけな…それがわかれば確かに俺も対処というか、克服の仕様があるんだろうけど、今のところは、それがないからな」
「原因がわからないから、克服ができない?」
「ああ、今のところはな」
「でも、聖杯の子と一緒にいるとそれも和らぐ?」
「そうなるといいんだがな…ハチが特殊だからということもあるとは思うが…」
「ご主人様は、私と特別な関係だということですね」
「いや、まったくそういう意味合いではないからな」
「違いますか…」
何かにつけて、俺とそういう関係になりたいと匂わせてくるのはいいのだが、さすがに俺もそんな見え見えの色仕掛けにのりたいとは思わないので、すぐに断るのだがハチは少し残念そうだ。
といっても、のるわけにはいかない。
だって、俺には■■のことが大切…
「ゔ…」
「どうかしましたか?」
「いや、ちょっと頭が痛くなって」
「では、私がよしよししてあげます」
「いや、休めば治るからいい」
また、何かを思い出したような気がするのだが、頭痛がしてその考えは頭から消える。
何を考えていたのか?
わからないが、今考えても仕方ない。
「まあ、俺の体については、そういうことだ。遺物を回収するためにこの学園に入ったっていうのに、それができていないのが、今の俺だ。だから学園ではお荷物とか落ちこぼれなんて言われてるな」
「ご、ご主人様がそんな扱いを受けているなんて!」
「ハチにそう言ってもらえるのは嬉しいんだが、仕方ないことなんだ。リエル、いいか?」
「任せて、いつものね」
リエルはいつものようにあるものを机から出す。
それを俺の目の前に置いてもらった。
他の人が見れば、それはただの遺物だ。
俺たちのように遺物とそうじゃないのとの違いがわからない人たちが、これを見ても、ただの石に見えるだろう。
でも、俺たちにはそれが遺物だとわかる。
そして、それを前にするということは…
「く…」
体は震える。
ただ、動かないというわけではない。
俺は震える手で、なんとか遺物を掴んだ。
「まあ、このくらいはいける…」
「前より安定してる」
「一応これでもやってるからな」
「知ってる。見てたから」
「次の段階をやるか」
「わかってる」
遺物を掴めるようにはなっていた俺は、次の段階となる銃を構える。
いつものように、少し先にある的に向かって撃とうとするのだが、わかってはいたことではあったが、手が震えて銃口が定まっていない。
落ち着け…
大丈夫だ。
近くに遺物はあるが、それだけのはずだ。
何も恐れるなんてことはないはずだなのだから…
それなのに、震えは収まらない。
それでも俺は引き金を引く。
でも、震えているので、狙った場所に当たるわけもなく、的の端に当たる。
「遊んでいますか?」
「そんなわけないのは、見てきたからわかってるだろ?」
「ですが、少しは成長してた。これもそろそろ当たると思って」
「まあ、最初は遺物を掴むことすらできなかったからな。そう思うと、今は少し成長してるってことになるんじゃないのか?」
「少しの成長…それでいい?」
「今は仕方ないだろ?」
「でも、変化は起きてる。変えるなら、ここ」
「わかってるよ」
リエルの言いたいことはわかっている。
ハチという特別な遺物が俺のところにきて、自分自身が変わるのではないのかという期待はもっている。
ここから何かが変わるだろうか?
俺はそう考えながらも、ノエルとハチのことを見る。
「ここでも、仲がいい人が…」
「リエルが、ノエル以外とこんなに流暢に話すなんて、意外…」
二人にそんなことを言われるが、俺は普通に返すのだ。
「いや、ただの道具を作ってくれる相棒ってだけだからな」
「本当ですか?」
「なんで疑うんだよ…」
ハチに疑いの目を向けられながらも、俺は変わっていないいつもの症状に苛立つように拳を握りしめるのだった。
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