第7話 研究所にて
「うん」
「うん」
「同じ顔が二つありますね」
「まあ、双子だからな、普通のことだろ?」
「普通なのでしょうか?」
「違うのか?ハチたち聖杯も八個あるってことを考えれば同じ顔が八人いることにならないのか?」
「そういうことは絶対にありえません」
「そうなのか?」
「はい、私たちはそれぞれ好みというものが違います」
好み?
どういう意味だというのだろうか?
俺は疑問に思ってそれを聞こうとしたのだが、それよりも速くノエルの双子の姉である、リエルに話をふられる。
「それで、ヤーちゃんがここに来た理由は何?」
リエルはそう無表情で言う。
普通の人であれば、こういう表情を見れば、怒っているのかと思い、何も言えずに帰ってしまうだろう。
でも、俺は違う。
というのも、出会いから違っていたからなのだが、今はそんなことを考えるよりも先に彼女に見せたいものがあってここに来たからこそ、取り出す。
「ああ、これを見てもらいたくてな」
俺はそう言って見せたものは、あのとき男が落としていったアーティファクトの一部だった。
俺が初めて見るものだということは、当たり前だけれど彼女もこれを見るのは初めてだろう。
本当は壊したものをそのまま回収したかったのだけれど、オオカミのような見た目をしていた大部分は男に回収されたからだ。
彼女は、すぐにそれをむしり取ると、じっくりと眺める。
「これをどこで?」
「ちょっといろいろあってな」
「なるほど、言えないことと理解。でも、このアーティファクトは興味深い」
「どんなものなのかわかるのか?」
「当たり前。こういうアーティファクトというのはこれ…」
彼女はそう言葉にして、俺にあるものを見せてくる。
資料のようなもので、そこには写真とともに何か書かれている。
アーティファクトに固有の意志をもたせるには…
まず遺物の願いを歪めるのではなく、叶えることをアシストするような形でアーティファクトを作る。
成功すれば、融合した最強のアーティファクトになりえるが、失敗をすればより強力な遺物として暴走する。
資料にはそんなことが書かれていた。
「読んだらわかると思う。このアーティファクトの作り方は禁忌と呼ばれる手法。普通ではない人が作ったもの。リエルとしても、興味が湧くのは自然。でも、真似はできない」
「そういうものなのか…」
「それに、リエルが作っているのは道具。意志をもったものじゃない」
彼女がそう言葉にするのに納得する。
確かに彼女が作るものは、道具としては優秀なものばかりではあるが、それで自分の体を危険にさらしてはいけないということをよくわかっている。
アーティファクトに意志をもたせてしまうと、何かが起こったときに道具として扱えなくなってしまう可能性があるというのがリエルの考えだ。
そして、それはアーティファクトを作るうえで、かなり重要なことだと彼女は言っていた。
「結局、こういうものは作ることができるってことでいいんだよな」
「もちろん。リエルは作りたくないだけ」
「そうか…」
「だから作らない。わかった?」
「わかってる。別に作ってほしかったわけじゃないしな」
「それならよかった。話はそれだけ?」
「いや、これについての見解を聞きたい」
「これ?」
「ハチいいか?」
疑問に思うハチに向けて、俺はすぐに腰の銃を撃ち抜く。
俺以外の全員が驚くが、こんなことをしても無駄だということをわかっていた。
案の定というべきか、俺が撃った銃弾はハチの体に当たることはなくはじかれる。
予想通りのことが起きたと考える俺とは違い、三人は驚いている。
「ご、ご主人様…そういうプレイがお好みなのですか?」
「ヤーは鬼畜さん?」
「面白い…どうして封印弾に当たっても何事もないの?」
二人は無視して、その違和感に気づいたリエルに話をふる。
「どう思う?」
「わからない。彼女が遺物として高位ということだけはわかるけど、それだけ」
「遺物として高位だと封印できないのか?」
「当たり前。アーティファクトは、封印の遺物を模倣して作られたものなだけ、遺物の能力の十分の一にも満たない」
「まじかよ…それじゃ、封印の遺物はどこにあるんだ?」
「封印の遺物は、確認されているだけで十ある。すべては人がもっているから、誰がもっているかは、同じ遺物である彼女に教えてもらえばいいと思う」
「確かにな、言われればそうか」
「うん、それで…ヤーちゃんはあれを克服したの?」
「どういうことだ?」
「だって、遺物と一緒にいるのに、体が拒否してない」
「!」
俺は、その言葉でようやく違和感のようなものに気づく。
確かに、リエルの言う通りだ。
そもそも、ここにいるリエルが俺の担当になった理由というのが、それだったからだ。
遺物を目の前にすると、体が否応なしに震えだすというものだ。
これのせいで任務はうまくいかないのはもちろんなこと、さらにはアーティファクトも最初のうちは使おうとすると同じように体が震えた。
そんなおかしな体質な俺のことを面白がったリエルがいろいろなアーティファクトを提案してくれてなんとか使えるようにはなっているが、遺物に関しては前にすれば、未だに震えが止まらないからだ。
だというのに、ハチという聖杯がすぐ近くにいるのに確かに体は震えたりしていない。
「言われてみればそうだよな」
「気づいていなかった?以外…」
「だってな、今日はまだそんなに時間がたってないのにいろいろあったからな」
「そうなんだ。でも、アーティファクトのメンテナンスもしたいから、もう少しいるといい」
「ああ…」
「その間に、話を聞かせてくれると、リエルも嬉しい。そこにいる聖杯の人のことも含めて」
「いいか、ハチ?」
「はい、触ること以外であれば、私は構いませんよ」
「そうか…」
俺は装備していたアーティファクトをリエルに渡すと、自分のこととこれからをちゃんと話すことにしたのだった。
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