第9話 共同生活?

研究所での用事である、遺物の前で起こる症状をハチに見せた俺たちは、寮へと向かっていた。

当たり前のことなのかもしれないが、隣にはハチがいる。

男女が一緒の部屋にいるのはダメじゃないのか?という意見が、当たり前のように出たが、ハチが離れたくないと言ったのと、学園長の言っていた、遺物なんだからという言葉によって一応の了解は得た。

女性はハチ一人ではなくなったが…


「遅すぎでしょ、どうしてこんなに時間がかかってるのよ」

「まあまあ、亜衣もそんなに怒らないの、あたしのほうにはちゃんと連絡は来てたんだから」

「だからって、うちらに直接送ってくるのが普通だと思うんだけど、ねえ?館」

「ああ、まあ…」

「思ってるなら、ちゃんと連絡してよね!」

「ああ」


なんでこんなにも怒られるのだろうか?

そんなことを思いながらも、下手なことを言ってしまえば、どんな返事が返ってくるのかわからない以上は、あまり言えないのも仕方ないのだ。

俺はそう思いつつも、どうしてここに亜衣と心結がいるのかというのを思い出す。

それは、ハチと二人になるのはダメだと亜衣が言いだし、そういう流れであれば亜衣だけが俺とハチと一緒に暮らすという展開になるのが普通だろう。

でも、今回は違った。

というのもだ。

ハチが聖杯に戻った場合、亜衣のみが女性としていることになる。

そして、亜衣は一人になるのは、さすがにダメだということらしい…

言いだしたのは俺とハチが一緒になるのを反対した亜衣なんだけれども…

まあ、下手に言いがかりをつけられなくなるからいいかとついつい考えてしまい、気づけば四人で一部屋を使うというなんとも窮屈な生活になりそうなのだが、本来は最低でも二人以上で寮で生活することになっているため、ある程度の距離感を保つことができるくらいには部屋は広いので、なんとかはなるだろう。

各部屋にお風呂だったりトイレだったりを完備しているので、完璧だ。


「じゃあ、決めた通りでいいわよね」

「それで、問題ないならな」

「これも、ご主人様と一番近くにいるために仕方ないことということですね」

「楽しそうでいい感じね」


そして、すぐに決めたことの確認を行った。

決めたことというのは、基本的に四人で一緒にいる。

寝るときには、横にもう一つ用意された部屋で男女に別れて寝るというものだ。

最初は抵抗していたハチであったが、さすがにかなり亜衣に言われて、仕方なく了解をしていた。

一応、位置を確認して、壁を挟んで隣になるようにして寝るらしい。

そこまでしないといけないのか?

そう思ってしまうが、今回も下手なことを言ってしまうと余計面倒なことになることはわかっていたので何も言わない。

極めておかしな生活が今後始まるということが、今の俺にわかるくらいだ。

ここで彼女たちの気を悪くするなんてことをしてしまえば、この後に自分がどんなことをされるのか、わかったものじゃない。

だからこそ、何も言わないで従っているのだが…


「どうしてこうなったんだ?」

「雰囲気じゃないかな?」

「そうなのか?」


俺と心結は顔を見合わせる。

その先では、楽しそうに二人が話している。


「わかりますね、亜衣は」

「ハチこそ、いいやつじゃない」


どうしてこんなことになっているのか?

正直なところ、理由がよくわかっていない。

だって、先ほどまでやっていたことというのが、ただ夜ご飯と食べていただけだからだ。

だというのに、急に二人の様子がおかしくなり、気づけば呂律が回らないような状態になったのだ。

俺と心結は、わけがわからないまま、二人を観察する。

ご飯を食べる前まではかなりお互いに警戒をしていたというのに、ご飯を食べて少しすると、二人で酔っ払っているのでは思うくらいに言動が怪しくなり、言ってしまえば、そんな状態がずっと続いているのだ。


「なあ心結…」

「何よ」

「この後嫌な予感がするのは俺だけか?」

「大丈夫。あたしだってその予感には気づいてるから…」


そして、よくない盛り上がり方をしている二人に、俺と心結は、不安を感じていた。

というのも、こういう変なノリがある場合に、よくある出来事。

一緒にお風呂でも入ろう、もしくは一緒に寝よう。

どちらかが起こる可能性というのがかなりあるからだ。

さすがに自重してくれるはずだとは心のどこかで思いながらも、本当にそうなるのかという疑問もある。

そしてだ…

嫌な予感というのは、現実を帯びる。


「よし、仲良くなったし今日は裸の付き合いを最後までしようじゃない」

「いいと思います」

「心結も館もどこに行く気?」

「あたしは、その…」

「俺は少しトイレだ」

「待ちなさい」

「え?きゃああ…」


なんとかトイレに逃げ込んだ俺とは違い、いつも冷静なはずの心結から、そんな断末魔のような声が聞こえる。

俺はどうしたものかと考えながらも、そのまま逃げて時間をつぶすのだった。

それから時間がたち、心結から連絡がきて、ようやく部屋へと戻る。


「お疲れ…」

「そう思うなら、ちょっと付き合いなさい」

「ああ…」


ソファーにて、仲良く力尽きたようにして寝ている二人を見て、俺はいろいろあったんだということを察して、心結の言うことを聞く。


「はい」

「おま、これ…」

「いいでしょ別に…」

「見つかったら怒られるだろ?」

「いろいろあるんだからいいじゃない。それに、一緒のチームになったんだから、これも連帯責任って言わない?」

「そう言われたら、付き合うしかないな」

「そういうこと」


俺と心結は、二人で外に出る。

持っているのは、シガレットと呼ばれるもので、年齢的に使っても大丈夫になるのは来年くらいからなのだが、ストレスが溜まっているという彼女のことを考えると付き合わないという選択はない。

俺は初めての感覚になるだろうと思い、それを加えて火をつける。


「って、甘…」

「ふ…だまされたわね」

「おま…これって」

「そうそう、ただの水蒸気が出る、似たものだよ」

「お前な…」

「悪いこと、してるって思ってた?」

「思うだろ、普通に」

「あたしだって、悪ぶりたいときもあるってこと」

「そういうことかよ」

「まあね。いつも通り、館はいい顔を見せるね」

「からかいたいだけかよ」

「悪い?」

「いや、ただ…驚いてるだけだ」

「そんなことで驚いてたら、明日からの依頼でもっと驚くことになるけど?」

「まじかよ…」


俺たちは、そんなことを話しながらも、時間が過ぎていくのを感じたのだった。

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