第4話 学園の秘密

「それで?ハチちゃんが聖杯だったとするなら、館はどうするつもりなの?」

「どうするって、ご主人様とやらになってしまったからな、まっとうするにしてもそれ以外をするにしても、学園長に意見を聞いてからだろ?一応俺たちは学生になるんだし、ハチのことを匿えることくらいは学園長ならできるかもしれないからな」

「それはどういうことでしょうか?」

「まああれだ、学園長がもっている遺物がそういうものだからな」

「持っている遺物がですか…それはかなり優秀なものということですね」

「ああ、俺も遺物がどんなものかは詳しくは知らないけどな」


俺はそう答える。

遺物学園で、学園を統括しているのが学園長だ。

遺物が溢れかえる世の中で、そんな遺物たちを封印するための教育を行う機関として、そんな生徒たちを統括する人を決めるうえで、重要なのは学園の中で最強であるということだ。

どうして最強なのか?

それは学園長にのみ使える遺物というのが存在しているからだ。

それが、神楽の御鏡と呼ばれる遺物で、それには結界のようなものを作り出す効果があるのだという。

どういう願いによってそれが作りだされるのかはわからないが、絶結の女帝などと言われていたりするのだが、俺たちはそんな理事長がその遺物を使うところをまだ見たことはない。


「まずは学園に戻らないとだよな」

「それはそうなんだけど。戻る前に一つだけやらないといけないことがあるんだけど」

「なんだ?」

「決まってるでしょ、お仕事」

「ああ…ってやってなかったのかよ」

「本当はやってからでもよかったんだけど、嫌な予感がしてたから…まあ、予想は当たってたけど」


亜衣はそう言葉にしながらも、ハチのことを見る。

確かに、亜衣が来てくれなかったら、学園に戻るところで四苦八苦していただろうから、その予感とやらに助けられた。

だから仕事をこなすのを見届けるくらいは、しないといけない。


「あんたはどうせ手伝わないんでしょ?」

「仕方ないだろ?亜衣の仕事が俺に手伝えるとは思わないからな」

「なんでよ、同じ学年で年齢も同じなんだから、できて当たり前のことじゃないの?

「当たり前なわけないだろ…」


俺はそう言葉にしながらも、亜衣が乗ってきたものに乗り込もうとする。

なんの疑問もなく乗り込む俺たちに対して、ハチは驚く。


「これはなんですか?」

「知らないのか?モービルだよ」

「モービルですか?モービルはもっと動いたらいいだけのものだと思っていました」

「ああ、俺たちのモービルは最新型だからな、こういう箱型なんだよな」

「その分使っている遺物の数も多いけどね」

「ああ、かなりの数だよな」

「そうなんですか?私には力は感じますけど、それだけしかわかりませんよ」

「力なんてわかるの?」

「はい、同じ遺物としてわかることくらいはありますからね。遺物がどこにどれだけ使われているのかということはわかりませんが、このアーティファクトにはかなり力が宿っているのがわかります」

「そんなことまでわかるんだ。ハチちゃんさえ連れていけば、周りの強さも簡単に把握できそう」

「遺物ですので、そのあたりは当たり前です」

「へえ…それならハチちゃんはむしろうちらと一緒にいたほうがいいんじゃないの館」

「俺だって、それは思ったけどな。まあ、それも考えて余計に学園に戻ってから話をするのがいいとは思うからな」

「だったら、さっさと済ませるわよ」

「へいへい…」

「じゃあ、レッツゴー」

「運転するのは俺かよ」

「当たり前でしょ」


俺たちは、モービルを発信させる。

案の定というべきなのか、俺が何かをやることもなく簡単に仕事を片付ける。

ここで、俺が受けているのが任務で、亜衣が受けているのは仕事と名前が変わっているのは、一つは学校を卒業するために必要なこととして行っているのに対して、亜衣が行っているのは、本当に金銭が発生している。

それこそ仕事として成立していることだからだ。

本当は卒業してからお金をもらって依頼を受けるものが仕事で、これができるのは、そもそも学園で単位をすべて取得済みであり、さらには学園内でトップ5以内に入らないといけないという制約付きでもある。

そのため、学園在学中からお金を貯めることができるようにと、そこを目指す人は多くいる。

俺も最初のうちは上位を目指したりをしていた気もするが、今では全くそんな気持ちはない。

だからこそ、亜衣が完璧に仕事をこなすのを見ていても羨ましいとすら感じない。

さすがだなと思うくらいで、それ以上のことは思わない。

俺たちは、ようやくというべきか学園に戻る。


「本当に便利だよな」

「ま、これも学内上位の特権ってやつだね」

「こういうところだけは羨ましく思うな」

「だったら、館も上位を目指したらいいのにさ、昔みたいに…」

「ああ…」


亜衣にそう言われて、俺たちの雰囲気は少し気まずくなるが、それもすぐになくなる。


「す、すごいですね」


それは、ハチの驚いた声を聞いたからだった。

といっても、ハチがそう言いたいのも無理はなかった。

国がお金を出しているということからもわかる通り、学園の施設というのはかなり豪華なのだが、そんな中の状態を外から見ることができないというのも、驚く要因ではあった。

学園は、それぞれ周りを四つのアーティファクトで囲むことによって結界のようなものを張り、外から見るだけでは普通の学校と同じようにしか見えないが、中に入ることで違う見た目が現れるような仕組みになっている。

俺たちが実践から授業までこなせる校舎に、俺たちが住む宿舎、いくつかの遺物を保管している保管庫にアーティファクトを作っている研究所など…

あげるだけでかなりの数の施設がある。

周りから見えなくなっているのは、学園にある遺物を一般の人の目に向けないようにするためだ。

もしも、一般の人の願いが遺物と反応してしまうとその遺物が暴走してしまう可能性があるから、こんな処置をしている。

まあ、そんなことは別に今考えることじゃない。

今は…


「学園長に会うのが先決だな」


俺たちは、学内へ入っていくのだった。

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