第2話

「雪江ちゃんって竜二君のこと好きでしょ」


 ある日、クラスのあまり仲良くない女生徒が雪江のそばにきてささやいた。


「わかるよ。ずっと竜二君のこと見てるんだもん」


 敢えて見ないようにしていた自分の心と向き合うと、雪江は恐ろしい思いがした。こんな容姿も悪くて嫌われものの惨めな自分が、人気者の竜二を好きになるなんて、なんという冒涜だろう。私の汚さが彼を汚してしまう。罪を犯したような申し訳なさ。自分の心の恥部を覗かれた苦しみに雪江は何もいえず、うつむいた。


 女生徒は意地悪く笑った後、蔑むような目をして、声を落として言った。


「……気持ち悪いからやめてよね。ホントウケる。あんたが優しくされているのもただ気まぐれで同情されているだけなんだから。思い上がらないでよ。あんたが無駄な希望抱いているの見てて苛々するんだよね。馬っ鹿みたい」


 彼女が行ってしまった後、雪江の心は冷たい空気に浸食されていくのを感じた。


 わかっているわ。私だって。文句を言いにきた女生徒に怒りはわかなかった。だって、それは本当のことだから、浮かれている自分を戒める言葉だから。逆にありがたかった。どこでもない高いところへ浮かんでいく自分を引き留め、地面に押さえつけてくれる。遠くに行って行方不明にならないように。自分の居所をちゃんと示してくれる。道を踏み外したらいけないのだ。人よりも劣っている分、まちがいも多いのだから、本能に従って羽目を外しては駄目だ。自分を律しないと。

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