退魔の経
立花獅郎
第1話 子どもの心
──いいか、
東北のとある街。飲み屋が連なる中央の繁華街から、西に三キロメートルほど行くと、その寺はあった。
寺の名前は、「
真言密教系の寺である。歴史が古いようで、門構えからして年季を感じる造りだった。瓦は色こそ落ちてはいないが、ひびが入っているものがいくつか目につく。木の部分も風雨にさらされ続けたせいか、深い茶色に変色していた。
その門の前に、一台のタクシーが止まった。
ドアが開く。
助手席から、紺色のジャケットを羽織った三十代と思われる女性が降り、後部座席から眼鏡をかけたスーツ姿の男性が降りた。
男性の後から、男性に掴まるようにしてふらふらと男児が降りてくる。小学生だろうか。顔色が良くない。真っ青だ。寺などではなく、病院に行った方がよさそうに見える。
「ここか……」
眼鏡の男性は呟くと、男児のほうを見た。
「正太郎。パパがおぶるから、ほら、おいで」
子どもは返事をするのも辛いという風で、こくんと頷くと父親の背中に乗った。女性が心配そうな目でその様子を見ていた。おそらく、この男の子の母親なのだろう。
三人が山門をくぐった。境内に入ってすぐの両脇に、花壇があった。花壇には、つぼみが膨らんだチューリップが植えられていた。今は四月の半ばだ。開花はもうすぐだろう。
参道の右手には駐車場がある。車は一台も停まっていなかった。
左手のほうは墓地になっていた。墓石が三百基は建てられそうな、広い墓地だった。いくつかの墓には花が供えられていた。
参道は真っすぐ本堂まで続いている。本堂近くに一本だけ桜の木があり、七分咲き程度にピンク色の花が開いていた。静かな境内の雰囲気に合う、可憐な花だった。だが、男性と女性はそれに目を移さず、本堂を見据えて歩を進めた。
本堂の向かって東側に寺務所が建っている。親子はその玄関から中に上がった。すぐ右手に「待合室」とプレートが貼られている部屋がある。女性と、子どもを背負った男性は、迷わずその部屋に入った。
その部屋は八畳ほどの板の間だった。リフォームされたのか、まだ板が新しいように見える。部屋の中央には横長のテーブルが置かれていて、そのテーブルに沿って椅子が六つ並んでいた。
木製の椅子に座った子どもの顔は、相変わらず青い。隣に座った女性は、ハンカチで子どもの顔の微量な汗を拭いていた。対面に座った父親は、腕を組んで目を瞑っている。重々しい空気がそこにあった。
すると、廊下から足音が聞こえてきた。
二回のノック後、「失礼します」と声がした。
開いた戸の向こうに、高校生くらいの青年が作務衣姿で立っていた。
「こんにちは。ご予約されていた山口さんですね」
「『はい』」
男性と女性の声が重なった。
男性が一瞬、嫌そうな目で女性を見た。
「ようこそ。それでは本堂のほうで詳しいお話を伺いたいと思いますので、どうぞお越しください。あ、本堂はこの部屋を出て、左手になります」
青年はお辞儀をすると、さっとその場を去った。
「正太郎、行こう。もうすぐ良くなるからな。ほら、またおぶさりなさい」
屈んだ男性の背中に再度、子どもが乗った。
待合室から本堂までは一分もかからなかった。
堂内の内側、畳が敷かれた
「正太郎、座れるか?」
「座れなかったら、横になってもいいわよ」
横から母親が割り込む。
「それは先方に失礼だろう。お前は黙っていなさい」
「ここで無理して、正太郎がもっと具合悪くなったらどうするのよ」
父親と母親が睨み合う。
「ぼ、ぼく、座れるから……」
弱々しい声で正太郎が言い、父親の背中から降りて、ふらつきながら座布団の上に正座した。
「少し脚を崩したほうが楽だぞ、ほら、パパに寄りかかっていいから」
男の子は女の子座りになって、右隣りの父親に半身をもたれかけた。
父親が本堂の中を見渡す。中央、右手、左手と三体の仏像が祀られていた。
中央の仏像は人の背丈ほどある大きさで、立派な祭壇が設けられていた。その像は顔が三つあり、どれも迫力のある表情をしている。六本ある腕には、弓矢や鈴などがその手に握られている。一般的な寺院の本堂に祀られている仏像とは趣がかなり違っていた。なにか、攻撃的な気迫を感じる像だった。
「すみません、お待たせしました」
声がしたほうを向くと、紺色の法衣に明るい茶色の袈裟を纏った、先程の青年がこちらに向かって歩いていた。
父親と母親が同時に「え?」という顔になる。それを知ってか知らずか、青年は涼しい顔で座布団の上に腰を下ろした。
青年が腰を折って、深く頭を下げた。それにつられて、男性と女性も礼をする。
「改めまして、ようこそおいでくださいました。おれ、いやぼくが、藤明院の代理住職をしています、
ニコッと経真と名乗った青年が笑った。
代理とはいえ、寺を預かる僧侶にしてはあまりに若すぎる。父親と母親の訝し気な視線を受けながら、
「若輩者ですが、精一杯務めさせていただきます。これでも当宗派の僧侶の資格は持っていますからご安心ください」
と、柔和な笑顔を浮かべて青年が言った。
「あの、ご住職は今どちらに……」
おずおずといった感じで父親のほうが訊いてくる。
「住職はちょっと事情がありまして、今、全国を渡り歩いてまして……」
「全国を?」
「そうなんです。おかげで今、この寺は僧がぼくしかいないんです。ったくあのバカ親父……。あ、失礼しました」
思わず本音が漏れてしまった、といった風に経真が詫びた。こういう姿を見せられると、なおさら若い人のように感じる。
「あの、経真さん……は今おいくつなんですか? 随分お若いように見えますけど」
今度は母親のほうが口を開いた。
「十六歳です。今、高二です」
「十六!?」
母親が素っ頓狂な声を出す。
「はい。皆さん、ぼくの年を聞かれると驚かれるんです。まあ、普通十六歳で僧侶にはなりませんからね……」
正太郎の父親と母親は思わず顔を見合わせ、すぐにハッとなって顔を戻した。
「あ、もちろん退魔師としての経験もありますので。うちの寺は退魔師としては、ここ数年だと先代の住職と当代の住職が有名ですが、ぼくも幼いときから訓練を積んでいますので、腕には覚えがあります。まあ、あのふたりにはまだまだ及びませんけれど」
今の話を聞いても、男性と女性の訝し気な表情は変わらなかった。高校生に除霊なんてできるのだろうか。父親の顔にそう書いてあった。
経真の目線が中央に座っている子どもに移った。
「この子が電話でお聞きした……。あの、横になってもらってもいいですよ。座布団をもう一枚ご用意しますから」
言うが早いか、経真はスッと立ち上がり奥から同じ座布団を持ってきて、男の子の隣に置いた。
父親と母親は礼を言い、子どもを横に寝させた。
「では、本題に入りましょう。詳しいお話をお聞きしてもよろしいですか?」
「あ、じゃあ、わたしから……」
女性のほうが話し始めた。
「先々週くらいからでしょうか、子どもの、正太郎の体調が悪くなりまして。『だるい』だの、『食欲がない』だのと言うので、風邪かと思ったんですが熱はないですし、とにかく栄養のあるものを食べさせて、夜は早く寝るようにさせていたんです。ですが、良くなるどころか悪くなっていく一方で……」
母親が悲痛な表情で子どもの頭を撫でた。
経真は頭の動きだけで相槌を打ちながら話に聞き入っていた。
「おかしいと思って総合病院で検査もしたんですが、どこにも異常はないと医師の方々も首をひねっていました。どうしようかと途方に暮れていたんですが、わたしが自分の母に相談したときに、『お祓いを受けてみれば』と言われて……」
「なるほど。それでうちの寺に?」
「実はその前に、退魔師協会というところに連絡をしました。わたしはそんなところがあるなんて知らなかったんですが、母から教えてもらいまして」
「
「あいにく依頼が立て込んでいて、最短でも一週間は待たないといけない、と言われました。そんなに待っていたら、その間に正太郎が取り返しのつかないことになるかもしれないと思いまして、ほかのお祓い屋さんやお寺を探そうとしたんですが、素人なのでどこがいいのか分からなくて」
すると父親のほうが割って入ってきた。
「わたしの会社の同僚からこちらのお寺のことを聞きました。その同僚の従兄弟が以前こちらでお祓いをしてもらって治った、と聞いたものですから」
「ああ、そうなんですね。多分、親父がやったのかな……」
経真が自身の記憶を探るように、目を天に向けて動かした。まあ、いいや、という顔になり、
「うん、経緯は掴めました。どうもありがとうございます。それでは、早速始めたいと思うのですが」
そこで経真は言葉を切って、正太郎に近づいた。
「正太郎くん、つらいよね。でも、もう大丈夫。お兄ちゃんがすぐに治してあげるから」
ニコッと笑って、男の子の頭に手を置いた。
正太郎は緊張しているのか、返事をする余裕もないのか、コクッと頷いただけだった。
「では、座布団を本尊の前に敷きますので、その上に正太郎くんを仰向けに寝かせてください。今持ってきます」
経真が奥から座布団を二枚持ってきて、須弥壇と呼ばれる祭壇の前に並べた。父親が正太郎を抱っこして、そこに降ろす。
奥から、須弥壇、正太郎、経真、正太郎の両親、という並びになった。
「あの、こういう除霊って護摩とか炊くんじゃないんですか……?」
「そうですね、密教系の寺ですとそうなんですけど、うちはあんまりやらないですね。霊視してみて、必要だったらやる、という感じです」
「はあ……」
母親が、納得したようなしてないような微妙な返事をした。
「では、霊視します。正太郎くん、息を大きく吸ってー」
男の子の胸が膨らむ。
「……吐いてー」
ふぅぅぅぅ……と弱々しい吐息が聞こえた。
すると経真が茶色の数珠をじゃらじゃらと手のひらで鳴らし、合掌をした。ふたつの手の、互いの指が交差している、変則的な合掌だ。
「…………」
場に沈黙が流れる。経真は目を瞑って、意識を集中しているようだ。
三十秒ほど経過しただろうか。不意に、
「……分かりました」
と、経真が顔を上げた。
横になっている正太郎に背を向けて、両親のほうを向いた。
「な、何だったんですか、原因は?」
母親が食いつくように訊ねてきた。
「多分、どこかで霊を拾ってきたんだと思います。それが悪さをしているようですね。正太郎くんの具合が悪くなる前に、ご家族でどこかに行きませんでしたか?」
「どうでしょう、ショッピングモールとかお店くらいだと思いますけど……」
「そういった場所だと可能性は低いと思います。そうなると、通学路か友達と遊びに行った先で出合っちゃったのかもしれませんね」
「そうですか……」
「あの、その霊は除霊できるんですか⁉」
父親は気が気ではない、という様子だった。
「もちろんです、お父さん。今からやっていこうと思います。もうしばらく、お時間をください」
青年が腰を上げて、本尊と正太郎のほうに向き直った。
手を先程と同じように合掌させる。
「摩訶般若波羅蜜多心経ー……」
経を唱え始めた。経文は見ずに、暗唱している。
「観自在菩薩行深般若波羅蜜多ー」
不思議に耳に心地いい声だった。熟練の僧侶のような、腹に響くような低い音ではないが、聞いていると心が穏やかになっていくようだった。
正太郎の父親と母親は、指示されたわけでもないのに瞼をつぶり、姿勢を正してこの若い僧の読経に聞き入っている。
「能除一切苦真実不虚故説般若波羅蜜多ー。呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦ー」
経真が大きく息を吸った。
「菩提薩婆訶般若心経~……」
暗唱が終わったようだ。経真は両手を下ろし、正太郎の様子をうかがった。
小刻みに震えている。憑りついた霊が彼の中で暴れているのだ。
それを見た経真は、バッと手で印を結んだ。両手を組んで、両の人差し指を伸ばして合わせる。
「ノウマク・サマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・ソワタヤ・ウン・タラタ・カン・マン!」
不動明王の
胸から黒い霧のようなものがゆらゆらと出て行く。その動きから、霧と言うよりも、生き物に近い感じがした。それは天井付近まで昇っていくと、ふっと消え去った。
ふぅー、と青年が息を漏らした。天井を見上げていた顔を元の位置に戻すと、両手の組み方を変え、また何かを唱えた。
「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン」
正太郎の身体がぽぅっと黄金色に光った。
「……これでよし」
経真は腕を下ろし、横になっている男の子に語りかけた。
「正太郎くん、具合はどう?」
「ん……。あれ、苦しくない、かも」
不思議そうな表情を浮かべながら、正太郎が手で自分の胸の周りをさすった。
「どこか痛いところあるかい?」
「ううん、ないです」
「そうか、良かった」
ニッと経真が笑った。そして子どもの両親に向き直る。
「終わりました。無事、霊は去っていったようです」
それを聞いて、父親と母親の表情が崩れた。緊張も同時に解けたのだろう、ため息をつくかのように大きく息を吐いた。
「ありがとうございますっ」
「あ、ありがとうございます!」
父親と母親が同時に言った。
「正太郎くん、立てるかい?」
男の子が慎重な様子で身体を起こし、立ち上がった。
「正太郎……!」
「掴まらなくても起きられたな……!」
正太郎はそのまま、少しふらふらとした足取りで両親のもとへ近づいた。父親と母親が立ち上がって、子どもを抱きしめた。
「パパ、ママ、ぼく、ひとりでまた歩けた」
「うん……! うん……!」
「良かったねえ、良かったねえ……!」
父親のほうは涙声で、母親のほうは洟をすすっていた。
それを経真がにこやかな笑みを浮かべて眺めていた。
「あの、本当になんてお礼を申し上げればいいやら」
母親が赤い目で経真に言った。
「いえいえ、ぼくはご依頼に応えただけですから。頑張ったのは正太郎くんですよ。小さな身体でよくこれまで耐えたと思います。沢山褒めてあげてください」
それを聞いた母親は無言で深々と礼をした。
「ほら、正太郎。助けてくれたお坊さんにお礼を言いなさい」
父親が促した。すると、正太郎はくるっと経真のほうを向き、「ありがとうございました」と言ってペコッと頭を下げた。
「どういたしまして」
とても嬉しそうに青年がそう答えた。
◆
藤明院の古びた門の前。そこに帰りのタクシーを待つ山口家と、経真の姿があった。
あたりは夕日に照らされ、赤いセロファンで透かし見たかのように茜色に染まっていた。
「本当に、お世話になりました」
「いえいえ、上手くいって良かったです。まだ正太郎くんの体調は万全ではないので、明日いっぱいは休ませて様子を見てください。一日あれば体力も戻ると思います。あと、お渡ししたお守りを持たせてあげてください」
「はい、分かりました」
「それと、もし何かありましたらすぐに連絡してください。気になったことは遠慮なく訊いてもらえれば、お答えします」
向こうからタクシーがやってきた。
来たときと同じように、助手席に母親が、後部座席に父親と子どもが乗った。後部座席のウィンドーが機械音をあげながら下がっていく。
「何から何まで、ありがとうございました」
「ありがとう、バイバイ」
正太郎が奥から手を振ってきた。
経真は笑顔で手を振り返して、タクシーが通りの向こうに消えていくのを見送った。
「さて、と……。着替えるか。本堂のほうも片づけないと」
経真は寺務所に戻り、廊下の突き当りの部屋に入った。
畳が八枚敷かれた部屋。ここが経真の部屋だ。折り畳まれた布団が端に寄せられている。勉強机、漫画本がぎっしり詰まった本棚、そして箪笥があるだけのシンプルな和室だ。
経真が袈裟を外そうと手をかけた瞬間、玄関からチャイムの音が聞こえた。と、同時に、「経真ー、いるー? 上がるわよー?」と女性の声が響いた。
「あ、もうそんな時間なのか」
経真は袈裟から手を離し、そのまま玄関まで小走りで移動した。
「よ、
下駄箱で、高校の制服を着た女の子がスニーカーを脱いでいた。少女はアーモンド形の大きな目をこちらにやると、
「なんだ、いるなら返事しなさいよね」
と言って、すぐにあら、という表情になった。
「その格好……。お客さん来てたの?」
「ああ。さっき終わって、見送ったところ」
「そうなの。じゃあ早く法衣、着替えちゃいなさいよ。あたしが手伝ってあげるから。立派なものなのに汚れたりしたら大変じゃない」
返事をする暇も与えず、ほらほら、と鈴夏はぐいぐいと経真の背中を押して、彼を自室へと追いやる。
「いいよ、ひとりでできるって」
「どうかしら? あんた、去年入学式のときにネクタイが結べないって半べそかいてたじゃない。あたしが手伝ってあげたから結べたの、忘れたの?」
「う……」
「まさか、あんたのお父さんも結べないとは思わなかったわ……」
「ああ、おれもマジかと思ったよ……。って、それとこれとは話が」
「はい、部屋にとうちゃーく。ほら、入った入った」
勢いに負けた経真は、引き戸を開けて自室に入った。鈴夏もすぐ後ろにくっついて一緒に入ってくる。
「まずはお袈裟からね……。ほら、上に引っ張るから、膝立ちになって」
鈴夏が茶色の袈裟の真ん中部分をつまんで持ち上げた。経真は抵抗するのをあきらめ、言われた通りにその場に
鈴夏の細い指が袈裟の結び目をほどくと、そこでピタッと止まった。
「この先って、確かひとりでやったほうがいいんだっけ?」
「……うん。だから、ひとりでできるって言ったのに……」
「わ、悪かったわね。じゃああたしはあっちで待ってるわ。慌てて脱いで生地を破いたりしないようにね」
そう言うと、少女はリボンで結んだポニーテールを揺らして悠々と部屋から出て行った。
「いつまでもお姉ちゃんぶってるんだからな、あいつは……。まったく」
ぶつぶつと呟きながら、経真は慣れた手つきで袈裟を畳んでいった。
明禅経真と
鈴夏のほうが経真よりも先に生まれた。鈴夏は六月生まれで、経真は翌年の一月生まれ。経真はいわゆる早生まれなのだった。
「半年先に生まれたからってお姉ちゃんぶるのはどうなんだろうな……。だとしたらおれ、同級生にお兄ちゃんとお姉ちゃんが何人もいることになるんだけど」
子どものころから何度かこの疑問を当人にぶつけてみたが、言うと決まって機嫌が悪くなる。だからもう、経真は黙っておくことにしていた。
法衣と袈裟を桐箪笥にしまい、ハンガーに掛けておいた作務衣を着た。
台所に向かう。
「悪い、待たせた」
テーブルの備え付けの椅子に鈴夏が座ってスマホを見ていた。
「ん。別に待ってないわよ」
「今お茶淹れるから」
「別にいいわよ、長居しないし。それより、ほら、これ。今日のごはん」
テーブルの上に置かれていたナイロン袋が経真に差し出された。
「おお、ありがたい。今日のおかずは何だろな……」
経真が袋からタッパーを取り出す。半透明の容器から、茶色の塊が透けて見える。まだ温かい。
「酢豚だって。あんた好きでしょ?」
「やった! 自分じゃ中々作らないから嬉しいなー。おばさん、ありがとう!」
「今日はあたしが作ったんだけど」
経真の目から光が消えた。
「な、なによその反応! って言うか嘘よ! お母さんが作りました!」
ぱぁぁっと、電球のように経真の顔が明るくなった。
「く、そんなにあたしの料理は食べたくないわけ……?」
「いやだって、鈴夏はいつも余計なアレンジを施すから……」
「レシピ通り作ったら、既に決まっている味にしかならないじゃない。そんなのつまらないわ」
「いや、そのためのレシピだろ……」
「結果が最初から分かっていることをやるのって嫌なの、あたしは。未来は変えてこそ意味があるんじゃない」
「共感できる部分とできない部分がある……」
経真は持っていたタッパーを大事そうにテーブルに置いた。
そしてお盆の上に載っていた急須に茶葉を入れた。ポットから湯を注いでいると、鈴夏が戸棚からふたり分の湯呑み茶碗を出してくれた。
「サンキュー」
「いいわよ。あんたこそ、最近ちゃんと料理してる?」
「肉焼いたり、魚焼いたりとかは……。あとは簡単なサラダも作るし、ああ、味噌汁だって作ってるよ」
経真がコトッと鈴夏の前に煎茶が入った湯呑みを置く。その真向いの位置に自分の分を置くと、椅子を引いて腰かけた。
鈴夏はお茶を一口飲み、
「男子高校生の料理なんてそんなもんかしらね……。でもあんた、前はレシピ見ていろいろ作ってなかった?」
「や、面倒だから最近は簡単なものしか作らなくなった」
「あんた本当、面倒くさがりだもんね。掃除だって、お客さんが使うところはしっかりやるのに、それ以外は完全な手抜きだし。あたしが手伝いに来なかったら、この家、荒れ放題になるんじゃない?」
反論できない。自分だけでこの寺務所兼自宅と本堂、それに境内を掃除しなければいけないのだったら、経真はとっくに発狂していた。
「す、鈴夏サンには感謝しています……」
そこで鈴夏は遠くを眺めるような目をして窓の外を見た。
「
「……ああ」
経真が少し淋しそうな表情を見せた。
「
「最後に連絡があったのは先々月かな。
「そう。……その魍暗っての、かなりヤバい魔物なんでしょ? おじさん大丈夫かしら……」
──魍暗か……。数年前に親父が退魔し損ねたっていう、凶悪な魔物。二年前、この寺に侵入して母さんを殺していった仇。
退魔業界では、妖怪や鬼、化物などの異形の怪物を「魔物」と総称している。
そして魍暗は、人語を理解できるほどの知能を持った魔物で、狡猾かつ残忍な性格をしていた。退魔の専門組織である五星会が数年前からマークしているが、中々姿を現さない。既に何人もの人間がこの魍暗に殺されている。その中には、退魔師も含まれていた。
「親父は鬼みたいに強いから大丈夫じゃないか? 鈴夏だって小さいときに祓ってもらったろ?」
鈴夏は四歳のときに悪霊に憑かれてしまった。激しい痙攣を起こし、目を開けたまま意識不明になってしまった。
檀家の娘さんの一大事ということで、藤明院で除霊を行ったのだが、そのときに担当したのは、当時の住職である経真の祖父ではなく、父親の敦胤だった。
敦胤は退魔師としての力は一級品らしく、昔、五星会に腕利きの退魔師として所属していたとのことだった。ランクも最上位の一級退魔師だったらしい。
祖父から聞いた話だと、敦胤は婿養子で明禅の血は受け継いでいないという。その圧倒的な霊力に惹かれた祖父が、是非にと娘の美冬との縁談を持ちかけたらしい。
敦胤は美冬と結婚するためにわざわざ僧の資格を取った。結婚してからは、仲睦まじい夫婦として近所や界隈でも有名だったらしい。経真の目から見ても、両親はとても仲がいい夫婦に見えていた。
「いくら母さんのことが大事だったって言っても、寺を放っぽって仇討ちに行くことはないと思うけどな」
「経真は美冬おばさんを殺されちゃって悔しくないの?」
「……そりゃ悔しいさ」
経真の手が拳の形になる。悔しくないわけがない。
なぜあんなに優しくて、穏やかで、周りから愛されていた母親があんな死に方をしなければいけなかったのか。春の日差しのような温かな人だった母さん。そのことを思うと、経真はやりきれなくなる。
「でも……。それでも」
経真の目が鈴夏の目を捉える。
「守るべき人たちを置いていってまですることじゃないと思う。おれたち退魔師の力は悪霊や魔物を倒すためにあるんじゃなくて、人々を守るためにあるんだから」
言い終えてから、
「なんて、これじいちゃんの受け売りだけどな」
と笑った。重くなった空気が少し和やかになった。
「あんた、おじいちゃん子だったもんね」
鈴夏もつられて口元が緩む。
「うん、大好きだった。三年前のじいちゃんの葬式、凄かったなあ。全国の寺から位の高い坊さんが来て、退魔師の人たちもいっぱい来て」
「それだけ、経真のおじいちゃんが人望があったってことよね。きっと」
返事の代わりに経真は笑顔を浮かべた。
「おれが僧侶の資格を取って二か月後にじいちゃんは逝っちゃった。なんか、託された感じがするんだ、じいちゃんから。だからおれ、頑張らないと。じいちゃんみたいな僧侶と退魔師になるためにも」
そう語る経真の目は澄んでいた。そんな経真を鈴夏が優しい目で見ていた。
「さて、と……」
少しぬるくなったお茶を飲み干して、ブレザー姿の少女が立ち上がった。
「あたし、そろそろ行くわ。昨日のタッパー、ある? 持って帰るから」
「いや、送っていくついでにおれが持っていくよ」
経真も椅子を引いて立つ。テーブルの隅に置いてあった空のタッパーを、鈴夏が持ってきたナイロン袋に入れた。
「別にいいわよ。百メートルくらいしか離れてないのよ?」
「何かあってからじゃ遅いだろ? 最近、『魔』を抱えた人も多いし」
「『魔』って、マイナスの感情のことだっけ?」
「そう。妬みとか、怒りとか、そういう良くない感情が心の中で溜まっていくとやがて『魔』っていう集合体になっちゃうんだ。『魔』が強くなると、体調がおかしくなったり精神がおかしくなったりするんだよ」
「魔」が実体を持ったものが、「魔物」と呼ばれる異形の存在になる。個人の「魔」が膨れあがったり、複数人の「魔」がリンクし合うことで現実世界に魔物が生まれるのだ。古来から伝わる妖怪や悪魔なども、人々の恐怖心から生まれ出たものだ。
「ふーん。まあ確かに、近頃変な人多いわよね。そこまで言うんだったら、送ってもらおうかしら」
「おう。じゃあ行くか」
玄関を出ると、もう日が沈むところだった。薄暗いなかを桜の花びらが一枚、風に踊って経真の足元に落ちた。
ふたりは経真を先頭にして参道を歩いて行った。
「去年植えたチューリップ、だいぶ大きくなったわね。おばさん花が好きだったもんね、今年も綺麗に咲かせてあげないと」
花壇を見ながら、鈴夏が言った。
鈴夏は小さいころから美冬に懐いていて、よく花の世話や境内の掃除などを手伝っていた。美冬もそんな鈴夏を可愛がっていた。子どもが男の子ひとりしかいない美冬にとって、鈴夏は娘のように思えたのかもしれない。
──そう言えば、鈴夏のお母さんはうちの母さんとすごく仲が良かったもんな。鈴夏の名前も母さんの名前をモチーフにして名付けたんだっけ。
門を出ると、ふたりは横並びになった。門の前には市道が真横に一直線に伸びている。反対側の歩道を、体操服姿の男子中学生がてくてくと歩いていた。
ここ、成島市は県庁所在地だが、藤明院の付近は畑や田んぼに囲まれたのどかな田舎町だ。建物がひしめく繁華街よりも空間が広くてのんびりしていて、経真はこの土地が好きだった。そして、この土地に住んでいる人たちも好きだった。
経真の顔に風が吹きつけた。ひんやりと冷たい。春とは言え、東北の夕暮れ時はまだまだ冷える。
「今度の土日は仕事入っているの?」
「土曜に法要が一件と町内の寄り合いがある。日曜は今のところ何もナシ」
住職である父親が不在のため、今は経真がひとりで寺の仕事を担っていた。まだ高校生とは言え、経真は中学一年で聖韻宗の僧侶の資格を取ったので、一通りの寺の業務をもう遂行できる。
「それじゃあ、日曜の午前に来るわ。あんたの部屋、また散らかってきたようだし」
「す、スミマセン……」
鈴夏は暇を見つけては寺に顔を出し、経真の世話を焼いてくれる。美冬が生きていたときも足繁く寺に通っていたから、習慣になっているのかもしれない。
それか、美冬がもういないから、あの寺でひとりで暮らしている経真を姉代わりとして見てくれているのだろうか。いずれにせよ、経真は鈴夏には感謝していた。
あっという間に在原家の前に着いた。二階建ての一軒家で、二台停められるカーポートには白の軽自動車が一台駐車していた。
「ここでいいわ。何なら上がってく?」
「いや、いいよ。はい、これ。おばさんによろしく」
鈴夏がナイロン袋を受け取る。
「それじゃ、またね」
「ああ。おやすみ」
幼馴染が家に入るのを見届けると、経真は軽く伸びをしてから歩き出した。
紫色の空には既に星々が瞬いていた。
今夜は何の味噌汁にしようか。そんなことを考えながら、青年は来た道を戻っていった。
◆
藤明院の寺務室は板の間になっている。
ここには寺運営に関する様々な書類や販売用のお守り、お札などが置かれている。廊下に面した壁にはガラス戸のカウンターが設けられていて、ここで受付や物品の販売を行ったりもする。
経真は先程から、PCの画面と手元のファイルを見ながら唸っていた。
「檀家さん、相当減ったよな……」
長い歴史がある藤明院は、最盛期は檀家の数が六百以上あった。
それが、今ではわずか五十軒程に落ち込んでいた。
寺離れ、移住による離檀など理由は様々だ。
だが、一番の理由は美冬が魔物に殺害されてしまったことだった。
藤明院は霊祓いの寺として、この地方では古くから名を馳せていた。それがあろうことか寺院内に魔物の侵入を許し、あまつさえ住職の奥方が命を奪われてしまったのだ。
退魔師としてこの地域でその名を広めた、先代住職が他界して一年後の出来事だ。信用が落ち、そして気味悪がられて、檀家が離れるのも無理はなかった。
──あのときは親父もおれも不在で、寺には退魔能力のない母さんしかいなかった。でも、四方に結界は張っていた。それで侵入は防げるはずなのに、一部が意図的に崩されていて作用してなかった。親父の知り合いの退魔師は、観光客が悪戯でもして壊したんじゃないかって言ってたけど……。
魔のものが結界の装置に触れることはできないので、その可能性はあった。でも、こんな何もない小さな寺に観光客が来るだろうか。
野良猫やカラスの仕業。
それも違う。だったら、これまでの藤明院の歴史の中で必ず起こっているはずだ。そして、誰かが対策を講じている。
経真は口からふぅ、と息を漏らしながら、デスクチェアの背もたれに深く背中を預けた。
一般的に、寺の主となる収入は、葬儀や法事の際に檀家から受け取る「お布施」と、檀家の年会費にあたる「護持費」になる。だが、日本のほとんどの寺はそれだけでは食べてはいけない。だから副業をしているお寺が多いのだ。
寺の本業だけで食べていくには、檀家の数が三百軒は必要と言われている。藤明院は十年くらい前から檀家数が三百を割り込んでいたが、退魔業の収入が結構大きいので、これまでなんとかなっていた。
それが、退魔寺としての信用がガタ落ちしたせいで依頼もめっきり減ってしまった。敦胤が旅先で退魔業をして稼いだお金を仕送りしてくれているが、正直心もとない。
経真は高校生ながら、実家の稼業の経営と家の台所事情に頭を悩ませているのだった。自分の時間はほとんど寺のことに費やされ、高校生らしく遊びに行くことなど滅多になかった。
ふと壁時計を見ると、短針が「10」を指し示していた。
「やば、もう十時過ぎてたか。そろそろ寝ないと」
経真はいつも十時には就寝する。そして朝五時に起きて本堂で読経し、その後三十分程度ランニングするのが日課になっていた。高校生と言えども僧でもあるので、経真は規則正しい生活を心がけている。
机の上に広げたファイルを片づけていると、不意に部屋の電話が鳴った。
こんな時間に誰だろう。父親はいつもスマホのほうにかけてくるので、違うはずだ。檀家さんの家で不幸があったのだろうか。
「はい、藤明院です」
「ひ、昼間伺った、山口です」
電話口の男性の声から緊迫感を感じる。ただ事ではないと経真は直感した。
「どうしました⁉」
「む、息子が……! 息子が急に苦しみだしまして……!」
「正太郎くんが⁉」
「は、はい。八時過ぎに寝かせて、さっき様子を見に行ったら異常な量の汗をかいていて、呻き声をあげているんです! 起こそうとしたんですが、揺すっても起きなくて……」
電話口の近くから、「正太郎! 正太郎!」と叫ぶ母親の声が聞こえた。
「どうなってるんですか! 除霊は成功したんじゃなかったんですか⁉」
──成功したはずだ。憑いていたものが出て行くところを確認できたし、正太郎くんの体調だって除霊後に回復していた。
となると。
原因は別にあるのかもしれない。
様子を聞いた限りでは、状態は除霊前より悪化している。除霊がトリガーとなって起こったとも考えられる。
いったい何が起きている? ダメだ、ここで考えていても分からない。
「お父さん、今からそちらに向かいます。正太郎くんに呼びかけ続けてください」
経真は電話を切ると、閉じたばかりのファイルを広げた。勢いよくパラパラとめくっていく。
「あった。ええと、武蔵町か。隣町だな」
山口家の住所を確認すると、スマホのマップアプリで位置を掴む。ここの近くなら行ったことがある。迷わず行けそうだ。
経真は急いで自室に戻ると、出かける準備に取り掛かった。
着ていた作務衣を脱ぎ、箪笥から法衣を取り出した。昼間の除霊のときに着ていたものとは違っていた。それに手早く着替える。
黒のインナーの上に、ライトグレーの衣を纏ってそれを腰の帯で縛っている。袖の長さは七分丈で、インナーが下から出ていた。下は黒のタイトなズボンを履いている。
法衣と言うより、道教の道士の服や中国拳法の道着に近いデザインだった。
これが藤明院に伝わる魔物戦用の装束、言わば戦闘服だった。千年もの間、代々伝わってきた服だった。
経真は準備を終えると外に飛び出した。
家の裏手に置いてあるスーパーカブに跨り、スイッチを入れる。
祖父の
エンジン音が夜の境内に轟き、鉄の躯体が心地よい振動で揺れる。
ヘルメットを装着すると、経真はハンドルを回してアクセルをかけ、走り出した。境内から駐車場を通って道路に出る。
ここは田舎のほうなので、流石にこの時間になると市道は空いている。対向車はほとんど走っていない。
スムーズに国道に合流した。後はしばらく一直線に走るだけだ。国道は流石に夜でも交通量があった。トラックや家路を急ぐ自家用車が、ヘッドライトを光らせてビュンビュンと駆け抜けていく。
──正太郎くん……! どうか、間に合ってくれ!
そう願いながら、経真はハンドルを握りしめ、夜の国道を一陣の風になって駆けて行った。
◆
「何だよ、これ」
マップアプリが示す家。そこに着いた経真は、絶句した。
家全体が黒っぽい紫色の妖気に包まれている。
家人ひとりに悪霊が憑いたくらいでは、こんな風にはならない。これではまるで──。
「家そのものが憑りつかれているみたいだ」
そう言えば、そんなタイプの魔物もいると祖父から聞いたことがある。
経真の退魔術は祖父譲りだ。元々強い霊力を生まれ持った経真は、幼少のころから祖父の明禅玄徳に退魔のいろはを教え込まれた。
子どもながら強い霊力を持っているがゆえに、悪霊や魔物に狙われることがあるため、自衛の力として祖父は経真に退魔術を教え込んだのだった。
従って、経真が持っている悪霊や魔物の知識はほぼ祖父から教えてもらったものだ。寺には一応それらの資料もあるが、データベースと呼ぶには量が半端だ。先祖はあまり熱心に記録してこなかったらしい。
もしかしたら、今回の件は悪霊ではなく魔物の仕業だったのかもしれない。知識不足と経験不足が祟って、判断を誤ってしまったのだろうか。
──五星会だったら、きちんとデータベース化しているんだろうけど……。くそ、今そんなこと言っても仕方がない!
経真は玄関のチャイムを鳴らした。
すぐに中からバタバタと音が聞こえてきて、勢いよくドアが開いた。青ざめた表情の父親がそこに立っていた。
「早く! 早く正太郎を助けてください!」
あいさつもなしに懇願する。事態が逼迫しているということが嫌というほど伝わってきた。
「失礼します。……正太郎くんはどちらに?」
「こ、こちらです!」
スリッパも履かずに経真は男性の後ろについていった。
階段を上ると廊下の左側に部屋が三つあった。そのうちの手前の部屋のドアが開いていた。父親がその部屋に滑り込む。経真もそれに続いた。
「はぁっ、はぁっ、うぅっ、んんぅっ……」
苦悶の表情を浮かべて、男の子が木製のベッドに横たわっていた。掛け布団が剥がされ、着ているパジャマが汗でぐっしょりと濡れていた。その横で、母親が膝立ちになって子どもの手を握っている。
「正太郎、がんばって! 今お坊さんが助けに来てくれるから!」
母親は経真たちが入室したことに気づいていないようだ。
「正太郎くんのお母さん、明禅です、遅くなりました!」
「え⁉ あ……。お、お願いします! 正太郎が、正太郎が!」
「落ち着いてください。ちょっと失礼しますね」
経真はベッドに近づいて、正太郎の顔を見た。
蛍光灯の白色の光に照らされたその顔は、土色に近いものになっていた。
──まずい。相当生気を失っている。
「正太郎くん、ちょっとごめんね」
パジャマのボタンを外していき、肌着をずらして上をはだけさせた。上半身も肌の色がおかしくなっている。おそらく下半身もそうだろう。
もう一度霊視する必要がある。だが、視るのは正太郎だけではない。この家全体だ。
経真は目を瞑り、左手を胸の前で掲げ、素早く印の形を結んだ。
「ノウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ」
バチッと大きな音がした。
機械がショートしたような、そんな音だった。
ふっと部屋が暗くなった。次の瞬間、蛍光灯が点いたり消えたり、点滅を繰り返すようになった。
その場にいた父親と母親が驚いたように天井を見上げている。
「……いた」
経真が呟き、
「出てきたか」
そう言ってベッドの横側の壁を見た。
人の顔の数倍はある巨大な髑髏。それが壁に張りついていた。
いや、浮いている、と言ったほうが正しい。
それは天井付近をゆらゆらと漂いながら、空洞の目で経真を見下ろしていた。
経真が反射的に後ろに飛び退き、巨大髑髏と距離を空けた。
こいつはどこかで見たことがある。確か──。
「きゃ、きゃあああああああ!」
突如、母親の絶叫が部屋に響いた。尻もちをつきながら壁を見上げ、ガタガタと震えている。
「な、なんだ⁉ どうしたって言うんだ?」
父親には見えていないらしい。
「お父さん、元凶が出てきました。奥さんを連れて家の外に避難してください」
「え? えっ⁉」
「お母さんのほうは見えているようですが、お父さんには見えていないようです。今から魔物を祓いますので、安全な場所に行ってください!」
半信半疑、といった様子だったが、顔を引きつらせ今にも泣き出しそうな表情の妻を見ると、父親は頷いた。
正太郎の父親が妻を引きずるようにして部屋を出て行くと、経真は魔物と向き合った。
「
思い出した。確か資料に載っていた魔物だ。随分前に見たものだったので、忘れてしまっていたらしい。
館髑髏は家屋に憑く魔物だ。その昔は城に憑りついて、城内の人間すべてを滅ぼしたこともあるらしい。今回の件を引き起こしたのがこの魔物なら、合点がいく。
照明が点滅を繰り返すなか、ようやく経真の目が慣れてきた。よく見ると、館髑髏の顔の周りに、こぶし大の白い物体がいくつも浮いている。
それは髑髏だった。まるで巨大髑髏の子どものようにも見える。それが縦に連なって一本の触手のようになっていた。それが巨大髑髏から何本も放射状に伸びているのだ。
上方に伸びている小さい髑髏の群れは、天井を貫通していた。しかし、天井に穴は開いていない。すり抜けている。どうやら非物質のようだ。
正太郎の全身に、小さな髑髏がまとわりついていた。おそらく、この髑髏が彼の生気を吸い取っているのだろう。魔物というより、悪霊に近い存在だ。だから最初、経真は魔物の仕業だと気づけなかったのだ。
「おい、その子から離れろ!」
言葉が通じないのか、館髑髏は微動だにしない。
「チッ……! このままやるしかないか」
一刻の猶予もない。早く退魔しないと正太郎の命に関わる。
経真は翡翠の数珠を指にかけ、手を交差させ、印を結んだ。
目に意識を集中させる。
すると、ぼんやりと巨大髑髏の輪郭が黄色く光って見えた。
──属性は『土』か。おれと同じ。だったら、単純に力が強いほうが勝つ。
経真が大きく息を吸い込み、経を唱え始めた。印はそのままだ。
「摩訶般若波羅蜜多心経観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空度一切苦厄……」
昼間の読経のときとは唱えるスピードが全然違う。ほとんど息継ぎなしに進んでいく。
『ヴヴヴヴヴ……』
魔物が声を発した。苦しんでいるような声だった。
──よし、効いてる。このまま押し切る!
そう思った刹那、髑髏の触手が大きく動いた。前後左右に揺れて、そして。
ブォォッ!
髑髏が一匹飛んできた。館髑髏がまるで野球のピッチャーが振りかぶるようにして、触手の先端の小型髑髏を飛ばしてきたのだ。
「ぐっ!」
上体を大きく右に反らして、すんでのところで経真は躱した。
躱された髑髏は本棚をすり抜け、そのまま壁の向こう側へ行ってしまった。どうやら命あるものにしか反応しないらしい。
不意の攻撃で、暗唱が中断されてしまっていた。
それを見て、館髑髏は別の触手も振りかぶった。
今度は三体の髑髏が飛んでくる。
経真は横に大きく跳んだ。一秒前に経真が立っていた箇所を、髑髏たちが青白い尾を引きながら通過する。
「そりゃ抵抗するよな……。黙ってやられてくれるわけないか」
経真の額から雫となった汗が一筋、頬へと伝った。
多分、あれを喰らったら正太郎のように生気を吸い取られてしまうんだろう。絶対に喰らうわけにはいかない。動けなくなったところを集中攻撃されたら、ひとたまりもない。
触手が五本、同時に大きく動いた。
──まずい……!
振りかぶった際、髑髏の触手は壁や天井をすり抜けて見えなくなるので軌道が読みにくい。それが五本同時に動くとなると──。
ブォォォォォォッッ!
上、下、右、左上、左下の五方向から髑髏の群れが襲ってきた。狭い部屋の中で広範囲の攻撃を繰り出されてしまった。
だめだ、今度は避けきれない。
「くそ!」
経真は素早く戦法衣の懐に手を伸ばした。何かを取り出すと、それを振りかざした。
バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!
飛んできた髑髏は残らず消滅していた。
経真の手に握られていたのは、黄金色に輝く錫杖だった。ホルダーに収納していた、伸縮式の特殊錫杖を経真は瞬時に展開し、髑髏の群れを払い落としたのだった。
黄金色と言ったが、錫杖自体は黄褐色だ。経真の霊気を通しているので、そのように見えるのだ。
魔物が経真に休む間も与えず連続で攻撃してくる。錫杖で防ぐが、これでは両手で印を組めないし、意識をそっちに取られるので経を唱えるのが難しい。
小型髑髏はどんどん飛んでくるのに、数が減らない。見ると、隊列から離れたそばから、新しいものが湧いて出てきて補充されている。本体を倒さない限り永久に続きそうだ。
段々と経真の息が上がってきた。汗が既にいくつも顎から滴っている。
──これじゃジリ貧だ。体力が尽きていずれやられてしまう。
だったら。
経真が右手の錫杖で小型髑髏を撃墜しながら、左手で空間に直線を描き始めた。縦、横、縦……と、格子模様を描くように人差し指と中指で空を切る。
「臨兵闘者皆陣烈在前!」
ブ……ン、と経真の正面に円形の曼荼羅模様が浮かび上がった。黄色味を帯びたその曼荼羅模様が、飛来してきた白い髑髏をバチッと弾いた。どうやらバリアのようなものらしい。
経真は錫杖を脇に抱え、両手で印を作って「舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄……」と、中断していた読経を再開した。
『ヲヲヲ……』
髑髏の魔物が上下に震えている。震えながらも、触手を動かして経真におびただしい数の小型髑髏を浴びせる。だが、すべて曼荼羅に弾かれて経真の元には届かない。それでも館髑髏は攻撃をやめようとしない。一心不乱に髑髏を飛ばしてくる。
ピシッ。
障壁にひびが入った。
──やっぱり、『早九字』じゃ耐久力が低いな……。破壊される前に終わらせないとまずい。
経を唱えながら、チラリとベッドの上の正太郎を見る。相変わらず苦しそうな声をあげている。
キッ、と館髑髏を見据え、経真は暗唱のスピードをさらに上げた。
「夢想究竟涅槃三世諸仏依般若波羅蜜多故得阿耨多羅三藐三菩提故知般若波羅蜜多……」
ピシ、ピシッ、ビシッッ!
曼荼羅状の障壁に四方から亀裂が入った。
とどめとばかりに館髑髏がすべての触手を振りかぶった。
青白い亡者の群れが四方八方から経真に襲い掛かる。視界を埋め尽くすほどの数だった。
ビキビキビキッ、パキ、パリンッ……!
同時だった。
「呪即説呪曰羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶般若心経!」
『ヴヲヲヲオヲヲオオオオーーーー!』
経を唱え終わった瞬間、館髑髏が黄金色の光に包まれた。巨大な顔も、触手も、のたうち回るように蠢いていた。
「間に合ったか……。これで、終わりだ」
そう言って、経真は印の形を変えた。不動明王の印。
「ノウマク・サラバタタギャテイビヤク・サラバボッケイビヤク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケン・ギャキ・ギャキ・サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!」
ボボゥッ! と館髑髏が紅蓮の炎に包まれたように見えた。
魔物の形が崩れていく。土壁が剥がれていくように、ぼろぼろと顔が崩れ落ちていった。崩れた部分が白っぽい粒子へと変化していった。
魔物は断末魔をあげる暇もなく、やがて全体が粒子となって消えていった。
照明が元に戻った。部屋の中が蛍光灯の白い光で明るく照らされている。不思議なことに、部屋の中の物は何も燃えていなかった。
「終わったか……」
そう呟いた次の瞬間、ガクッと経真の身体が崩れた。錫杖で身体を支え、辛うじて床に倒れるのを防いだ。
「はぁ、はぁ。やっぱ
そうだ、正太郎くん。
経真はベッドに近づいて、男児の顔を見た。
皮膚がみるみる赤みを取り戻していっている。胸やお腹も、土気ばんだ色だったのが嘘のように健康的な肌色に戻ってきていた。
霊視してみると、身体のほうは衰弱しているが、強い生命力を感じた。子どもは生命エネルギーに満ちているので、じきに回復するだろう。
「はぁ、良かった……」
眠る正太郎の顔を見ながら、経真は安堵の息を吐いた。
手に巻いた翡翠の数珠を見ながら、じいちゃんのお陰かな、と経真は思った。
経真は男児のはだけたパジャマを戻すと、彼の両親を呼びに外へと向かった。
「『正太郎……』」
父親と母親が正太郎の顔を覗き込む。
正太郎は既に健康な男児の顔色を取り戻し、穏やかな寝息を立てていた。
「藤明院さん、これでもう正太郎は大丈夫なんですか……?」
母親はまだ心配そうだ。除霊をして治ったと思った矢先にあんなことが起きたのだ。当然の心理と言えた。
「絶対とは言い切れませんが、正太郎くんに悪さをしていた魔物……、化物は退治しましたので、安心していいかと思います」
ほっ、と母親が胸を撫で下ろした。
「ただ……」
「ただ?」
父親が訊き返す。
「あの魔物は、正太郎くんではなく、この家に憑いていました」
「そうなんですか⁉」
「はい。ぼくも始めは正太郎くん個人に何かが憑いているのだと考えていましたが、このお家に来てそうじゃなかったと気づきました。あの手の魔物は原因を取り除かない限り、またどこからともなくやってきます」
父親と母親が同時に顔を青くさせた。
「ど、どうすればいいんですか⁉」
「魔物というのは、人の負の感情が集積した『魔』から生まれます。そして、魔物は『魔』を抱えている人間を好んで標的にします。つまり、この家に住んでいる誰かが呼び寄せてしまった可能性が高いんです」
もしかすると呼んだのではなく、ここで生まれたのかもしれないですけど、と経真が続けた。
すると夫婦がショックを受けた表情に変わる。
「今日の昼間に霊視した際、正太郎くんの心の中に『魔』を見つけました。どうやら強いストレスを日常的に受けていたようです」
「ま、まさかいじめとかでしょうか?」
母親の問いに経真は首を横に振った。
「ぼくが正太郎くんの中に視たのは、お父さんとお母さんおふたりが言い争っているイメージでした。失礼ですが、頻繁に不和……、夫婦喧嘩をされてませんか」
「そ、それは……」
痛いところを突かれた、という風に、正太郎の両親はそろって視線を落とした。
「昼間は魔物が絡んでいることとは思わなかった上、出過ぎた真似をするのもどうかと思って申し上げなかったんですが、正太郎くんは随分とおふたりが仲違いされていることで傷ついているようです」
母親が顔を両手で覆った。
「正太郎くんの『魔』は昼間のときに浄化しておきましたが、おふたりの心も『魔』が生まれる寸前、という状態になっています。この場でおふたりを浄化したとしても、喧嘩を続けられる限りはまた『魔』が生まれかけて、同じことの繰り返しになる可能性が高いです」
そして正太郎のほうを向き、
「正太郎くんにもまた『魔』が生まれるかもしれません」
と告げた。
「……お恥ずかしい話です」
父親が視線を落としたまま口を開いた。
「職場で自分の功績を上司の手柄にされて、ムシャクシャしていました。わたしが何か月も足繁く通ってようやく取れた契約を横取りされたんです。大型の契約でした。それ以来、仕事に身が入らなくなって、家内にも辛く当たるようになってしまって……」
「あなた……」
母親のほうは、その話をはじめて聞いた様子だった。
「別にこんなことをしたってなんの解決にもならないのに、腐ってしまっていました」
男性が頭を振った。
「わたしも……」
母親が経真を見た。
「わたしも、家事と育児とご近所づき合いとで精神的に疲れてしまっていました。元々会社員で、営業をしていたので、今の環境が閉鎖的に感じて息が詰まってきて……」
ハッとした顔で父親が妻を見た。
「そうだったのか……」
「それであなたに強く言い返したりしちゃってたわ。ごめんなさい……」
「いや、おれのほうこそ……」
経真が見る、この夫婦が向かい合っているはじめての姿だった。
経真がゆっくり口を開く。
「まだ十六年間しか生きていないぼくが言うのもおこがましいですけれど、人生はいろいろあります。世の中善人だけではないですし、悪人ばかりでもないです。こうしなくちゃいけない、ということだって本当は多くはないですし、広い視野と高い視座で物事を見つめてみてください。今の状況がそれほど悲観するものじゃないということに気づくはずです」
ふたりが経真のほうを向いた。
「そして『諸行無常』です。この世のすべてのものは移り変わってやがては消えていくものですから、今このとき、この瞬間を大事になさってください」
実はこれ、先代の住職の受け売りなんですけどね、と経真が笑った。
正太郎の父親と母親も顔から強ばりが抜け、微笑を浮かべた。父親が頭を下げる。
「ありがとうございます。これからは改めたいと思います」
「参考にして頂ければ嬉しいです。広い心と慈悲の心を持っていれば、必ず最後は幸せになれるはずです。……それに、人の足を引っ張るような人は、必ず報いが来るものですから気にしないほうがいいですよ」
世の中、そういう風にできているようですから。そう言って、悪戯っぽく笑った。
「それじゃあ、ぼくからのサービスで夫婦円満の祈祷をしますね。そのままでいてください」
経真が目を閉じ、両手で印を結んだ。両の中指が立って交差している。
「オン・マカラギャ・バザロウシュニシャ・バザラサトバ・ジャク・ウン・バン・コク」
桜色の光が一瞬、夫婦を包んだ。
「おお……。なんだか、冷えていた胸が温かくなったような……」
「本当。凄い……」
東洋の恋愛の神とされる、
「ん……。ママ……? パパ……?」
正太郎が目を覚ましたようだ。
「正太郎っ!」
母親が子どもに抱きつく。
「ごめんね、ごめんね、正太郎……。ママたち、正太郎のこと全然考えてあげてなかったね……」
母親の目から一筋の涙が流れていた。正太郎が不思議そうな表情でそんな母親を見ている。
「ごめんな、正太郎。でもな、パパたち、仲直りしたんだ。だから、もう喧嘩はしないから安心していいぞ」
男の子が破顔した。
「ほんとう⁉ やったーーー!」
しばらくの間、経真は自分が助けた親子の睦まじい姿を幸せそうな顔で見つめていた。
◆
「経真、学校行くわよー」
藤明院の玄関から鈴夏の元気な声が聞こえる。
ドタドタと奥から制服を着た経真がやってきた。深緑色のブレザーとチェック柄のスラックス。背中にはリュックを背負っている。
「おお、鈴夏おはよう……」
鈴夏の顔を見るなり、経真は大きなあくびをした。
「おはよ。なんだか今日はやけに眠そうね」
「うん……」
ふたりは門を出て並んで歩き出した。
ここからふたりが通う県立鳴神高等学校までは、歩いて十五分ほどだ。
通っていた小学校も中学校も、徒歩で行ける距離だったので、ふたりは一緒に歩いて通っていた。小学生のときは、鈴夏が「お姉ちゃんの後ろをついてきなさい」と先頭を歩いたものだった。
今朝はのどかな天気だ。雲はまばらで日差しは穏やか。春の暖かな陽気に眠気を誘われて、経真はまた口を大きく開けてあくびをした。
「またあくび。昨日寝るの遅かったの?」
「ああ。夜中に緊急の除霊の仕事が入って……」
「夜中に除霊⁉ お客さんがお寺に来たの?」
「いや、おれがお客さんの家に行って……」
「夜中なのにわざわざ? それで……すぐ終わったの?」
「いや、魔物がいたんで戦闘になって……」
鈴夏が、え! と叫んで立ち止まった。
──しまった。鈴夏にはおれがひとりで魔物と戦っていることはまだ伏せているんだった……。
魔物に殺された美冬のこともあったので、余計な心配はかけたくなかった。
「ま、魔物と戦ったの⁉ 玄徳おじいちゃんも、おじさんもいないのに、ひとりで⁉ ちょっ、あんた大丈夫だったの? 怪我とかは⁉」
鈴夏が言いながら迫ってきた。
取り乱した鈴夏を見て、経真のほうも焦ってしまった。
「だ、大丈夫だよ。どこも怪我してないし、快勝だったんだから。楽勝、ラクショー」
怪我はしていないので丸っきり嘘ではないだろう。とにかく、今は鈴夏を落ち着かせて場を収めたい。
「そ、そう……」
それでも、鈴夏は何か言いたそうな顔をしていた。
「おれが強いの、知ってるだろ? 心配するなよ」
「……うん」
言葉ではそう言っても、心配そうな表情はまだ消えていなかった。
「ほら、遅くなるから行こうぜ」
経真が先に歩き出した。
「あんまり、危険なことはしないでよ……」
後ろから小さく、幼馴染の声が聞こえた気がした。
「ん?」
振り返ると、チェックのスカートをひらめかせて鈴夏が小走りに近づいてきた。
「何でもない! ほら、行きましょう」
鈴夏がスクールバッグで経真の腰をちょん、とつついた。
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