第12話
「こちらが、マリーベルさまのお部屋になります。荷物はこちらに置かせていただきますね。食事は食堂で摂ることになっています。後ほど迎えに参ります。本日はお疲れでしょうから、部屋でお休み下さい。明日から体験をいたしましょう。それでは後ほど」
荷物を置いた後、流れるような動作で一礼してニコライは退室した。
その手慣れた一連の動作に、今までも沢山の滞在者を案内してきたことが察せられる。
「ありがとうございます。ニコライさま」
ニコライ様を見送ると、部屋の中を一通り見て回った。
自室と比べると、かなり小さな部屋だ。
ベッドとソファーが設置してあり、洗面所もあった。生活するには充分な部屋だ。
しばらくすると女性の神官の方が尋ねて来た。
彼女から着替えの仕方や、部屋の掃除の仕方、生活するにあたっての注意事項など色々教わった。
私はいつも立っているだけで、周りのみんなが着替えさせてくれていた。
髪を結ってくれたり、装いに似合うアクセサリーや靴を選んでくれた。
自分の意志で全部決めたことはない。
大抵「お嬢様にはこういった感じのものがお似合いだと思います」「お嬢様がお好きそうな━━」
と、全部選んでくれていた。確かに素敵だったので、チョイスは任せていた。
そういう生活が当たり前だと思っていたけれど、本当にそうかしら。
私の好きな色って何色なんだろう。
私に似合う色ではなくて。
部屋だっていつも綺麗なのが当然だった。
毎日掃除してくれていることに関して、私は何も思っていなかった。
ホコリって溜まるものなのね。
髪の毛も、知らないうちに抜けて床に落ちているのね。
手を洗うだけでも、水が飛び散ってしまう。
いつも誰かが、拭き取ってくれていたのね。
掃除するのって大変だわ。
何もかもが新鮮で、驚きや発見もあり嬉しいのと同時に、不安もあった。
ここで自己修練を積んで、アーサーさまの望んでいる人になれるといいのだけど。
あの三つの言葉というか条件、クリアできるかな
むしろ、ここで努力しても何も変われなかったと伝えたら、今度こそ辞退できるかもしれない。
大丈夫かしら……
そうこうしていると、夕方になっていた。
ニコライが部屋を訪れて、マリーベルを食堂へと案内した。
記憶力が悪いので、部屋の場所を覚えるのが大変だった。
どっと疲れが押し寄せてきたこともあり、マリーベルはベッドに入るとすぐに深い眠りへと誘われた。
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