第6話

「マリーベル、用意は済んだのか?」


「マリーベルが花嫁修行に行くだなんて……

成長したのね。ねぇあなた?」



「あぁ、可愛いマリーベル。

前向きなマリーベルを見て、アーサー様もお喜びになるだろう。

しばらく会えない父にハグさせておくれ」


私が答える間もなくギュッと交互に抱きしめられた。


『お父様、お母様』



何故か感極まって泣きそうな両親。


そう、神殿へ滞在したいと両親へ相談したら快く賛成してくれたのだ。

さすがに反対されると思っていたのだけれど。


エレナが同僚達と母に聞こえるように噂話しをしたり、実際に滞在した方のリサーチを行い報告したりしてくれたようだ。



エレナは行動力も早いわね。 さすがだわ。


花嫁修行に人気という言葉が、お母様にはささったみたい。


そう、私がマリッジブルーから立ち直り、結婚に前向きになったのだと思っているみたい。


否定すると許可してもらえない気がしたので、敢えて黙っている。




アーサー様の婚約者を辞退したいという私の言葉を、なぜか両親は聞いてくれない。


夜会の欠席や、欲しい物の購入などは、理由も聞かずに許可してくれるのに、不思議だ。


両親は、アーサー様を支持しているようだ。

きっと、威圧的な態度をとるアーサー様を見たことがないのだ。




 神殿へ滞在することになるので、しばらくはアーサー様とのお茶会の煩わしさから逃れることができそう。

 お父様からは、婚約発表の後の方が花嫁修行にいいのではないか? とも言われたのだけれど。


 お母様が、婚約発表の後は式へ向けての準備に追われるわ、


と、理由は違えど私の肩を持ってくれて、すぐに神殿へ行けることになった。


「お父様、お母様、では行って参ります。あの…」


両親に挨拶をして、歩き出そうとした時に少し気がかりなことを思いだした



「あの、お父様、アーサーさまにはお伝えした方がよろしいでしょうか?」


「私から━━」

「ダメよ!」


なぜかお母様が勢いよく父の言葉を遮っていた。


「え?お母様?」


「うふふ。マリーベル、こう言う事は殿方には内緒にしておくものよ。」


「お母様、でもアーサー様からお茶会のお誘いもあるでしょうし」


「うふふ。アーサー様から尋ねられた時には、この母がお答えします。


ご自分の為にマリーベルが花嫁修行に行ったことを知れば、きっとアーサーさまはお喜びになられるわ。

 こう言う事は尋ねられてから、答える方が効果があるのよ。」


いえいえ、お母様?


私は別に好感度を上げたい訳ではないのです!

そうではなくて……ただ、怖いのです。

きっと、逃げたと思われるわ。


実際、その通りなのだけど

一応アーサーさまに言われた言葉のことを考えての行動なのだけど。


逃げたと思われるかしらね。


まぁ、そう思われてもいいかしら。

そもそもアーサーさまに言われたからって、どうしてこんなに悩んでいるのかしら。


むしろ、このまま何もしない方が婚約内定解消できるのではないかしら。


ぐるぐると思い悩んでいたら、父により現実に引き戻された


「マリーベル、まぁ私が報告するから心配しないで行っておいで」


「マリーベル、手紙を書いてね」


「はい。お父様よろしくお願いします。

それではお母様、行って参ります」


アーサーさまへの報告はしなくて良さそうなので、安心して馬車に乗り込んだ。


「お嬢様、出発致します」


「えぇお願い」


御者に答えると、馬車はゆっくりと動きだした。


神殿ではどんな生活を送るのかしら。

不安もあるけれど、開放された気分がするわ。


旅行みたいで、ちょっと楽しみだわ。

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