19話 戦場に立つ
17話にミスがあったのに気がついたため修正しました。いろいろと追加したものもあるので見てみてください。
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ふざけてるのか。そう問われた。訳がわからない。私が何に対してふざけていると言いたいのだろう。
「何をふざけてるって?この戦場で?私にはわからないんだけど」
「ふざけるな。戦場だと?冗談を言うな。お前は戦場だなんてひとかけらも思っていないだろう」
「殺し合いの場が戦場じゃないわけがないでしょ」
「殺し合い、だと?・・・・・・お前は勘違いをしている。お前には殺す気がない。その程度で・・・・・・。その程度の人間があの方を殺しただと?・・・・・・生かしておく価値はない」
纏っていた雰囲気が変わる。生け捕りという目的が消滅し、代わりに確実に殺すと言う意志が生じる。
なるほど、確かにさっきのは殺し合いじゃない。遊ばれていただけだ。彼からしたら遊びというのも正しくないだろうけれど。
気圧され、後ろに後ずさり、砂と靴のこすれる音がした。
「った」
刹那刃が切り裂き血が吹き出る。私が人さと証明するその鮮やかな赤は男のヴィースをいともたやすく染め上げる。すぐに血を止めて傷を塞ぎ、距離を取ろうとするも、瞬き一つで一気に間を詰めて男は振りかぶる。
今度は防御が間に合ってヴィースに当てられたけれど、逆に力を受け流せず、落ちてくる強い力に負け膝をつく。まずい。体勢が崩れた。
膝が顔を捉えて、鼻血が出る。飛び散った液体が眼に入り、思わず目をつむると、首を掴まれて持ち上げられる。息が止まり体はびっくりして空気を求める。このままだと息ができなくて死ぬ。ようやく気づいた私は動き始める。
首を捕らえた男の太い右手をヴィースを消して自由にした両手ではずそうとする。突然全身に衝撃が走る。私は腹を殴られていた。
「う」
「しぶとい」
もう一度、痛みが突き刺さる。何か食べていたら確実に吐いていた。案外吐いていたら男もひるんだのかも知れないが、そういうものも見慣れていそうだと思う。
男は既にヴィースを消していた。私が消したからもう出す必要はないと判断したのかも知れない。事実、男に攻撃をできる未来は見えない。
きっと勝てない。私は死ぬ。
両足で男の腹に何度も蹴るが、今度は地面にたたきつけられる。当然息はつまり、そして急に呼吸が復活し咳が出る。
それでも男は容赦のかけらもなく私の顔を踏みつける。鼻が折れた気がする。男は何度も私を踏みつけ、蹴り、蹴って踏みつける。死が近づく。
もうろうとした意識の中痛みから逃げようとして体を起こそうとし、力なく崩れる。おそらく手が折れている。力がしっかり入ってくれない。
何度も蹴られて、腹に一撃が入って息が止まりかける。その瞬間何かが壊れた音がした。壊れたのは服の留め具だろうか、上着のポケットに入れていた財布が落ちていた。お下がりのボロボロの、だけど大切な財布が。
その瞬間、男の動きが止まる。今しかない。千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。最後の魔力を振り絞って対魔結界を解除しなければならないほど近づいている右足から火を伝わせる。
乗り移った日は私の制御から外れ、ただの炎になる。こうなれば対魔結界の影響は受けない。もともと範囲的に不可能だけれど、魔力で燃やしている状態でつながりをたたれたら最悪の場合制御権を奪われる。
男が消火しようとして、残っていた結界にほころびが生じる。それを縫うように魔力弾を打ち続ける。撃って当てて撃って当て続ける。
貫通したことにより迸った血すらも貫いて弾は前へ前へと進む。ようやく男は結界を作り直したけれど既に死にかけている。結界の維持すら危うい彼に治癒魔術を発動する余裕は残っていない。
男は後ろに倒れた。私は片手で立ち上がり、距離を取る。今男にできることはほとんどない。私も、回復をしないといけない。
治癒を発動するために結界を解除すればまた私に撃ち続けられる。発動しなければ緩やかに死に向かうだろう。攻撃は以ての外だし。私ほど魔力が多くないから回復も遅い。
「お前・・・・・・エテルナス、と言ったか。ベナ・・・・・・ベネフェクトとはどんな関係だ?あいつは元気にしているか?」
どこか縋るような男の口調よりも衝撃的な言葉があった。
ネーフェの本名。
ベネフェクト。
「何、で・・・・・・ネーフェの・・・・・・あんたは。あんたはネーフェの何なの?」
「兄だ。生き別れの」
繋がる。どこかで聞いたことがあったのはネーフェの体験だったからか。言われて見れば眼のあたりは似ている。男は顔に傷が結構あってわかりにくかった。
「もう、死に別れにした方が良いんじゃない?ネーフェは死んじゃったし、あんたも死ぬし」
「何だと?」
悲しみを笑顔の仮面で覆い隠し、話し続ける。
魔力で最低限動けるぐらいには体を治癒しておく。
「情報弱者はかわいそうだね。ネーフェは処刑されて死んだよ。今日」
「そうか。わかった」
男はフォルゴーレを出す。一度消したからだろう。私を斬ったことで付いた血はきれいさっぱり消え、鈍色に輝く剣身がある。
私も対応するようにヴィースを顕現させる。命の輝きがフォルゴーレを輝かせる。どこかでそんな言葉を読んだ気がする。まさしく、私たちの刃は輝いていた。
身体能力強化を発動して、ほとんどなくなっている握力を、足の力を強化する。
双方構えて、相手に向かって走り出す。
力強く踏み込んで、斬りかかる瞬間手に激痛が走る。折れた腕では無理だったか。そう思った。
しかし、剣はすっぽ抜けて、男の胸の方にまっすぐ飛んでいき。そして。
男に、男の胸に深々と突き刺さった。
ゆっくりと、後ろに倒れていくのを見ていた。
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