11話 私が殺した

後半にR18よりな描写があります。見たくない人は飛ばしてください。

一応見なくても大丈夫なように次の話の最初にあらすじを載せておきますので。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私は地面にうずくまっていた。

 そこで一人、ただ泣いていた。

 泣きながらふと目を上げる

 そこには死んだはずの父がいた。


「父、さん」

「何で助けなかった。お前ならできただろう、クズが」


 父さんが人を罵るのを初めて見た。温厚な性格だった、あの父さんが、私を罵るのを。理解できなかった。本当に父さんなの?

 母がいた。最後に会ったあのとき・・・・・・確か、私が十歳になったときの格好と全く変わらない。


「家族を見捨てたのね。いえ、あなたはもう家族ではないわ。どうしたらこんなクズに育つのかしら。育て方を間違えた覚えはないのにね」


 あからさまな無視ばかりされていたから実感がわかない。

 思考の片隅にこれが現実なのか疑う気持ちがある。父も、母も、そんなことを言う人じゃなかった。

 でも、それは自分の罪から逃げるための都合が良い方便に過ぎない。私は、間違いなくクズなのだから。

 モメンタがいた。彼女の目には間違いなく侮蔑が宿っていた。


「信じてたのに、お姉ちゃんのこと。痛かったよ。苦しかったよ。代わってくれたら良かったのに」


 そしてようやく、気づく。その言葉は全て私に向かっているのだと。

 やめて。そんな目で見ないで。

 そんな自分の腐りきった人間性を証明する考えが浮かぶ。そもそも最初に見捨てたのは自分だ。家族を、殺したのはきっと私だ。

 ・・・・・・いや、母さんの言った通りだ。もう、私が家族と名乗って良いはずがない。私たちは、もう家族じゃない。ほかでもない私の手によって、最後の一線は越えられた。

 私はただ泣いていた。

 三人は私が見殺しにしたという事実を何度も何度も私に突き立てる。

 泣く資格なんて私にはない。見殺しにしておいて、あとで後悔するなんて虫が良すぎる。そんな人間がクズじゃなかったらどんな人間がクズなのだろう。

 ああ、そんなのわかってる。そんなことぐらい理解している。止めない大多数は駆逐しづらいから、時に実行するごく少数よりも危険だ。私は、止めることはできたかもしれないからなおさら質が悪い。人として、家族が死にそうになっていたら助けようとするのが当たり前だ。

 それでも、自分への怒りよりも、責められる事への悲しみの方が上回っていた。

 そんな自分のクズさ加減に呆れていた。

 悲しむ資格なんて存在しない。

 どうしようもなかった。私が行ったところでどうにかなったわけじゃない。そんな自分のクズさを補強するだけの言い訳が浮かぶ。

 ああ、本当に私はクズだ。

 突然、体を誰かに触られた気がした。

 一気に現実に引き戻される。三人は人でなし、と最後に言った。

 開いた目に最初に入り込んできたのは、異様な光景だった。きらびやかな服を着ている太った男が下半身裸で私の上に乗っていた。その手は私の服に伸びていて、私の服を脱がそうとしていた。


「変態っ」


 完全に下着まで剥ぎ取られる前に男を蹴り飛ばして逃げようとするが、予想以上に強い力が出ない。蹴った右足は掴まれて、いやらしい手つきで撫でられる。

 気持ち悪かった。己がしてしまったことへの罪悪感も吹き飛んでこの変態から逃げることだけを考えていた。間髪入れず放された右足で股間めがけて蹴りを入れようとしても、うまく決められない。

 男は下卑た笑みを浮かべながら、先ほどよりも服を脱がす速度を遅くする。もう私に抵抗の手段がないと思っているのだろうか、私に屈辱を与えることを目的に変えようとしているようだった。

 男が顔を近づけてくる。酒臭かった。

 どうすれば良いのかわからずとにかく暴れる。けれど彼我の体重差がありすぎて、暴れても相手にそこまで効いていない。今度は、上着を脱がしてきた。

 肌を見せはしないと服を死守しようとしても、素の力の差は歴然だった。

 いよいよ上半身を肌着一枚にされ、下半身を裸にされる。


「デュフフ。ドミナが今日はなかったけど、良いのが道ばたに転がってる。最近はこういうの、してなかったからなあ。楽しませてくれよ、お嬢ちゃん」

「やだっ、放してっ。変態っ、死ねっ。死ねっ」

「良いねえ、この反応」


 そんな言葉は男を喜ばせるばかり。

 いよいよ相手に犯されると思ったところで腕を押さえていた力が弱まる。無我夢中で腕を払いのけてフォルゴーレを出し相手に斬りつける。

 予想外の攻撃に男は体勢を崩して私は男に乗られた状態からの脱出に成功する。


「このアマ!ぶっ殺してやる!」


 きれた男は素手で私につかみかかってくる。小回りのきかない長剣では最悪自分も切ってしまうから下手に振り回せない。

 そんなことを思っていると、男は私の顔面に拳を振るった。すさまじい痛みに頭がクラクラして、よろけていると押し倒される。フォルゴーレを取られそうになったので一度消した。

 すると当然のごとく地面に組み敷かれて首を絞められる。

 息ができない。苦しい。

 視界の端が白く染まりだした。

 このままだと間違いなく死ぬ。

 死にたくない。そう、思った。

 そこからは詳しくは覚えていない。

 本能のままにフォルゴーレを顕現させ、男の心臓にめがけて突き刺す。あまりに速すぎた動きについて行けなかったのか、男の顔には驚愕が宿っていた。

 それでも私だけは殺そうと、最期の力を振り絞って、万力の握力をもって私の首を絞める。首の骨までもが悲鳴を上げる。

 我慢比べだった。私が先に死ぬか、男が先に死ぬか。早くとどめを刺さなければならなかった。男の胸のあたりをぐちゃぐちゃと必死に剣でかき混ぜる。

 何秒たったのだろうか、男の力が弱まり、ついに私の方に倒れ込んでくる。

 その重い物体を押しのけて。大きく息を吸って。そして惨状を目に焼き付ける。

 ああ、私が?

 殺した?

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