6話 職業発見
西地区にある職業紹介所は当然南にもある。
その名もインテリトス帝立南地区職業紹介所。そのまんまである。
受付のお兄さんから場所は教えてもらっているから、昨日みたいに迷うことはない。はず。きっと。私は自分を信じる。信じるのだ。
とまあ、冗談はさておき、実際のところ、南と西じゃ仲はあまり良くない。人材の取り合いになるから当然ともいえるけれど。
かといって、別地区に良い仕事があるかもしれないのにそれを教えないのは面子に関わる。
大変だなあ、としみじみ思う。まあ、私にはあまり関係ないけれど。
インテリトス帝立南地区職業紹介所は西地区のものとほとんど形や大きさが変わっていない。帝国にとっての重要度で言えば西地区も南地区も変わらない。
世界的な大商人の拠点が置かれる西地区は国内外から様々な人が訪れるし、各国からの公式の使者は南地区に滞在する。そのどちらかがみずぼらしければ他国になめられる。
見栄を張るのは大事ってことだ。
特に国家間ならつけいる隙を見せてはいけない。
今帝国は戦争をしていないけれど特別仲良しって訳じゃない。帝国は他の国を領土にする気はあるだろうし。だから、国境あたりは緊張感漂う場所だろう。
当然、明日戦争が始まってもおかしくない。弱みを見せた時点で基本は負けなんだ。
それをよく教えてくれる。
・・・・・・できれば八年前に知っておきたかった。何を今更、ってほどじゃないけれど、もっと前の方が役立てられたのは揺るがない事実だから。
ドアを開けて中に入ると、やはりいくつかの窓口と、縦2バルム、横3バルムぐらいの掲示板がある。
西地区での失敗を忘れず、私はまず受付に行く。狙いは人の少ないところ。
前回は人が多いところに並んだのが間違いだった。本当にあれは怖かった。視線が突き刺さって痛かった。
今回は強面のおじさん。きっと人気がある人じゃないはず。
・・・・・・なんか、顔立ちは良い気がするけど、きっと気のせいだと思う。誰か気のせいって言ってください。お願いします。本当に。
「あの、すみません」
「はい。何でしょうか?」
「私、十二歳で女なんですけど、何かできる仕事ってありますか?」
「調べてみますね」
彼は大きな手帳を開き、調べ始める。
無駄に大きい本だな、と思う。字がとにかく大きいし。
周りを見ると、たくさんの視線がこちらを貫いているのに気がつく。その大半は怒り、嫉妬、憎しみといったもので好意的なものは存在しない。
何でですか?いや、私、人気なさそうな人のところ選びましたよね!なんで睨まれなきゃいけないんですか!まあ、百歩譲って彼を好きな人が協定でも結んでいたとしましょう。だとしても初めて来た人にわかるわけないじゃないですか!
無理ですよ!ここは職業紹介所であって、顔が良かったり人を引きつけるところがあって人気になった役者を見る場所じゃないんですよ!
何でよ、もう。ほんと、助けて・・・・・・。
「えーと、条件に当てはまるのが見つかりました。とある貴族のお方が、若い子供の召使いを必要としているようです」
「ありがとうございます。場所はどこですか?」
「南地区の一区の二十番ですね」
「わかりました」
ちょうど良い感じで声をかけてくださってありがとうございます!
南地区の一区と言えば、東地区に南地区で最も近い。東地区はお金をあまり持っていない平民がたくさん住んでいるから、治安があまり良くないらしい。
あの人も絶対に行くなと言っていた。たまに道に迷って入り込んでしまった女性が弄ばれて、ボロボロになって、死体として捨てられているという。
確かに、迷い込むような場所に一人で行く方も無用心だ。だからといって迷い込む方が悪いというのは頭がおかしい人間の詭弁だろう。
本当に反吐が出る。人間には屑がたくさんいる。
だから、私はあまり東地区に近づきたくない。ある程度自衛ができると言っても、ずっと警戒できるほど私は殺伐とした場所にいたわけじゃない。いざというときに恐怖で体が動かないかもしれない。
実際に戦えても寸前で殺すのをためらうだろう。そうなれば死ぬのは私だ。
けどまあ、しょうがない、か。背に腹は代えられない。
「こちらが紹介状になります」
「ありがとうございます」
「地図は30キュロスになりますがご購入なさいますか?」
「あ、じゃあ、お願いします」
銅貨を三枚財布から出す。地図は帝都の大まかな地理についてかかれてあり、かなりお得だと思う。大まかとはいえ、距離感とかはかなり正確だから良い買い物だった。
私は地図をもらって足早に職業紹介所から逃げ出した。
「一区、二十番、と」
この位置からなら、帝城の近くまで行った方が道に迷いにくい。
歩いていると、魔力で強化した耳にいろいろな情報が入る。
その中にはあまりうれしくないものがあった。今日、死刑の執行があるらしい。
帝城の方に行ったら間違いなく処刑場の近くを通らなくてはいけないから憂鬱だ。それでも、道を間違えるのもいやだから、できる限り心を無にして立ち去ろうと思う。
処刑場の方向に歩いていると近づくにつれて、処刑人の怒号が聞こえだした。
本当に別の場所でやってほしい。何でこんな場所でやらなきゃいけないんだろう。
そう思いながら通り抜けようとした。
・・・・・・私は耳を疑った。
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