第11話

「勇者様のパーティに呼ばれちゃったんだよね」


 バリヤ、巡、ミウェンを集め、ザックは何ともないような態度で言った。


「僕の他には、吸血種の魔族の神官の子と騎士団の総監督である騎士団長がパーティに編成されたんだけど、瘴気の浄化に帯同することになったから、ちょっとだけ留守にするよ」

「そうなんですか」


 瘴気の浄化には、この世界で一番の戦士となった勇者と、この世界で一番の騎士である騎士団長、この世界で一番の魔導士であるザック、この世界で一番の吸血種の神官の4人でパーティが組まれることになったらしい。


「うん。それでバリヤのことなんだけど」

「え」


 ぎくりとした巡にザックは何を思ったか知らないが、ニヤリと顔を歪めた。


「僕は勇者様召喚で魔力を結構使っちゃったんだけど、そうすると4分の3バリヤからとった分の魔力を魔石だけだと補充できないんだよね。あの時、メグルもどこかに召喚されそうになっててそれをバリヤが助けてたろ。バリヤはその分も魔力を消費してるから、わかりやすく言うと彼は今、弱ってる状態なんだ」

「見てたんですか」


 勇者召喚の歓喜に埋もれて、巡の危機など殆ど知れ渡っていないと思っていた。

 ザックは更に続けた。


「だからメグルの魔力を少しバリヤに分けてあげてほしいんだよね。2分の1くらい」

「半分!?それは少しとは言いませんが」

 ミウェンが驚いたように声を上げた。


「うん、でも昨日のことがあってさ、よく考えたらメグルって魔力を持ってても殆ど使えないから宝の持ち腐れなんだよね。メグルが自分で使えそうな分は置いておいて、他の魔力はバリヤに蓄積した方がメグルの身を守れると思ったんだよ」

「それはそうですね……」

 巡は同意した。


「今は魔力を殆ど使っちゃったとはいえ、時間が経てば僕の魔力も元に戻ってしまうし、バリヤみたいに魔力を蓄積できる器を探すのは骨が折れるから今メグルに居なくなられると僕としては非常に困るんだよね。だからメグルを守るためにも、メグルの魔力をバリヤに分けてあげてほしいんだ」

「わかりました」


 巡としても、命の危機が今までで一番低いこの世界に、若干愛着が湧いてきていた。

 一度目の異世界でも二度目の異世界でも誰かのせいで自分が死んだわけではなかったが、誰かに守ってもらえる世界というのはこの世界の、アルストリウルス国だけだったからだ。


「それでさ、僕が浄化の遠征に行っている間、メグルはバリヤに魔法を教えてもらいなよ。そしたら僕が返ってきて、魔力が回復した後はメグルは自分の魔力と僕の魔力両方を使って生きることができるだろ」

「確かに、そうですね」


「まあ、なにはともあれ、君の魔力をバリヤに半分渡してボディガードとして強化してからだね、全ては」

「ああ……俺も、俺の魔力なら何も感じずに受け渡しできますし……」

「そうだよ、よかったじゃない」

「一番簡単な方法は、俺がメグルの魔力を喰えばいい」

「いや、スライムに溺れるのはちょっと……」


 スライムの中に入って窒息しかけていたザックを思い出して、遠慮させていただこうと辞退する巡。。


「人の形のままでも喰えるが」

「え?」

「人間の姿のままで魔力を喰えばいい」

 バリヤが静かに言い放った。


「人間の姿のまま魔力を喰うって……一体どうするんですか」

「今度は手だけじゃなく、肌の触れ合う面積を増やして魔力の流れの急所である首元を噛む。そのまま魔力を俺が喰う」

「首って、魔力のというか普通に人間の急所ですよね」

「嫌ならスライムの状態で喰うが」

「いや、手を繋いで受け渡すのだとダメなんですか?」

「魔力量の半分なんて、手だけだと時間がかかりすぎる」

「いや、いやいやいや!!だからってそんな!!」


 拒否しようとする巡に、今度はザックが言った。


「大丈夫だよ。こんな見た目だけどスライムには生来、性別は無いから。僕の魔力の自我でこの姿になってるだけで、女性に変身することもできるよ」

「そういう問題じゃないですよ!」

「スライムのまま魔力の受け渡しをするのが一番早いんだけどね。僕みたいに」

「あれはアンタだからできるんでしょう!あんなの普通の人間には拷問ですよ」

「まあ、僕はエルフだから耐久性が違うのかもね。魔力の受け渡しをしてて窒息して死にましたなんてお笑いにもならないからね」

「でしょう!ですよね!!俺、多少時間がかかっても手と手で魔力の受け渡しをすべきだと思うんです!」


 言った巡に、異を唱えたのはザックだった。


「それって、メグルの身体は持つのかな?」

「え?」

「魔力の受け渡しをしてる時、バリバリって衝撃波みたいなものを感じるじゃないか、あれに長時間、君の身体は耐えられるのかな?と思ったんだよね」

「あ……」


 そんなこと、毎回短時間のことで、しかも快楽を伴っていたために忘れていた。

 ザックやバリヤが短時間での魔力の受け渡しにこだわるのにも理由があったのだ。そして、それは巡の為だった。


「メグル殿のお身体に負担がかかるのでしたら、短い時間で済ますべきですよ」

 ミウェンが口火を切った。


「そうだよ、メグル」

「時間は短ければ短いほどいい」

 ザックとバリヤも同意した。


「いや……肌の触れ合う面積を増やすって……言ってる意味わかってるんですか?」

「本当にやっちゃうわけじゃないじゃん。キスと愛撫くらいのもんだよ」

「わかってんじゃないですか!」

「でもバリヤはスライムだよ?」

「関係ないですよ!!俺が人間なんだから!!」

「でも、バリヤは君のことを守ってくれるよ?」

「うっ……」

「バリヤが居なかったら君は今頃、また別の世界に行って第三兵団みたいなところに行かされてたかもしれないよ?」

「うっ……!!」

「魔力さえ渡せば俺が貴様を守ってやる」

「ううう~~~!!カッケー!!!守ってくれるんですか!!」

「よし、解決だね」


 そうと決まればと、ザックは巡とバリヤを自分の寝室へ押し込んだ。






 十数分後。


「ザッ……ザックさあああん!!」

 巡の叫び声が部屋に響いた。


「バリヤさんが……!!バリヤさんが……!分裂しました!!」

「へ??」


 寝室から飛び出てきたのはローブを脱ぎ捨て上半身裸の巡と、同じく上半身裸のバリヤだ。

 巡の首元には軽く噛み跡が付いていた。


 バリヤの肌は紅潮し、息が荒れている。

 そして巡は人間の姿のバリヤとは別にスライムを手に持っていた。


「バリヤ様!!メグル殿、どうしたんですか」

「どうしたの、バリヤ」

 ミウェンとザックが一斉に質問する。


「いや……なるほど、これが、快楽か」

 ぽつりとバリヤが零した。


「お……俺は自分の魔力だから何ともなかったんですけど、バリヤさんの歯止めがきかなくなって、気付いたらこの……これ……」

 ドゥルンと巡の手の中で踊るそれは、まごうことなきスライムだった。

 若干スライム自体の意思を感じさせるように、ドゥルンドゥルンと動き続けていた。


「バリヤ、メグルの魔力を受け取って快楽を感じたのかい?」

「ああ」

「なるほど……メグルの魔力は異世界の魔力の可能性があるね。お互いに異世界の魔力を取り込むと快楽が得られるようにできているんだ、きっと」


 2度目の異世界でも死んだ巡は、きっと元の世界で魔力を身に着け、そのままの身体でこの世界に来たのだろう。

 異世界の魔力とはおそらく、そういうことらしかった。

 そして、こちらの身体の持ち主が異世界人の魔力を受け取っても、別の世界の異世界人がこの世界の人間の魔力を受け取っても快楽が生じるようにできているのだろう。


「それでこのスライムは……」

「えっ……バリヤの分身じゃないの?」

「分身??」

「早いとこ言っちゃえば――君とバリヤの子供だよ」

「こども!?!?」

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