第7話
道端や絶壁で煌めく石をツルハシでキンコンカンとやり始めて数刻。
「いや強ッ……」
巡はバリヤの実力を侮っていた。
剣に纏った魔力で現れる魔獣をズバズバと切り捨て、明らかに自分と同種であろうスライムなどもサクッと消し去っていくバリヤに開いた口が塞がらない。
しかも、魔法で人間に変身しているはずなのにそのうえでまだ魔法を詠唱して戦うのである。ほとんど無敵と言っても過言ではない。本当にスライムなのかどうかも疑わしい。
巡はといえば道の端に寄ったり、光る魔石周辺をウロウロしてはツルハシでひたすら石を掘り出す作業である。
バリヤが強すぎるせいでウロウロしても特に危険にさらされることなく採掘を続けている。
それに以前渡された護身用のネックレスの存在もあり、初めて見る魔獣やモンスターたちに臆することなく巡の心を支えていた。
と、キンと音を立てて割れた石を拾い、中に何かが入っているのを見つけてミウェンに声をかける。
「あの、これ……」
「まあ、珍しいものを発見なさいましたね」
なんだとバリヤも戦闘を中断してこちらを見に来る。
「これは……魔道具だな。魔石には貴様に渡したように魔法を入れておいたり、アイテムを入れておくことができる。
ただし魔力が無いと使えないし取り出せないが。
これも魔力を流せば取り出せるように魔石の中に入れられた魔道具だ」
「なんの魔道具なんですか?」
「ザックに聞いてみないとわからない。コレは貴様が持っておけ。貴様の功績だ」
「あ……ありがとうございます!」
レアもの発見である。
嬉しくなってはしゃぐ巡に、ミウェンも嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、このくらい採掘すればもう十分なのではないでしょうか」
ミウェンの言葉を合図にしたかのように、巡とミウェンの肩一杯にぶら下げた袋をバリヤが見た。
「これだけあれば当分持つだろう。引き上げよう」
昼の鐘を過ぎて城下町を戻った一行は、魔石になる前の結晶と共に例の魔道具の入った結晶をザックに渡した。
「これは……」
「はい……」
「一体何だろう?」
はて?とザックは手にした魔道具を見回しながら首を傾げた。
懐中時計のような作りになっており、盤面には魔法陣が描かれている。
ザックが盤面に手を当て魔力を流し込むと、魔法陣がピカッと光り、そして消えた。
「魔法陣は、キュア魔法の物だね。傷を癒したり体力を回復させるのに使うよ」
「そうなんですね」
「え?ミウェンさんも知らなかったんですか?」
「はい。魔法は大抵詠唱で覚えますから、魔法陣のことまでわかるのは魔導士ぐらいのものですよ」
「でもこれ、ただの魔法陣じゃない……空っぽの魔石が背面にくっついてる」
懐中魔法陣の背面は、形に合うように磨かれた魔石になる前の結晶で作られているらしい。
「多分魔石をくっつけたかったけど、間に合わせの殻で作ったんだろうね。
この石の部分に魔力を注ぎ込んでおけば……」
ザックは懐中魔法陣を巡に渡した。
「メグル、肘のとこ、少し怪我してる」
「あ、本当だ。採掘の時にどこかに当たったのかな」
「じゃ、この魔法陣を使ってみて」
「え、俺魔法なんか使えませんけど……」
「いや、使えるはずだ。……ほら」
懐中魔法陣の盤面がピカッと光り、巡の怪我がスウッと塞がっていく。
「まあ、これは便利ですね」
ミウェンが手を合わせて目を輝かせた。
「魔法が使えない平民でも、魔力をこの石に込めれば怪我が直せるように作られたんじゃないかな。
これを作ったのは魔導士だろうけど……、採掘をする平民のために結晶の中に入れておいたんじゃないかな。
これはメグルが持っておくと良いよ」
「わあ……ありがとうございます!」
「これでメグルも魔法が使えるようになったね」
「凄い……!嬉しいです!」
「うんうん」
巡は キュア魔法 を覚えた!!
レベルアップの音源でも流れそうな雰囲気であった。
「あ、そうだ。
勇者召喚の魔法陣の解明の件、上に報告した魔導士が居て、再度召喚することになったんだよ。
その時に使う魔力の大半を僕が負担することになったから、バリヤの魔力とバリヤからメグルに流した僕の魔力を返してほしいんだよね。
殻の魔石を採ってきてもらったとこ悪いんだけど、頼むよ」
「えっ……勇者様の召喚がこんなにすぐになされるのですか?」
「うん。だってこないだ使った魔法陣に否定文足しただけだもん。
魔力は僕が居ればどうにかなるだろうってことで可決しちゃったんだよね」
「と、言われても……俺、魔力を返す方法なんて」
剣に魔力を纏わせる訓練は成功したが、一応返事をしてみる。
「うん。だから見ててよ。
バリヤが僕に魔力を返すところ」
「え!?」
一瞬、バリヤから魔力を流された時の快楽を思い出して、見ててよ、と言われたことにギクリとするが、あれは異世界人間の体質によるものだったことを思い出してホッとする。
「バリヤ、一番手っ取り早い方法でいいよ!」
「わかった」
ザックがバリヤに言うと、バリヤは人間からスライムの姿に変身した。
「スライム……にしてはでかいような……」
魔石採掘の道中で見たスライムの何倍か、170㎝代半ばの巡の顎先までぷにぷにと物体がうごめいている。
「バリヤは僕の魔力を沢山蓄積してるからね。
スライムは魔力の塊が魔物になったものだから、魔力が高ければ高いほど大きくなるんだ。
じゃ、行くよ~」
見たところ180㎝はあるザックだが、合図を機にバリヤがザックの背丈までプニンプニンと伸縮を繰り返し伸びた。
そしてザックはズプンとバリヤの中に入りこみ――
「いや溺れてる溺れてる!!
ザックさん~~!!!」
「うぼぼぼぼ」
ザックに魔力を明け渡し体積が小さくなっていくバリヤの一方で、ザックはスライムの中で息ができずに窒息しかけている。
「ぷはっ」
スライムの中からザックの頭が飛び出てきた。
「良い感じで魔力が戻って来てる……バリヤ、4分の3ちょうだい」
シュルルル、とバリヤが更に小さくなっていく。
それと同時にスライムに浸かっていたザックがべとべとのまま這い出てきた。
「と、こんな感じだよ。
参考になったかな?」
「なるわけねーだろ!!」
スライムの魔力の受け渡し方、怖すぎる。
そして採掘の時に見たスライムと同程度まで小さくなったバリヤに、ザックが傍に用意していたらしい魔石をジャラララと突っ込んでいく。
スライムの中で魔石がうようよと泳いでいるのが見えるが、バリヤの体積がどんどん大きくなっていくのを見守る。
「僕は僕の魔力でないと拒絶反応を起こすけど、メグルとバリヤだけは他人の魔力を取り込んでも生きていられる。
バリヤは小さくなったら魔石を喰わせれば良いよ」
「そ、そうなんですか……」
「バリヤの中にはもう4分の1しか僕の魔力が残ってないけど、今ある自我が無くなっちゃうと困るから全部僕に移し替えるわけにはいかないんだ。
だから残りの魔力はメグルの番だよ」
「あ……そうか、俺がバリヤさんからもらった魔力は……」
「そう、バリヤの中に蓄積していた僕の魔力。君が今持ってるのは、君の魔力と僕の魔力なんだよ。」
そこで新たな問題が浮上する。
「俺、自分の魔力と、ザックさんの魔力の判別がつきません」
「そうだね。
君の身体を研究して魔力を分ける時間は無いから、バリヤに君の魔力ごと受け取ってもらえばいいよ!」
「なるほど……!」
シュルルっと人間に変身したバリヤが巡に手を差し出した。
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