第6話
ザックは戻ってくると、晴れ晴れしく巡とバリヤに向かって発表した。
「まず、ハツザキメグル、君は世界の保全のために魔力の受け皿として神殿に仕えることになりました。
第三兵団からは脱退です」
「いよっしゃあ!!」
ガッツポーズ。
メグルは小さく声を上げた。
「これからはこの国では一番の魔力を保有する僕の魔力蓄積装置2号としての役割を担うことになる。
そしてここからは別件で、僕個人の依頼だよ」
「ザックさん個人の??」
「そう。僕はバリヤに魔力を蓄積する以外に、魔石になる前の石に自分の魔力を注ぎ込んで自分の魔力を減らしているんだ。
それに使う石を持ってきて欲しいんだよね」
「石を……」
「うん。この世界のひとたちは魔力の受け流しはできるけど、他人の魔力を受け入れることは拒絶反応が出て叶わないって話はさっきもしたよね。そしたら、魔力の高いひとたちはどうして魔力を暴走させず、減らしているのかというと、魔力のない魔石になる前の結晶に魔力を注いで魔石を作っているんだ。
そしてそれを魔力の低い平民たちに売って、平民たちは魔石を魔道具として使うことで生活が成り立っている。
鉱夫が直接掘り出したり、モンスターや魔獣を討伐した時に残る魔石は高くて平民たちは買えないから、魔力の高い者と低い者同士で相互扶助の関係にあるんだ。
でもそのために使う石は、自分で用意しなければならないんだよ。
平民たちが使った後の魔道具としての魔石の殻を貴族や魔導士たちがまた買って、魔力を込める。そういう風に循環しているんだ。」
「なるほどぉ」
「採掘採集は平民の仕事だ。魔導士や貴族の連中は大抵家の者を使って石を集めるか、平民から買い取った石を使う」
「あれ?じゃあザックさんは?」
「僕はバリヤが居るから、家に頼るほどの石は必要ないんだよ。それに魔力の無い魔石なら……」
「ああ」
バリヤが手のひらを下にして、腕を持ち上げた。
ジャラジャラジャラと音を立てて手のひらから石が床に落ちた。
「俺は魔力を食べるときに魔石を喰うから、残った殻はザックにやっている」
「とはいえ魔獣やモンスター討伐に行く時くらいしか魔石を食べることなんてないから、残りの分を二人で採ってきてほしいんだ」
「そういえば昨日のお昼、魔石を食べてましたよね」
ギクッ。バリヤの動きが一時停止する。
「何もないときに魔石を食べたの!?僕の魔力を受け入れるんだから、魔力量が相当減ってからじゃないと食べちゃ駄目じゃないか!」
「すまん。有事と判断してのことだ」
有事とは、食堂の案内の件だろうか。
あのときは巡もまだここまでのことは把握していなかった。そんな事情があったなんて。
「すみません、俺に食事をするところを見せてくれたんです」
「そうだったんだ。まあ良いよ。過ぎたことだし、今度は君が居るから石集めは楽なんじゃない?」
「へ?俺が居るとなんで石集めが楽になるんですか?」
「バリヤが魔石を食べて、食べた分の魔力を君に受け流せばいいからさ。そうすれば殻が沢山できるだろ」
「え……いや、あれをやるのはちょっと、まだ先が良いかなって……」
「僕が直接君に魔力を注ぐこともできるはできるんだけどね、魔力量が多すぎると人間相手だと相手を壊してしまうから、これがベストなんだよ。
第一、君が第三兵団に所属が廃止になっただけで僕かバリヤに張り付いとかないといけないだろうから、いっそのことやることを一緒くたにまとめて置いた方が楽なんだよね」
「俺が喰う分だけじゃ少し足りない。俺とメグルで採掘に行ってくる」
「その前にメグル、君は神殿に行かないと駄目だ。騎士団の寮が使えなければ神殿の方で暮らすことになる」
「あっ。そうでした」
気が付けば夕日が差し込む時間帯になっていた。
昼の鐘は実験と会談に集中しいていて気付かなかった。
昼食を食べ損ねたが、夕食の方は、神殿では第三兵団に配属される前に数日お世話になっていたので食堂より格式ばった食事が取れることをぼんやりと思い出した。
「勇者様の代わりの、この国の平穏を保つために来られた異世界人様。メグル殿とお呼びしても?」
「はい。構いません」
神殿の方では、ザックの報告はすっかり行き渡っているようだった。
巡は魔王や魔物の出現を抑えるための器として、神殿に仕えることになったのだ。
兵団のジャケットから司教服へと着替えを済ませた。
神官の一人が巡に話しかけてきた。
「私、メグル殿の側役となりましたミウェン=ユーバと申します。メグル様の日程管理等させていただくことになりましたので何かあればいつでもお申し付けください」
ミウェンは両手の袖を前でくっつけ、軽く礼をした。
ザックの報告一つでこんなにも待遇が変わるとは。
第三兵団に入り、バリヤと巡り合わなければこうはならなかっただろう。
「よろしくお願いします。あ、あのお、俺、バリヤさんと魔石を採りにいかないといけないんですが」
「仰せつかっております。私も同行します」
「そ、そうなんですか」
側役とは一体何から何まで面倒を見られるのだろうか。
この世界に来て数日、勇者ではなかったために半ば放置されていた身としては今までの方が気楽ではあった。
「メグル殿の受け皿としての研究のためにザック=オノルタ様の研究に協力することになりました。
当分の予定は研究と、研究の結果次第ではスライムの第三兵団兵長を同行しての他国での受け皿としてのお仕事も入るやもしれません」
「た、他国へ行くんですか!?」
「とはいえアルストリウルスは大陸一の大国です。そのトップのザック様の受け皿でさえあればこの世界の危機は免れるともいえますから、どうなるかはわかりません」
「なるほど……。ここってそんなに大きな国だったんですね」
巡はこの世界に来てから、国の名前程度の話は聞かされていたが(正確には、神官たちの会話を聞いていて勝手に把握した)国のことなど一つも知らなかった。
この世界の地図なども見たことが無かったし、魔法陣に書いてあった文字は勿論、神殿に彫られている文字は読めなかったがなぜか言葉は通じるのでそのままにしていたのだ。
翌日、巡とミウェンは朝の鐘の時刻にバリヤと共に石採掘に行くことになった。
関係ないが、兵長であるバリヤは巡との予定ばかりで第三兵団は大丈夫なのだろうか。
「おはようございます、バリヤさん」
「ああ」
騎士団についてはなんだか平気そうな様子である。
挨拶もそこそこに一行は採掘へと赴くこととなった。
城下町を抜け、下町へと降りていく。
「魔石が採掘できるのは魔界付近の村だ。俺の出身でもある」
え?と巡は耳を疑う。
前線で戦う第三兵団では危ないからザックに世界の平和のための受け皿として報告してもらったのに、魔石の回収のためにもしや前線に赴かなければならないのか?
顔が引きつった巡を見てミウェンが察したのか、
「第三兵団兵長のバリヤ様がご一緒ですから心配いりませんよ」
と励ました。
そりゃバリヤ本体の心配はいらないだろうが、危険なのは巡とミウェンである。
「私は防御魔法が得意ですからお任せください」
危険なのは巡一人らしい。
そもそも元の世界でこの世界の職業に参照できるRPGでは騎士、魔導士、アサシン、弓使いやヒーラーなどの職業が固定化されており、神官のミウェンが何ができるのか巡には予想もつかないのだが、防御魔法は得意らしい。
「あのう、神官の皆さんは普段何をされてるんですか?」
「神殿で浄化の祈りを捧げたり、癒しの魔法で騎士団の兵士たちの回復事業をして回ったりしていますよ」
なるほど、ヒーラーである。
「魔獣やモンスターは俺が狩る。採掘は貴様らに任せる」
採取職は巡に任されたというわけだ。
人数に対して戦闘員が足りない気もするが、二人がこれで十分と言っているので信用してみることにした。
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