【CoCシナリオ】虚数解の街

亜未田久志

本編

作品コンセプト:ループものに見せかけたクトゥルフ

参加人数:一人

所要時間:二~三時間


導入

KP:うだるような夏の日にあなたはとある違和感に気付く……。

 お昼12時、自室を出てリビングに出る。

 夏季休暇を使って実家に帰っていたあなたは二階建ての一軒家の二階に住んでいた。

 今日、実家から帰る予定だったあなたは荷物を準備して家族に挨拶しようとする。

 しかし一階に降りると家族が誰もいない。

 ふと、そこであなたはカレンダーが目についた。

 八月三十一日のカレンダー。

 確か昨日が八月三十一日だった事を覚えていたあなたは明日のカレンダーをめくる

 するとそこには八月三十一日の文字。

 めくってもめくっても八月三十一日。

 無限に続く八月三十一日。

 明らかに異常なカレンダーと無人の実家を見てあなたは今いる場所がいつもの世界でない事を悟るでしょう――。

 ・探索者はSANチェック成功は1/失敗は1D3


探索パート(あなた=探索者PC)

 あなたはうだるような夏の町。

 そこには不可思議なものが散乱している。

 針が止まった時計を大量に並べた時計屋。

 八月三十一日の新聞紙を大量にポストに詰め込んだ家。

 見覚えのない駄菓子屋。

 大量の遊具がある公園。

(各箇所にヒントを残してもいいかもしれない)

 自分以外誰もいない、人間の気配も猫や犬の気配もしない。

 そこで町の端まで来れたあなたは気づく。(町の端まで徒歩だと三時間ほど)(要調整)

 世界の果て、壁の様な空、いや空のような壁とでも言うべきか。(プロジェクションマッピングのような技術で観覧車の裏から空が投影されている)

 あなたはそこが四角い巨大な部屋である事を分かっていい。(SANチェック成功0/失敗1)

 そんな箱庭とも呼べる町で一際目立つものが一つあった。

 それは巨大な部屋の壁際の一方で回り続ける無人の観覧車だ。誰もいない町でそれは動いていた、 観覧車はとてもゆっくり動いている。(何時間かはKP次第)その観覧車が目についたあなたはそのゴンドラの中に入るかもしれない、すると、とあるメッセージが記されたメモが残されている。

「忘れるな、書き残せ」(裏側には「夕暮れ頃、私と此処に」)

 その言葉の意味を分かりかねたあなたはさらなる探索へ進むでしょう。

 しかし、町の光景は不可思議だがめぼしい情報は全くない。(設定として町から得られる情報は基本ない)(生やしてもらって構わない)段々と日が暮れる。

 日が完全に落ちる頃、午後のサイレンが鳴る。

『午後六時になりました、よいこはおうちに帰りましょう』(五時半など自由に調整してよいとする)

 その声を聴くとだんだんとあなたの意識が遠のいていく。

 そして30分も経つとあなたの意識が強制的にシャットダウンされる。


・この時間制限により、自宅外を探索できる回数が四~五つまでに限られる。

・町にあなたは好きなだけメモを残せる、回数制限、内容の制限はない。


二日目の導入

 次の八月三十一日、あなたの手には「忘れるな、書き残せ」のメモが握りしめられている。筆跡が自分のものであるかどうか気づいてもよい、観覧車のゴンドラのメモに向かう事が出来ればその二つの筆跡が違う事に気付いてもよい。


・これ以降、メモが日を跨ぐ毎にKP側から「あなたは自宅で目を覚ます、メモを握りしめている。見ますか?」とナレーションする。


 しかし、ひりつく日差しに頭が回らないあなたは、朧気に自分の記憶を思い出そうとする。

 だが、思い出せない。

 そうあなたは思い出せないのだ。前日の記憶がない。

 あなたは必死になって記憶を漁る、家族との思い出、友人との思い出、恋人との思い出、なんでもいい。

 しかし、それらは思い出せても、ここ数日の記憶が全くないのだ。

 常軌を逸した事態にあなたは自分の正気を疑った。

・SANチェック成功0/失敗1


 そんなあなたの家に一人の少女が現れる。

 明らかに異質、しかし前日の記憶がないあなたはその子を近所の子供だと受け入れるかもしれない。(導入の無限カレンダーの記憶も消えている。もう一度見る事が出来るが記憶がないので導入と同じSANチェックが入る)

 白いワンピースに麦わら帽子、その少女は言う。

「あーそびーましょー!」

 少女の言葉にあなたは困惑するだろう。初対面の少女に遊びに誘われて困惑しない者のが少ない。

 勿論、あなたがそんな奇特な性格をしている可能性も十二分にある。

 あなたは彼女の手を取ってもいいし、取らなくてもいいだろう。

 彼女は自由気ままに町を行くはずだ。あなたとこの狭い町で鉢合わせる事も多々あるかもしれない。

 その度に彼女はあなたを「遊び」に誘う。公園や駄菓子屋、しかし自分と少女以外誰もいない。

 その事をあなたは不可思議に思う。

 彼女の名前は「キョウコ」美しい黒髪をした少女だった。(APP18)

 彼女と遊ぶうち、もしくは遊ばないうちに、あなたはさらに不可思議な事に巻き込まれていくだろう。

 キョウコと自分以外誰もいない町、なのに動く観覧車が不気味に思える。

 キョウコと交流する日々は少し楽しいものとなるだろう。

 彼女は活発であなたを振り回す。町のありとあらゆる場所に出現し、あなたを翻弄する。

 繰り返す日々の中である日(キョウコとの遊びに三回乗ると強制的に発動する、日を跨いでもカウントはリセットされない)、キョウコは告白する。

「わたし、記憶がないんだ」

 自分と同じ境遇にいる事に気付いたあなたはその事を深く聞くかもしれない。

 すると以下の情報が手に入る。


・八月三十一日の記憶しかない。

・それ以前の記憶が全くない。

・観覧車に固執している。


 あなたはキョウコの記憶を取り戻す手伝いをしたいと思ってもいいし、無関心を貫いてもいい。

 しかしそのキョウコの言葉はどこか悲し気だった。

「なにか、大事な使命があったはずなのに」

 その言葉を聞いて永遠に続く八月三十一日とキョウコは関係があるのではないか。

 あなたは正気度を削りながら気づくかもしれない。

 毎日、目覚める度に家に増える見覚えのないメモ書きに正気が削られていくだろう。(記憶がないため毎回事ある事にSANチェックが入る可能性がある、その度に成功0/失敗1の減少)

 断絶する八月三十一日の記憶。

 濡羽色の髪の少女キョウコとの出会いと別れ。

 次第に此処が現実でないと気づくかもしれないし気づかないかもしれない。

 キョウコの好感度は最初からとても高い。

 あなたの要求を拒否することは基本的にない。

「わたし、あなたと出会えてよかった、ずっと一人だったから、って言っても何も覚えてないんだけど」

「あなたはどう?」

「これはなに?」

 適宜、これらの台詞を差し込むといいかもしれない。


探索箇所

・観覧車は壁際

・探索者の家は町の中心


ギミックと探索者が拾える情報としてほしい推理

・導入で行うSANチェックから8月31日が無限に続いているという事。

・そこが町ではなく何処かの屋内空間であるという事。

・PCとキョウコ以外誰もいないという事。

・日に日に増えるメモとその内容(メモの内容は三回目以降はPCの任意の情報、もしくは「忘れるな、書き残せ」である)から記憶の断絶とこの世界の考察が出来るはず。

・最初に見つける「忘れるな、書き残せ」の筆跡が次からのメモと違うことに気付いてもいい。(最初に書いたのはキョウコ、次からは探索者本人)

・唯一動く観覧車が世界においての異物であると予想出来るはず。

・さらに自分以外の住人であるキョウコもまた異物であると予想出来るはず。

・ここから観覧車にキョウコと乗るという選択肢をいきなり選ぶのは難しいのでキョウコはしきりに観覧車に乗りたがる事にする。それを受け入れるかでエンドが変わる。


キョウコ「今日という日がずっと続けばいいのにね」この台詞が出たらエンド分岐(ノーマル)へ。


キョウコ「この観覧車から見る夕陽がすごく綺麗なんだって……誰から聞いたのかは忘れちゃったけど」

この台詞を引き出せたらエンド分岐(トゥルー)へ。


キョウコ「全て思い出した、すまない地球人、私は、私という種族はイス人。仲間が起こしたこの停滞都市実験を止めに来たが記憶処理され、この器に閉じ込められた。君を無事、現代に帰す事を約束しよう、今はお眠り」この台詞を引き出せればエンド分岐(ハッピー)へ。


エンド分岐

・気づかない場合はそのままノーマルエンド。停滞キューブの中で永遠に近い時間を死ぬまで生きる事になる。(何日経過で終わりか事前に決めておくといいだろう)


・気づいて脱出しようとする場合は、少女と一緒に観覧車に乗ったまま夕暮れを迎えたら(ク)トゥルーエンド。キョウコに連れられるまま「停滞キューブ」の外に出て数万年経った地球を見てSANチェック成功の場合1D10/失敗の場合1D100。降り立った地球は数万年経っているので、実質ロスト。


・ハッピーエンドの場合はイス人と接触しなくてはならない。

 そのためにはキョウコと遊ばなければならない。

 そのキョウコこそが記憶を無くしたイス人であり、彼女の記憶を取り戻さないといけないのだ。

 記憶を取り戻したイス人(キョウコ)は探索者を現代に戻してくれるだろう。

 クトゥルーエンドとの違いはキョウコの記憶の有無だ。

 彼女に記憶を取り戻させるためには、ただ停滞キューブから出るだけではいけない。

 停滞キューブから出てしまったら探索者が発狂する可能性がある。

 停滞キューブ内部でキョウコに記憶を取り戻させてから、停滞キューブを出なければならない。

 そのための「大量のメモ」だ。

 それを証拠としてキョウコに突きつけるよう促そう。


KPとPLの役割、PCの立ち位置。

 PLが自PCとキョウコに如何に自然に記憶の消失を気づかせるかというロールプレイが重要になる。

 KPはPLにPCは一日毎に記憶を失っている事を伝え、自然にPCに「メモ」を残すように誘導しよう。

 メモを残さない場合は自動的に「忘れるな、書き残せ」というメモが残される仕組みになっている。

 それはPCが無意識下の内に書いたという設定だ。

 それらが増える度にSANチェックを挟んでもいいかもしれない。

 とにかく「覚えていない」という事をPLが「PC」に自覚させるようにKPが誘導しよう。

 イス人以外にこの「停滞キューブ」を開けることは出来ない仕組みになっている。

 停滞キューブを開ける仕組みは「観覧車」だ。

 重要なのは「キョウコと共に夕方、観覧車に乗ること」だ。

 一人で観覧車に乗っても停滞キューブから出られないし、夕方でないと例えキョウコと一緒でも出られない。

 キョウコはKPの操作するNPCなのでどこまで誘導するかはKPの采配次第となってしまうのがこのシナリオの難点だ。

 何せ、キョウコも記憶喪失であり、自分がイス人であることすら忘れているのだから。

 重要なのはそれを俯瞰しているPLが自PCとキョウコに対してどう違和感を伝えるかが重要なのだ。

 非常にめんどくさいロールプレイが要求されるシナリオとなってしまった。


・最後に

 キョウコと共に探索した記録が残るといいかもしれない。

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