第2話

「静粛に!」


 突然、重々しい声が宮殿内に広がった。この空間には1000人以上の生徒が集められている。拡声器もなく、こんなに馬鹿でかい声が出せるはずない……まさか魔法か? ラノベ脳の俺はすぐに思考を立て直す。残念ながら俺は最後尾にいて、前の奴らが邪魔で喋っている本人の姿を見ることができない。まあ王道のパターンだと転移先の王様だろうな。


「お主たちをこの世界に召喚したのは、国の未来を守るためだ」


 声の主はそう告げる。周りはざわつき、この状況を楽しむ者、怖がる者、怒る者、泣く者と反応は様々だ。


「ふざけるなー!さっさと俺たちを元の場所に返せー!」


 誰かが大声でそう叫んだ。まあそれはそうだろうな。特にリア充なんかはこんな世界にいるより、元の世界の方が100倍居心地がいいに決まってる。


「残念だがそれはできない。エリュシア王国は今、魔王の脅威にさらされている。このままでは滅亡の危機に瀕しておるのだ。そこで異世界からの力を求めて、お主たちを召喚した」


 声の主は落ち着いたトーンで話す。そんで今の話を要約すると、国が滅びそうだから魔王を倒せ。危険な役目はお前らに任せたってことか。うん、間違いなく反感を買うな。


「ふざけるなー! 俺たちに魔王なんて倒せるわけないだろー!」


 まあ、俺たちどこにでもいる高校生だもんな。そりゃ普通に考えて魔王なんて倒せるはずがない。


「お主たちには古より伝わる特別な能力が与えられているはずだ。それを使えば魔王にも立ち向かうことができるだろう」


 ……マジか。まさか本当にそういう王道ファンタジーの世界なのか? なら、この際貰えるスキルは何でもいい。当然強いに越したことはないが、退屈な日常からようやくおさらばできるんだ。文句なんか言ってられるか。


「お主たちの立っている床には魔法陣が描かれておる。そこに手をかざしてみるといい」


 言われて、足元を見ると床には模様の一部が描かれている。なるほど、これが一つの巨大な魔法陣だったってわけか。早速右手を魔法陣にかざしてみると、手の甲に幾何学模様の魔法陣が刻まれた。おお、これで何かしらの能力が貰えたってことだな。ちらっと隣にいたやつの手を見ると、若干刻まれた魔法陣が違う。変なマークや紋章のやつもいるようで、全員が統一された模様ではないらしい。


「うわ、なんかすげえ!」

「さっきより身体に力を感じるぜ!」


 驚きと興奮が広がっていく。俺は特に体の変化を感じない……ということはあいつらは身体能力強化系統の能力か?


「"ステータスオープン"と言えば自分の能力が確認できる。そしてその能力を使って"レベルアップ"するのだ」


 なるほど、レベルアップのシステム概念がある世界なのか。その辺はラノベによって有無の差があるからな。普段ゲームとかやらない奴らも、現状を理解するまで時間がかかるかもしれない。とりあえずステータスを確認してみるか。


「ステータスオープン」


 ・鈴木蓮

 ・レベル1

 ・戦闘力 100

 ・能力『無限の可能性アルカナ・ロード』頭の中で想像した魔法が具現化する。魔法の効果によっては回数制限がある。


 ……レベル1で戦闘力100か。何となくしょぼいっていうのは理解できる。


この『無限の可能性アルカナ・ロード』にどの程度の制約があるのか分からないが、使い方次第では十分チートスキルじゃないか……? 人によっては全然役に立たないかもしれないが、ラノベばかり読んでた俺ならこのスキルをチート級に扱うことができるかもしれない。異世界モノに魔法は必須の設定だしな。使いたい魔法なら山ほどある。


「どうやら皆、それぞれの力を手に入れたようだな。明日からは王国の騎士たちと訓練してもらい、時が経てば魔物とも戦ってもらう」


 おいおい、明日からっていきなりハードスケジュールだな。そもそもこの人数を統率できるのか?できるからこその大規模召喚なんだろうが。


「ふざけるなー! そんなの横暴だー!」


 あれ、もしかしてさっきから文句言ってるやつ同じ人? 絶対最初に「ふざけるなー!」って言うんだよな……そう言いたくなる気持ちもわかるけどさ。


「横暴だと思うなら出て行くがいい。こちらも働かない者に提供する衣食住はないのでな。ここで拒否する者は我が国から追放処分とする」


 "我が国"って言ってるあたりやっぱ王様だったか。それにしても自己中な王様だ。一方的に呼び出しておいて、協力的じゃない奴は追放ってイカれてるな。なんか無性に腹が立ってきたから『無限の可能性アルカナ・ロード』の検証も兼ねて試してみるか。自分の声をこの空間全体に響きわたらせるようにして――――"轟く咆哮ハウリングボイス"!


「出て行きます!!!」


 俺の発した爆音で、天井に吊るされていたガラスのシャンデリアが木っ端微塵に砕ける。そこかしこにある美しいステンドグラスも砕け散り、全校生徒も耳を塞ぐ。やばい、完全に出力を間違えてしまったらしい。これじゃあラノベに出てくる勘違い主人公の「あれ? 俺もしかして何かやっちゃいました?」と変わらないじゃないか!


「か、構わん。出て行くといい……」


 王様が魔法で届ける声が明らかに小さく怯えている。危険人物だと思われてマークされたら厄介だな……。あの王様、国の不利益になりそうなものはすぐに排除しそうだし。かと言ってここに残るのも奴隷みたいな扱いされそうで嫌だし……とりあえずここを出て考えよう。


 俺は王宮の出口である大きな門に向かって歩き出す。脇に立っている騎士たちが襲いかかってきそうで妙に怖い。でもちょっと怯えた表情してるし多分大丈夫だろう。異世界転移してチートスキル貰えたのはいいけど、いきなり国から追放されて見知らぬ土地でぼっちスタートって……スローライフ満喫するしかないな。退屈な元の世界に未練はないし、チートスキルでのんびり気ままに――――。


「私も出て行きます」


 背後から凛とした声がして振り返ってみると、そこには学校一のマドンナ――高嶺麗華たかねれいかが立っていた。

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