第20話 お礼の品と情報交換

俺たちは丸太を利用した『伸びる』と『固定』のハイブリッドエレベーターで降りていく。

エレベーターと言っても二人で『固定』した丸太を抱きかかえて『伸びる』をしてゆっくりと降りるだけなんだけど……それにしても『伸びる』の使用中でも丸太が細くならないのが不思議だ……質量保存的なものは完全に無視だよね……固さはどうなんだろうか? 脆くなってるのか? 試したいけど今は止めておこう。折れたら大怪我だ……


俺たちが地面に近づいていくと、四本腕の鬼人族の顔が面白い事になっていた。2メートルを超えるマッチョで強面だったが、明らかに口があんぐりと開いて威厳が無くなっている。アスティナさんの方は面白そうな、好奇心旺盛な感じの表情だな……ものすごく可愛い。何か着ているものが綺麗になってる。狩人スタイルってやつか? 


『###########、######。ナオエ、カタシ』

((昨日のお礼を持って来たわ、本当にありがとうね。ナオエ、カタシ))


「大丈夫だったみたいだね、アスティナさん。その人は?」

「言葉通じないんだから……どうしよう、身振り手振りかしら……」


『##############……##、アッシュ。######!』

((やっぱり言葉が全然違うわね……ほら、アッシュ。自己紹介して!))


『#####。アッシュ###。####』

((戦士長だ。アッシュと言う。よろしく))


何やらアスティナさんが四本腕の鬼人族のことをアッシュと言っているな……アッシュさんがお礼を言っているようだった。山伏のような天狗みたいな恰好だな……なんか背中にバカでかい箱をしょってるし……


「ああ、気にしないで……言葉分からないと厳しいね……」

「そうね、どうしたのかしら?」


『#、##、#######。#########。########……##……####?』

((あ、これ、昨日のお礼の品よ。全部持って行って。持ち物少ないから……大変……なのよね?))


アッシュさんが荷物を下ろし、濡れた草の上に風呂敷の様なものを広げる。その上に、この世界の服や何かが入った麻布製の袋などを置いていく。

この感じ……バザー……じゃない、商売が始まるのか? お金は持ってないんだけど……


身振り手振りで色々伝えてくれようとするが、いまいち理解しきれない。

アッシュさんも同じことを思ったのか困った感じになっていた。


「ねぇ、絵が得意なんだから、それでコミュニケーションとってみたら?」

「ああ、そうだね」


俺は草のない土のむき出しの地面に、木の枝で絵を描く。お金っぽいもの持ってない、交換? といった感じで書く。相手も理解したようで、クマを倒す。交換……といった感じだった。あとアスティナさんを助ける。交換……お礼ってことか? アッシュさんが描く人間の絵はなんか独特でおもしろい。象形文字っぽいな……矢印って人種を超えて伝わるんだな……やっぱりわかりやすいのか?


ジェスチャーで、指差しして自分を指さす。相手もうなずく。頷くはYesか。その辺は変わらないのね。


俺は衣服以外にもなんか長くて細い布が数枚……なんだこれ? 何に使うんだ? 長い手ぬぐい?

これ何ってジェスチャーで聞くと、アスティナさんが何か恥ずかしがってるな……

アッシュさんがちょっと赤面しながら手に取って股間にまいた後に腰にまいていく……ああ、ふんどしみたいな下着か……中世のゲームとかで見るやつか……ほうほう、そうやって巻くのか……動画を撮っておきたいな……


ナオエさんもアスティナさんに連れられてなんか布の巻き方をなんかやってる……サラシとふんどし……そうか、この世界はこれが下着なんだね……生活必需品を渡されてる……

まぁ、俺たち臭いもんな……臭かったから下着をお礼の品に?? ああ、下着を早く洗いたい……


アッシュさんたちが風呂敷の上に並べた品物は以下の通り。


・塩・麻袋入り おそらく2KG相当

・干しキノコ、麻袋入り  1KG相当 良いにおい・出汁 しいたけか?

・米・麻袋入り 20KG相当

・男性衣類セット ふんどし X2

・女性衣類セット ふんどし サラシ X2

・麻のひも 20メートル相当X1

・山刀と収納腰ベルト X2

・革製のサンダル男性用?X1

・革製のサンダル女性用?X1

・革と木製の盾X2


なんかすごい量だった。

アッシュさんの持ってきたものは殆どお礼の品だったようだ。


麻袋を開けて中身が米だった時、二人で抱き合って喜んでしまった。

正直なところ他のお礼の品も嬉しかったけど、肉食が続き、米に飢えていた俺たちからすると天の恵みだった。

相手も米に喜ぶのは予想外だったのか戸惑いながらも微笑んでくれていた。


アッシュさんがベルトの付け方や、革と木製の盾の使い方を教えてくれる。

なるほど、これだったら槍を構えながらも敵に向かって行けるな。試しに四次元収納ポーチから槍を取り出して構えてみる。あれだ、なんか『イッツ!スパルタン!』的な感じになってる気がする。ギリシャ的な文化なんだろうか……

またもやアッシュさんの表情が固まってる? 

なんでだ?


ナオエさんと二人で手分けして四次元収納ポーチにいただいたものを入れていく。アッシュさんの表情がまた面白かった。アスティナさんは知らせていなかったようでクスクスと笑っていた。めちゃくちゃ可愛いんですけど……種族を超えた魅力を感じる。

ふと、気が付くとナオエさんの俺を見る視線がなんかジトっとしていた。


収納を終えると、アスティナさんが身振り手振りで質問をしてくる。

何かを頑張って伝えようとしているので、それに応えるべく絵を描いたりして意思疎通を頑張ってみる。


どうやら、俺たちと出会う前に、俺たちじゃない探検家のベストを着た人に襲われたらしい。

目的が分からなくて困ってるみたいだった。

そりゃ、現地の人から見たら……空から突然降ってきた異世界人達が殺し合って、魔獣を狩って、さらには自分たちにも攻撃してくる……って、考えてみるとはた迷惑な話だな……天災レベルだな。

いきなり襲ってくる相手もいれば、助けてくる相手もいる……となると、確かに判断に迷うだろう。


「どうしよう? 解説した方が良いのか?」

「うーん……黒結晶の事だけは誤魔化した方が良いかもね」

「ああ、たしかに……観光ガイドを見る分にはご神体の可能性あるよな……中央の山に向かうくらいにしておくか……」


とりあえず頑張って図解をしてみる。

地球みたいな星を二つ描いて……っと、なんか神様みたいなもの描いて……人沢山描いて……矢印てこっちに来た……パラシュートも描いて……

んで、探検家ベストを着た人が戦う、山刀打ち合う感じで良いか……んで山に向かって……一人になったら勝っている的なポーズをとらせればいいか。


「……物凄く上手ね……中学の時よりもうまくなってる……」

「あ、俺、進路美術系よ?」

「……そうだったのね……高校でそっちの道に行ったのか……」


鬼人族の二人も感心しつつも、驚いている感じだった。

アスティナさんとアッシュさんが何やら真面目な顔で話し合う。もちろん言葉がわからない。だが、急激に敵意をこっちに向けるわけでも無いので……あれ、これってどう伝わるんだ?


「うーん。いきなりこれを描かれても……良く分からなくなっちゃうかもね……」

「……まぁ、参加してる俺らもわからないからな……」

「確かに……探検家のベストがたくさんいるって事が伝わればいいのか?」


鬼人族の二人が相談をし終えると、アスティナさんが、絵を差しながら、探検家のベストを着た人間の事について聞きたい様だった。

知りたいのは……要するに探検家のベストを着た人間が「全員が敵?」って感じだな。

俺は、探検家のベストを着た人間が、戦うのが好きな人、逃げる人。戦うのが嫌い……などの行動を書いてみた。

俺は逃げてる方……ってのも一応アピールしておこう。

こんなマッチョで武闘派っぽいアッシュさんと、氷の魔術を使えるアスティナさんと戦いたくないもんな……全然スキルレベルもステータスも上がってない状態だから殺されそうだよね……すぐに……


「もしかして、この探検家のベストを着ていると……敵認定されるかもね」

「……たしかに……」

「あとでもらった服に着替えるか」

「そうね、少し目が荒いけど、あの廃村のものよりはかなり質が良いから大丈夫ね」


アスティナさんがこの辺で狩り? 探索? をしていたら、探検家のベストを着た人間に何か、槍を投げられて傷を負ったらしい。

あとは、なんか……良くわからないが、おそらく違う探検家のベストを着た人間が集落に来て物を盗んでいったり、収穫前の米を持って行ったり……色々と悪さをしてるみたいだな……

困ったな……

思い出してみると最初にアスティナさんと出会った時って物凄くこっちをにらんで怖かったもんな。


俺は探検家ベストを着た人が、100人よりもたくさん……点を打って表現してみた。

鬼人族の二人はマジかよ!? みたいに驚き、また二人が何やら話し合いを始めていた。


「困ったね……鬼人族と暮らす……ってのも、かなりの障害がありそうね」

「そうだね、見る限り、髪の毛が黒……ってのも目立ちそうだし、そもそも俺たち角が無いもんなぁ……」


ナオエさんは二人の鬼人族を見ていた。

アスティナさんは美しい白銀。アッシュさんは綺麗な灰銀色。黒の要素が全然ないな……

アスティナさんの肌の色は白い感じだけど……アッシュさんはメキシコ人ばりに日焼けしてるし……うーん、溶け込めるのか?


「俺たちのサバイバルライフはしばらく続きそうだね」

「そうね……」


俺は暇だったので、貰った盾を振り回して、操作感やフィット感を見ていた。思ったより軽いな……木と皮の混合って感じか……ん? 遠くの方で人影? ……妖魔か?


目を凝らした瞬間、何か「嫌な感覚」が俺の首元に集中していく。

その瞬間、足元の岩が唐突に『伸びて』俺の前を塞ぐ。ナオエさんのスキルか??


ガキィイイン!!!!!


「な、なんだ??」

「木の陰に!!」

「わかった!!」


槍の飛んできた方向から隠れる様に大木の陰に隠れる。

鬼人族の二人もすごい勢いで大木の陰に隠れ、アスティナさんは弓矢の準備を、アッシュさんは山刀を抜いて盾を構える。後ろの手で何やら玉の様なものを取り出す。四本腕って便利だね……


『########! スキル##########アッシュ!!』

((この前の不思議な槍投げね! 『スキル』だから気を付けてアッシュ!))

『#####! 『スキル』……################!』

((承知しました! スキル……例の得体のしれない攻撃ですね!))


俺の立っていた場所には妖魔の槍の先端が割れてぽっきりと折れた状態で転がっていた。

槍か……もしかしてあの槍投げ君か?? ってか問答無用かよ!! 話し合いしないの??


「……ありがとう、ナオエさん!」

「どういたしまして! まだいるよ! 警戒して!」


ほんと耳がいいよな……ナオエさんが投げてくる槍を察知してくれなかったら、俺の首を貫いてたのか……支給品の薬でなんとかなるもんだったんだろうか……無理だろうな……


俺は死がかなり近かったことに気が付き、背筋がぞっとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る