第19話 初めての休日

9日目


夜に降り続いていた雨も空が明るくなるにつれやみ始め、朝になると晴れていた。

雨に濡れた葉っぱに森全体を照らす朝日が水滴を反射してキラキラとしていた。ものすごく美しくて、思わず見とれる程だった。


「綺麗ね……」

「うん……絶景だね……」


しばらく景色を見続ける。サバイバル&バトルロワイヤルをしているのを忘れてしまっていた。

なんか彼女と旅行をしてる気分になってきた。ナオエさんの横顔を見るとドキドキしてしまうのだが……ああ、若返ってるから本能に忠実になっちゃったんだろうか?


考えてみると、ナオエさんの中学卒業後……の話は全然知らないな……結婚してるんだろうか? 

成人式の同窓会には出たっぽいけど……同窓会に無理にでも出ておけばよかったかなぁ……ってか、別に嫌われてたわけじゃなかったんだな……むしろ好意的な感じだし……はぁ、あのモヤモヤとした中学生3年の後半はなんだったんだろう……ってか今更聞く必要も無いか。


俺はスキルとログを確認する。


**********************

スキル:『固定』 

スキルレベル:3.2  

使用可能容量:1650/3120㎤

SP:99%

**********************


容量が3リットルか……分割数もかなりあげられるし変形もできるな、スキルレベルが3を超えたからなにかあるんだろうか? 説明文を読んでみるが……いつの間にか読める部分が増えてるな。


**********************

スキル:『固定』

・任意の空間を固定できる。

指定した座標と形状の範囲を完全に『固定』できる。


・ワールド座標固定 

ワールド座標の位置を指定して『固定』できる。『固定』したものは動かせない。


・ローカル座標固定 

物の位置の座標を指定して『固定』出来る。『固定』は物の動きに追従する。


・形状変化 

スキルレベルに応じて『固定』する形状を変化させることが出来る。

『固定』後の激しい形状変化は不可

複雑な形状は最初からイメージする必要がある。

      

・対象:生物 

プレイヤーと相手のスキルレベルと生命力の差によって消費SPが増える。

プレイヤーとの相手の生命力、魔力の差が高い場合はかかりにくい場合があるので注意


・対象:物質 

魔力、生命力がないものに関しては無条件で『固定』することが出来る。

物質が魔力を持っている場合はSP消費が大きくなる。


・距離 

スキルレベルによって発動させる事の出来る距離が増える。

距離を増やすことにより消費SPが増える。容量により消費SPが爆発的に増えるので注意。


・容量 

使用可能容量を超えた容量の出力が可能。消費SPが爆発的に増えるので注意。

**********************



うーん、これってステータス上げれば、生物も簡単に『固定』できるってことか……化け物みたいなステータスになれば、どんな敵も『固定』できちゃうってことだよね……魔獣とか、妖魔を狩りまくるしかないのかなぁ……


ついでに昨日のログの方も見てみる。

プレイヤーによる死亡3人。落下死一人。現地人により死亡2人。妖魔一人……

現地人って、あの海賊とか、鬼人族に手を出して返り討ち……とかだったのかな? 

プレイヤーは何人いたんだろ……パラシュートの数から考えると100以上は確実だけど……1000人くらい送り込まれてるのか?


【プレイヤーの残り人数は非公開だそうです。残り100人からカウントを始めるそうですよ】

「……ほんとカミはゲーム好きだね……100人以上は確定なのか……」

【……あ】


俺は何気なく、宿場町跡で見つけた島のガイドを広げてみる。

この感じだと、中央の山の方が神殿、本堂的な感じで栄えてたっぽいから……そっちに行くと大変なんだろうな……バトロワしながら、魔法も使えるっぽい強い現地人と戦う……無理ゲーだな。食事とか睡眠とかトイレはどうしてるんだろう? 色々と謎だ。もしかして徒党を組んでチーム戦になってる?

うーん。生き残るためにも中央の情報が欲しい。


昨日のクマ尽くしでお腹が割と膨れていたはずだが、一晩眠ったらまた腹が減る。大量のクマ串を焼きながら手持ちには無いパンと米が欲しい……と本気で思い始めていた。


「朝から肉……贅沢だけど穀物が欲しいね」

「そうだね……物々交換できないかな……」

「海水塗るのも良いんだけどね……」

「海水から塩も作っておけばよかった」

「あの巨大イカもずっとあそこにいるわけじゃないし……たまには戻ってみる?」

「それも手なんだろうなぁ……でも、違う海岸探すでもいいかも。大物が入ってこない小さな海岸とか?」

「この辺岸壁だらけよね……リアス海岸ってやつなの?」

「そうかも」


岩棚の上から周辺を観察する。川の増水で濁ってるな。今日は水汲みと洗濯は無しだなぁ……せっかくだから下着も洗いたかったんだけど……

あんまり靴を泥だらけにもしたく無いし……


「サバイバル本によると、芋的な、ジャガイモっぽいものが自生してるみたいだけど……」

「探しに行くの?」

「……雨も上がったけど……」

「うーん。どうしよう……泥だらけだよね、靴がすごく汚れそうだ」

「……今日は休んでおく?」

「たまには良いような気がするね」


危険が無いと怠惰になるのだろうか? 支給されたハンモックと丸太を『固定』し二人でのんびりしていた。サバイバル本やマニュアル本を読み、いままでのログを確認していた。


ん?

ふと俺は気が付く。

もしかして拠点としてここは最高では? 鳥系の魔獣はまだ見たことがないし、魔獣も妖魔も来ないし、巡回している妖魔も近づいてこれない! 凄い安心感なんだけど!


「ねぇ……不動君……」

「ん? どした?」

「私たち、いいのかしら、こんなにゆっくりして……」

「いいんじゃないの? なんだかんだで疲れるし……魂をコピーとか言ってたけど、なんかそのままこっち来た感じだしさ」

「そうだよね……魂のコピー……体もコピーなのかしら?」

「あー、どうなんだろ? アーゼさん?」


【その問いには答えられませんが、ほぼ地球の遺伝子情報から作成した……と言う事になっています】


「なるほど……ほぼ、コピーらしい」

「そうなの……それじゃぁ……その、この世界で……あの、いや、いいや……」


うーん、何が言いたかったんだろ? 

……やっぱりあっち系か? 性欲的な? たまにナオエさんの視線からメス的なものを感じるし……こっちもオス的な視線をしょっちゅう向けてるし……今のコピーの体に生殖機能は……あるからなぁ……子供は出来るんだろうか? 謎だらけだ。


【同じつくりになっていますので、おそらく出来るかと……】


……マジか……


「ねぇ、どうやれば最後の一人……一番スキルを持ったプレイヤーになれると思う?」

「……え、ん? ああ……頑張って他のプレイヤーを倒していくしかないんじゃないの?」

「そうだよねぇ……やっぱり賞金獲得を目指すのが現実的か……」

「それか強い人達が戦っているところの決着ついた瞬間狙ってグサリと……漁夫の利狙うとかかな」

「……え? カタシ君らしくない発想ね……」

「バトロワ系ゲームだよとよくある事だからね。最後の方で強いやつ同士が爆発して相打ちになっちゃって、引きこもってたら生き抜いちゃって一番! 的な……」

「なるほど……そう言う場合もあるのか……諦めたら負けね」


なんだろ? ナオエさんはトップをとりたいのだろうか? ってかそこまでギラギラした人じゃないから、スキルを持って帰りたいのかな? たしかに『治す』とか『鑑定』とか『翻訳』が現実にあったらめちゃくちゃ便利だし金もうけできるよね。

ただ、俺はトップを取ることは無理だろうと思っていた。

最初のスキルで当たりを引いた人間の独壇場になっていると思う。


時間に余裕があるので、この島に来た最初の方からメッセージログを丁寧に確認する……凄い量だな、なんかいろいろステータスアップとかもしてたんだ……こっちは細かすぎて計算する気にならないな、なんだ、STR +0.00001アップとか……もう足したくないレベルだ。自動計算機がほしい……


今のプレイヤー総数は出せないかな……ステータスの総数は出せないかな?? 

かな?

【……その手には乗りません】


……うん。アーゼさんが答えてくれないのは変わらないから……せめて脱落者の数を……

お? ログにフィルターかけれるな……すごいな、これは検索がはかどる……計算機はないか……地面にかきかきっと……



9日目

脱落者 総数  36人

魔獣      13人

プレイヤー   13人

妖魔      5人

現地人     2人

転落死     2人

食中毒     1人


脱落者が36人か……確か……9日目だから、一日当たり4人……もちろん日が進むと減ってくるだろうから……うーん、100人以上いるとして2~3か月はかかりそうだな……その前に黒結晶とやらを破壊すればいいのか?


俺たちはそれからもスキルの練習をしながらだらだらと過ごし、昼ごはんの後は昼寝なんかもして、本気の休日になっていた。

頭の奥の疲れなんかも取れた気がする。睡眠って重要だなぁ……


コンッ!!


ふと昼寝をしていると、バリケードの木箱に何かが当たる音がする。


「ん? なんだ?」

「石の当たる音……?」


ナオエさんもマニュアル本を四次元収納ポーチにしまいながら立ち上がる。


コンッ!


石か何か当たってるのか? 

俺は崖の上と空を見たあと崖下を覗き込む。するとそこには昨日助けた鬼人族のアスティナさんと、鬼人族っぽい……なんか腕が四本あるごつくてとても強そうな鬼人族が荷物を背負って崖下に来ていた。

表情を見る限り、アスティナさんはなんかうれしそうだ。会いに来てくれたっぽいな。

俺は手を振って気が付いたことを相手に示す。


「ナオエさん、アスティナさんがきた。友達連れてたけど……物凄く強そうな……」

「え? 昨日の今日で?」

「集落が近いんじゃないかな?」

「……一応警戒して降りましょうか、言葉が通じないのが厄介よね……アスティナさん以外は何を考えているかわからないし」

「ヤバかったらここに戻れば良いんじゃない?」

「……うーん。見る限りだと……頑張れば登れちゃうけどね……」

「その時は『固定』で相手の靴を固めて落とせばいいんじゃないの?」

「たしかに」


ナオエさんは最初に出会った時の悲壮感が無くなり、ずいぶんとポジティブになったな……と感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る